「ま、当然です。無駄なものは嫌いな性分でしてね。不要な支出を削り、投資ファンド的なモノを立ち上げ、わずかな時間で彼らの無駄を排除しただけのことです」
榊原は謙遜するが、その表情には微塵も謙虚さが見えない。
しかし、彼の言う無駄――という言葉が、フォルジェ王国から王子様であったアレクシスを追い出した要因の一つなのかと、私はゾッとした。
「そして、その過程で、私はお約束のように魔法というものにも開花しまして。両方の世界を自由に行き来できるようになりました。現在フォルジェ王国では大賢者と呼ばれ宰相の真似事をしておりますが、いずれ日本に戻ることを視野に入れ、こちらにも経済活動の拠点を築いておいたのです。リスクマネジメントは基本ですから」
榊原は眼鏡をくいっと上げ、至極当然のように言った。
「私がアレクシス様の日本への逃亡を手引きしたのは、王国内の権力闘争に巻き込まれて命を落とすのが、『無駄』だと判断したからです。彼には彼の役割がある。しかし、まさか、アレクシス様が――貴女様と理解しがたい師弟関係を築き上げていたとは、完全に計算外でしたね」
榊原の言葉に、私は深く納得した。
彼にとっては、アレクシスが生き延びることが最優先事項であり、そのための最善策だったのだろう。
しかし、アレクシスは、少し不満げに口を尖らせている。
「理解しがたいとは失礼だな。俺は『伝説の料理人』として、故郷を救う道を模索しているんだ」
「その模索に、私から提供した資金が湯水のように消えているのもまた事実でございます。そして、その『伝説の料理』とやらが、この世界でどのような騒動を引き起こすか、今回でよく理解いたしました」
榊原は冷たく言い放つと、再びタブレット風の石板に向き直った。
彼の言葉は、常に的確で、そして容赦がない。
うん、この榊原という男をネタにするのは少し危険な気がする。
なんとなく。
私の勘が囁きかけてくる。
ぐっとこらえ、私はスタイラスペンをそっと下におろした。
異世界トリッパーの大賢者サマと、異世界の王子サマの出会いそして友情。
そして、巻き込まれの王道をゆく私と担当編集者シリル憑き鈴村君。
私のバラ色ひきこもり生活はもはやとんでもない闇鍋に飲み込まれはじめている。



