王子サマはBL漫画家(わたし)の部屋にパラサイト中


しかし、それ以上に私の頭を占めていたのは、その容赦ない言葉を吐き続ける、どっからどうみても日本人らしき黒髪銀地眼鏡の男の正体である。
ネタは幾つあっても良い。
漫画家を生業としている私であるからこそ、此処はしっかりと疑問点を挙げ、解決させておかなければ、のちのち齟齬が出る事になる。

「あの……」

私は意を決して、スマートフォンとタブレット風の見慣れぬ板(石板?)を操作しながら、淡々と指示を出す男に声をかけた。
彼の横では、シリル憑き鈴村君が、身体の震えを必死に抑えながら彼の言葉をメモしている。
アレクシスはというと、既に厨房に戻っている。

「何でしょう」

声をかけられた男は、眼鏡の奥からちらりと私に視線を向けた。
その一瞬の視線にも、有無を言わせぬ圧力を感じる。
こわい。

「あの……榊原向陽(さかきばらこうよう)さん……でお名前合ってます? 日本人……ですよね? なぜ、アレクシスさんと、その……異世界の人と、既知の間柄なんですか?」

私の質問に、当人はフッと冷笑した。

「ああ、その疑問でしたか。簡単な話です。私は、異世界トリップというものを経験しましてね」

「異世界トリップ!?」

私は思わず叫んだ。
まさか、そんなお約束設定ファンタジー小説のような話が、しかもこのいけすかないインテリ眼鏡の身に展開されているとは。
私の隣にいるアレクシスも、異世界から来た王子なのだから、驚くことでもないはずなのに、なぜか現実味がなさすぎた。

「ええ。今から三年と少し前になりますか。気がつけば、私はアレクシス様の故郷、フォルジェ王国にいました。突如として現れた私に、王国は混乱しましたね。彼らは私を『神の使い』などと崇め奉ろうとしましたが、生憎、私は無神論者でして」

榊原は淡々と語る。
その話は、まるでビジネスの成功談みたいな感じ。

「当時のフォルジェ王国は、弱小どころか、文字通り貧乏な王国でした。財政は破綻寸前、国民は疲弊しきっていた。そこで私は、提案したのです。『私が貴国の財政を立て直してさしあげましょう』と」

彼の言葉に、アレクシスが口を挟んだ。

「あの時のコウは本当に凄かった。 誰もが諦めていた王国の財政を、半年足らずで立て直してしまったんだからな」

アレクシスは、心底感心したように榊原に視線をやっている。
彼の素直な賛辞は、榊原がどれほどの手腕を持っているかを物語っていた。