唐突な提案に、私は耳を疑った。
リアルアレス王子としてプロデュース?
料理に関するコンテンツ?
「ちょ、ちょっと待ってください! それは、つまり、アレクシスさんを、インフルエンサーのように……?」
「はい、その認識で差し支えございません。貴女様の漫画の人気を活用すれば、資金調達も容易になるかと存じます。それは強硬派への牽制にもなりましょう。そして何より、アレクシス様の無駄遣いを可視化することで、私が管理しやすくなるかと考えております」
眼鏡の奥で冷徹な光を放つ男は、すべてを計算し尽くしたような表情で言った。
アレクシスは、そんな言葉に目を輝かせた。
「ほう……俺の『伝説の料理』が、この世界の文化に貢献できるというわけか……よかろう、その提案、乗ろう」
アレクシスは、自分が資金調達の道具として利用されようとしていることなど、微塵も気づいていない様子だ。
彼のあの目は、新たな学びと伝説の創造にしか向いていない。
「え、アレクシスさん、話が早すぎます! 私は聞いてませんから!」
私が慌てて抗議すると、横から冷笑と怒涛の長台詞が一気に降りてきた。
「アヤノ様。貴女様には選択の余地がないかと存じます。日本でのアレクシス様のお立場は、部屋の契約者である私の庇護下にございます。そして、貴女様の漫画の『アレス王子』は、そのアレクシス様をモデルにされている。もし真実が世間に知られることになれば、貴女様の連載にも少なからず影響が出るでしょう。それに、この提案は、貴女様の連載のテコ入れにもなるはずです。もちろん、原稿料とは別に、相応の報酬はお約束いたします」
黒髪銀縁眼鏡の言葉は、完璧な正論。
他人の弱点を握り、決して逃がさない。
とすると、当て馬どころか『腹黒ドS系のメイン攻め』のキャラクター設定も合うかも。
彼のその巧みな策略に、私はただ立ち尽くすしかなかった。
シリル憑き鈴村君は、青ざめた顔で力なく頷いている。
「先生……彼の提案は、拒否できません……。ぼ、僕の身体も、これ以上榊原さんの遠隔説教に耐えられそうにありませんし……」
異世界の王子サマ(真)の護衛に身体を乗っ取られた担当編集者、そして堪忍袋の緒が切れた大賢者様(日本人?)によって、まったく新しい、そして想像を絶するステージへと引き上げられゆく私の日常。
一切容赦ない提案に、私は抗う術もなく、ただ打ちひしがれる。
漫画家としての未来は、彼の手によって、予測不能な方向へと舵を切られてしまいそう。



