彼の顔色は、イベント後よりもさらに悪く、目の下には私以上の深いクマが刻まれている。
そして、その表情には、疲労と諦め、そしてどこか悟りを開いたような空気が漂っていた。
彼の身体には、もちろん今もシリルさんが寄生しているのだ。
シリルさんの幽体に取り憑かれている鈴村君は、精神の主導権をシリルさんと共有している状態だ。
紛らわしいので、鈴村君が主体となって発言している時は『シリル憑き鈴村君』と呼ぶことにした。
「先生、原稿の進捗はいかがでしょうか……って、この惨状は……」
シリル憑き鈴村君の視線は、散らかったネームと、その奥で湯気を立てるアレクシスの手元のカップへと向けられた。
「鈴村君も大変ですね……」
私が労いの言葉をかけると、シリル憑き鈴村君は力なく首を振った。
「ええ。そちらの王子サマが、悠々自適な生活を送っていることに関して『私が血の滲むような思いで立て直した王国の財政が、殿下の遊びに消えていくのは断じて認められない』と、恐ろしい声で、毎晩遠隔で説教を受けております。しかも、シリルさんに向けられているであろうその説教は私の身体を通して行われるので、全身に響き渡るんですよ……」
シリル憑き鈴村君の身体が、ブルブルと小刻みに震えている。
傍迷惑な同居人に取り憑かれていて、気の毒すぎる。
アレクシスが、どんよりとしている私たちにはおかまいなしに、意気揚々とこちらへやってきた。
「ちょうど良い所に来たな、スズムラ=シリル。この芳醇な香りを味わってくれ。抽出する際に、水と光の魔力を混ぜ込んだ逸品だ」
得意げに彼の差し出すコーヒーカップを受け取ろうとした、その瞬間だった。
「いい加減にしてください」



