王子サマはBL漫画家(わたし)の部屋にパラサイト中

会場の騒動は、異世界産の魔法によってあっけなく収束した。
なるほど、魔法とは大変便利な代物である。

たいへん夢があってよろしい。
私も魔法を使いたい。

榊原向陽なるあからさまに日本人名を持つ、異世界より来訪した大賢者サマの指示を受けたシリルさん(身体は当然鈴村君)が、人々の記憶に軽微な撹乱魔法をかけ『あれは最新鋭の特殊効果』と認識させたのだ。

おかげで会場は熱狂そのままにイベントは滞りなく進行し、私も編集部の皆様から「先生、大成功です! 連載、このまま新展開に突き進みましょう!」と、嬉しいけれど手放しでは喜べない連絡をもらうことになった。

あれから数日。
私の部屋は再び、修羅場と化していた。
そう、原稿の締め切りは明後日だというのにも関わらず、リビングのテーブルには書き散らされたネームが散乱し、タブレットからはペンの擦れる音が響く。
私はすっぴん眼鏡に加え目の下にはクマを作り、カフェイン漬けの毎日だ。

「何か困っているようだな。『伝説のコーヒー』で、君の疲れを癒してやろうか」

そんな私の横で、アレクシスはご機嫌な様子でコーヒー豆を挽いている。

あのイベント以来、彼は殊更に料理への情熱を燃やしていた。
今朝も『攻めのオムレツ』だとか『受けのベーコン』だとか、BL用語を駆使した謎の創作料理が食卓に並び、私の視覚を責めたててくる。

「アレクシスさん、ありがとう。でも、今は集中したいから……」

疲れた声で断る私に、彼は少しだけ肩を落とした。

その時、ドアのチャイムが鳴った。

「どうぞー」

返事をする声もなく、扉が開く。
そこには、私の担当編集者である鈴村君が立っていた。