「シリル。コウ……大賢者は、この状況について何か伝言を寄越してないのか?」
アレクシスの問いに、鈴村君の中に宿るシリルさんが眉をひそめた。
『それが、先ほどから通信が不安定でして……電波感知状況がよろしくないようです』
その瞬間、鈴村君のスマートフォンが、けたたましい音を立てて鳴り響いた。
画面には「榊原向陽」の文字。
慌てて通話ボタンを押したのはシリルさんなのか鈴村君なのか、最早訳が分からない。
「シリル、聞こえていますか。極力目立たぬように言っていたのにも関わらず、随分と派手なことをしてくれたものですね、全く」
電話口から響いてきたのは、どこか冷たく、しかし圧倒的な存在感を放つ男の声だった。
その声には、私の知らない威圧感が含まれており、思わず身構える。
アレクシスも、その声を聞いてわずかに表情を引き締めた。
『申し訳ございません……。まさかアレクシス様があんな魔力を……』
「その報告は後で結構です。それよりも、現地の状況はどうなっている。まさか、世間に我々の存在、および魔力が漏洩したなどという愚かな真似はなさってはいないでしょうね?」
スピーカーにしていないのにもかかわらず響き渡る男の声は、言葉の端々に毒を含みながらも、非常に冷静だった。
まるで、すべてを計算し尽くしているかのような響きがある。
「いえ、幸い、この世界の人間には、魔力や魔法陣を認識できる者は稀なようです。ただ、『演出が凝っている』と受け取られている模様で……」
「それは結構。だが、王子殿下の『伝説の料理人』という突飛な奇行には、私もそろそろ辟易して参りました。早急に王国の状況をご説明し、今後の殿下には己の身の振り方を真剣にお考えいただく必要がございます」
矢継ぎ早に繰り出される言葉に、アレクシスが口を開いた。
「コウ! 俺を帰すつもりか? この地で『伝説の料理』を極めることこそが、故郷を救うための道なのだと、何度も伝えただろう!」
アレクシスの言葉に、深い溜息が返される。
「アレクシス様、あなたのその独創的な発想には、私も日々驚かされております。しかし、現状、強硬派の動きが活発化しており、これ以上この地でぐうたらとお過ごしいただくわけには参りません。それに滞在費の方も、かなりの額になっておりますので、そろそろ働き方を真剣に考えていただきたく……」
現実的な言葉に、アレクシスは不満げに口を尖らせた。
たかが半年程度だが、私と食事を共にしていた彼にとって、『伝説の料理人』になるという目標は、冗談などではないだろう。
いや、たぶん……。
私は呆然と三人の会話を聞いていた。
まとめると……
私の担当編集者は、異世界の護衛に身体を乗っ取られ、
私の隣に住むイケメンは、本当に異世界の王子様で、
そんな彼の異世界転移を手引きしたのは、大賢者の二つ名を持つ異世界トリップ済の日本人? (仮)
そして、その日本人から、アレクシスは日々ぐうたら浪費生活をしていると思われているらしい。
いやいや、ぐうたらどころか、毎日、料理修行とBL講義で私の精神と胃袋を振り回していたんですけど!?



