会場は、突如として繰り広げられた奇妙な光景に静まり返っていた。
ファンたちは何が起きているのか理解できず、ただ呆然とステージを見つめている。
「シリル……。俺がこの世界に来てから、幾分か経っている。護衛というならば、なぜこれまで俺に付き従わなかったんだ?」
アレクシスは、冷静な声でシリルに問いかけた。
彼の瞳は、担当編集者の頬に浮かぶ魔法陣の紋様に注目しているようだった。
鈴村君の身体がビクッと痙攣したかと思うと、再びその瞳に冷静な光が宿る。
鈴村君――もといシリルさんは、苦労を滲ませた表情で顔を上げた。
『申し訳ございません、アレクシス様。貴方様を密かにお守りするため、大賢者様のお力をお借りし、この世界に身を隠しておりました。私を、ちょうど都合良くその場所に居合わせたこの者に、幽体として送り込んだため、しばし『身体』の制御に時間がかかってしまったのです。強硬派から目を欺くためにも、大賢者様の故郷という選択肢以上の場所は無く……また、兄君、姉君のご意向もありまして……』
その言葉に、アレクシスは静かに目を閉じた。
先ほどまで彼を包んでいた魔法の輝きがゆっくりと消え去っていく。
「強硬派……。やはり、俺の故郷は、まだ争いの渦中にあるというわけか」
憂える表情は、先ほどまでの麗しい王子のものではなく、どこか諦観を帯びたものとなっていた。
私は、今にも停止しそうな思考を全力で手繰り寄せ、極力理解に努めていた。
アレクシスは、ただの世間知らずなイケメン異世界人――この文字列だけでもかなりぶっ飛んでいる内容だが――などではなかったのだ。そして、私の平穏な日常の破壊に加担した存在は、まさかの担当編集者と、その身体に宿る異世界人の護衛(幽体)、そして、その裏にいる『大賢者様』とやらに、一気に増殖した。



