昨今の事情的に、固定電話は仕方ないとして、スマホさえも持っていないという男を、私は自宅の玄関に案内していた。
マスターキーと身分証明書は自宅のどこかにあるというので、犯罪の片棒を担ぐわけでは恐らくないと思いたい。
検索して探した鍵屋はちょうど近くの現場にいるらしく、あと十五分程度で到着すると言っていた。
男に付き合って通路で待つのも面倒だし、コンビニで買ったビールが温くなるのでは無いだろうか、という不安もあった。
主役級のイケメンをちょっと明るい所で見てみたいという好奇心も、少しあった。
通路で拾ったイケメンは玄関横の壁に少し凭れ掛かり、両腕を組んだまま目を閉じている。
彫像のようなその姿を写真で撮影したいという欲求をなんとか抑え、少し離れた所で観察する。
白いシャツに黒いパンツ。
シャツのボタンをもう二つ三つ外した方が良い。
が、私は二次元と三次元の区別を付けられる良い大人なので、極力無表情を保つ。
非常にシンプルな服装だからこそスタイルの良さが際立っている。
上背は恐らく百八十cmを優に超え、シャツの下の筋肉はしっかりとついていそうだ。
ただし裸足というのは、ちょっと頂けない。
うっかり外に出てしまったとか?
このマンションは最先端を行く建築物では無いので、エントランスもオートロックではなく、当然各部屋も手動ロックである。
施錠して外に出たとして、いったいいつ失くしたのだろうか。
というか、裸足で外出したのだろうか?
……こんな時間に?
コンビニに行っていた自分を棚にあげてしまうが、さすがに私だって外出する際に靴は履く。
じろじろと観察している視線を感じたのだろうか、男の瞼が薄く開かれ、自分の爪先へと落とされる。
重たい沈黙の隙間を縫って、低く掠れた声が届いた。
「私は本当に物を知らないのだな……」
どことなく責めるような声音だ。
「いや、でも、日本語お上手ですよ」
あまりの落ち込みように、うっかり励ましたくなってしまう。
訛りのない流暢な言葉は、それを操っている人間を見なければ、日本人が話しているのと変わりがない。
しかし、男は自嘲気な笑みを浮かべる。
「お仕事でこちらに? 留学とか?」
なんとなく続けると、少し考え「仕事……の一環だろうか」と空を睨む。
空気は相変わらず暗く澱み、それ以上の会話を続ける気力が出てこない。
天の助けの様に、私のスマホが鳴り、鍵屋さんが到着したことを知らせてくれた。
マスターキーと身分証明書は自宅のどこかにあるというので、犯罪の片棒を担ぐわけでは恐らくないと思いたい。
検索して探した鍵屋はちょうど近くの現場にいるらしく、あと十五分程度で到着すると言っていた。
男に付き合って通路で待つのも面倒だし、コンビニで買ったビールが温くなるのでは無いだろうか、という不安もあった。
主役級のイケメンをちょっと明るい所で見てみたいという好奇心も、少しあった。
通路で拾ったイケメンは玄関横の壁に少し凭れ掛かり、両腕を組んだまま目を閉じている。
彫像のようなその姿を写真で撮影したいという欲求をなんとか抑え、少し離れた所で観察する。
白いシャツに黒いパンツ。
シャツのボタンをもう二つ三つ外した方が良い。
が、私は二次元と三次元の区別を付けられる良い大人なので、極力無表情を保つ。
非常にシンプルな服装だからこそスタイルの良さが際立っている。
上背は恐らく百八十cmを優に超え、シャツの下の筋肉はしっかりとついていそうだ。
ただし裸足というのは、ちょっと頂けない。
うっかり外に出てしまったとか?
このマンションは最先端を行く建築物では無いので、エントランスもオートロックではなく、当然各部屋も手動ロックである。
施錠して外に出たとして、いったいいつ失くしたのだろうか。
というか、裸足で外出したのだろうか?
……こんな時間に?
コンビニに行っていた自分を棚にあげてしまうが、さすがに私だって外出する際に靴は履く。
じろじろと観察している視線を感じたのだろうか、男の瞼が薄く開かれ、自分の爪先へと落とされる。
重たい沈黙の隙間を縫って、低く掠れた声が届いた。
「私は本当に物を知らないのだな……」
どことなく責めるような声音だ。
「いや、でも、日本語お上手ですよ」
あまりの落ち込みように、うっかり励ましたくなってしまう。
訛りのない流暢な言葉は、それを操っている人間を見なければ、日本人が話しているのと変わりがない。
しかし、男は自嘲気な笑みを浮かべる。
「お仕事でこちらに? 留学とか?」
なんとなく続けると、少し考え「仕事……の一環だろうか」と空を睨む。
空気は相変わらず暗く澱み、それ以上の会話を続ける気力が出てこない。
天の助けの様に、私のスマホが鳴り、鍵屋さんが到着したことを知らせてくれた。



