王子サマはBL漫画家(わたし)の部屋にパラサイト中

アレクシスとの奇妙な共同生活は、私の仕事に予想を遥かに超える影響を、及ぼしていた。
というのも、彼はまさに、生けるBL資料だったから。

表情然り、発言然り、筋肉然り。

あの時、彼がシャツを脱いだ瞬間──私は、その完璧な上半身に息を呑んだ。

筋肉のつき方は当然、骨格のバランス、何気ない仕草に生まれる陰影……。
二次元では再現しきれなかったリアルが、そこには確かに存在していた。

それ以来、私は彼の動きを細かく観察するようになった。

袖をまくって料理をする姿。
ソファでくつろぐ時の長い脚。
料理に失敗してしょんぼりする背中……。

可愛すぎる。
でかい男に対して可愛いというのは、相応しい感想ではないのだが、こうなんていうのか。
典型的な愛され受け、とでも言えば良いだろうか。
私はきっぱりと断言できる。

アレクシスは受け。

「アヤノ。俺の顔に何かついているか?」

タブレット片手にじっと見つめていた私に、アレクシスが首を傾げて訊ねてきた。
その仕草がまた妙に艶っぽくて、私は一瞬、悪い事をしていたのがばれた時のようなちょっとした罪悪感から、目を逸らしてしまった。

「いえ、ついてません。ただ……アレクシスさんって、モデル向きだなと思って」

言うと、彼はほんの少し眉を寄せた。

「モデル……? 俺は伝説の料理人を目指しているんだが」

「いや、その……私の作品のキャラに……」

濁した言葉に、彼の目がぱっと輝いた。

「なるほど。俺が、君の創作に貢献できるということだな。構わない。できる限り協力しよう」

そう言って誇らしげに胸を張る彼。
たぶんこれも異世界の文化を学ぶ一環のつもりなのだろう。
私は内心で思いきりガッツポーズを決めた。

それからというもの、彼の料理修行の合間や食後、私は彼をモデルにスケッチする日々が始まった。
時には、こちらが求めるポーズを真剣な顔で再現してくれる。

「この『壁ドン』というのは、なぜこんな姿勢をとるんだろうか?」

指示通りに壁に手をついたアレクシスが、長い脚で私の退路を塞ぎながら、逃げ場のない距離まで顔を近づけてくる。
その真顔と、迫ってくる美形に私は耐えきれず「ひぃっ」と情けない声を上げてしまった。
漫画ではいくらでも描けるのに、三次元のイケメン相手となると、心臓が持たない。

「いや、アレクシスさん、それは……その……『攻め』が『受け』にするやつで……」

顔を真っ赤にして説明する私に、彼は神妙にうなずき、あろうことかもう一歩、俺のテリトリーだと言わんばかりに踏み込んできた。

「なるほど。では、その時『攻め』はどのような表情をするんだ? 対して『受け』はどんな感情を抱く? 詳しく教えてくれれば、俺はもっと正確に……君を追い詰められるはずだ」

お、追い詰めなくていい!

彼はいたって真剣だった。
私は完全にたじろいでいた。
もはや論文発表の気分である。