心配そうに眉を寄せた彼が、私の顔を覗き込むように身を屈めた。
形の良い長い指がすっと伸びてきて私の頬を包み込み、あろうことか、彼自身の額を私の額へとぴたりと押し当ててこようとする。
甘く掠れた寝起きの声と、至近距離から注がれる蒼い瞳の破壊力。
致死量の色気に、私の心臓は早鐘のように打ち鳴らされた。
彼にとっては、人前で、ましていちおう女性の前で服を脱ぐことや、こうして気遣うように触れることなど、全く特別なことではないらしい。
どんな環境で育ったんだ。
と、唐突に詰められた距離感にびびり散らかしたものの、私にとっては、目の前に広がる光景は、まさに眼福以外の何物でもなかった。
私は震える手で彼を押し除け、反射的に手近にあったタブレットとスタイラスペンを掴んだ。
くそう!
この筋肉、この体つき、この骨格!
まさに私が求めていた「大型わんこ系裏家業(受)」のモデルにぴったりではないか!
ドキドキしている場合ではない、私はプロだ!
「アレクシスさん! ちょっと、そのまま、動かないでください!」
私の声に、アレクシスは不思議そうに眉をひそめた。
「何をするつもりだ?」
「ちょっと、スケッチさせてください! 上半身だけ、ちょっとだけ! 右腕力こめて!」
私は興奮気味に訴えた。
目の前にいるのは、三次元のイケメンではあるが、まさかこんな形でネタが降臨してくるなんて。
これはもう、描くしかないだろう!
据え膳食わぬはなんとやらである。
アレクシスは私の剣幕に若干後ずさったものの、ぴたりとペン先を突き付けられ、やがて諦めたように息を吐いた。
「……わかった。これも修行の一環、なのだな?」
彼はそう言って、ふっと表情を引き締めた。
気高き王侯貴族のような洗練された所作で、無造作に前髪を掻き上げる。
その瞬間、朝の光を浴びた彫刻のような陰影が浮かび上がり、伏せられた長い睫毛が憂いを帯びた色気を放つ。
無自覚に垂れ流される圧倒的なオーラと胸板の厚みに、私はゴクリと喉を鳴らす。
「ありがとうございます! 光栄です!」
私は一心不乱にタブレットを操作し、アレクシスの肉体をスケッチし始めた。
彼の筋肉のつき方、骨格、そしてわずかな動きで変化する陰影。
これまでの資料だけでは得られなかった生きた情報が、今、私の目の前にある。
「アヤノは、絵を描くことが本当に……」
アレクシスが、感心したような声で呟いた。
彼は、私が絵に集中している間、微動だにせず、まるで彫像のように立っていた。
「ええ、もう大好きです! アレクシスさん、本当に素晴らしい素材です! 大好物の大胸筋! 大好物の二頭上腕筋! あ! 指先の角度もそのまま! 血管浮き上がっているの、ものすごーーーくいいいいいいい」
この日の朝食は、結局、簡単なスクランブルエッグとトーストになった。
とはいえ、私にとってそれは、何よりも価値のある取材成果があった朝食だ。



