王子サマはBL漫画家(わたし)の部屋にパラサイト中

翌朝、私はアレクシスが当然の如く、キッチンに立つ姿を目の当たりにして、昨日の出来事が夢ではないことを痛感した。
彼に「食料庫と厨房になってもらわねば困る」と言われた時、まさかこんなに早く、しかもこれほどまでにリアルな形で実現するとは思わなかったのだ。

「なるほど……これが『伝説の朝食(・・・・・)』というものか」

アレクシスは、フライパンを手に、意気揚々と卵を割ろうとしていた。
が、その勢い余って、卵は彼の白いシャツの上で無残にも弾け飛んだ。
黄身と白身が、まるで抽象画のようにべっとりと付着する。

「あーっ! なにやってるんですか、アレクシスさん!」

私は思わず声を荒げた。
彼が着ている、あのシンプルな白いシャツは、たぶん一般家庭の洗濯機では対応不可能レベルに上等なやつだ。

「す、すまない……。卵とは……こんなにも……。思った以上に柔らかくて……」

しゅん、と肩を落とし、しょんぼりするその姿は、まるで叱られた大型犬の子犬である。
王子様然とした態度とのギャップが激しい。

「ちょっと貸してください!」

フライパンを取り上げ、流し台に置くと、アレクシスは再び困ったように眉を下げた。

「とにかく、その服、汚れてるから着替えてください。予備の服、ありますよね?」

「服は……まだ箱の中だ。しかし、この服はもう着られないな」

彼は自分のシャツを悲しげに見下ろしている。

洗濯すれば着られますから。
否、今までの発言を鑑みると、もしかして洗濯するという概念が存在していないのかもしれない。
異世界から来たうえ金銭感覚もぶっ飛んでいると思われる彼に、今度は洗濯の概念までも教えてないといけないのだろうか。

「仕方ない……。じゃあ、これ着ててください」

私はクローゼットから、自作品とコラボした際に限定的に作成したグッズでもある大きめのTシャツを引っ張り出した。
一応男性キャラの等身サイズに合わせて作成したものなので、彼なら問題なく着られると思われる。

アレクシスは無言でTシャツを受け取ると、その場でシャツを脱ぎ始めた。

「ちょ、ちょっと! ここ、私の部屋ですよ!」

私は慌てて顔を背けた。
目の前で繰り広げられる、まるで映画のワンシーンのような肉体美。
締まった腹筋、盛り上がる上腕二頭筋、そして広がる背中。
シンプルながらも、鍛え抜かれた筋肉が、Tシャツ越しでもはっきりと見て取れる。

「どうかしたか? アヤノ。顔が赤いぞ」

きょとんとした顔のまま、アレクシスが一歩、また一歩と距離を詰めてくる。
長い脚が踏み出されただけで、彼の高い体温と、微かに漂う上品な香りがふわりと私を包み込んだ。
逃げ場を失った私の目の前に、引き締まった胸板が立ちはだかる。

「まさか、熱があるのか?」

「!?」