収納扉の取っ手が後頭部を直撃し、その反動で、禁断の扉が開かれる。
そのままの勢いでつい中の棚に腕をついた。
内部を平行に仕切っていた一枚板の留め具が外れ、どさどさどさ、と並んでいた書籍が床へと落ちた。
アレクシスは不意打ちで襲われた事態に、その大きな掌で顔半分を覆い、瞠目していた。
声を完全に失ったらしい。
いかがわしい気配を漂わせていたアレクシスと私の間を切り裂くよう、成人男性同士が愛を語り合う、実に耽美な見開きのイラストが、これでもか!といった具合に、存在感を際立たせていた。
「これが私の仕事です。職業、BL漫画家なんです」
「びーえる、まんがか……」
ふるふると美しい蜂蜜色の髪を震わせ、アレクシスは芝居がかったように、両手を床に押し付ける形で項垂れた。
ナイスポーズ。
尻のライン最高。
「男性同士の恋愛模様のすったもんだを題材にしているんです。理解するのは難しいと思いますけど」
「理解……その、男色というものだろう? それは知っている」
――ん。
「もしやそういう経験が有ります!?」
思わず身を乗り出した私に対して、アレクシスはびしっと姿勢を正し両掌をこちらに向けた。
「いやっ、無い。無いぞ! そ、そういうのが好きな御仁が居るのは、居るのは……」
「身近にいらっしゃるんですか!?」
詳しく聞きたい。
アレクシスレベルの顔面偏差値を持っていると、尚良い。
「軍などは男所帯で、そういう話も、あると……」
「軍! 軍隊があるんですね! 軍服っっ! とても良いですねえええ」
「お、落ち着け」
「アレクさんも軍に所属した事があるんですか?」
「いや、私は無いぞ! そして私は異性愛好者だ! 目が座っているぞ!」
胸を張り、片手を挙げまるで宣誓するかのような姿勢。
そこまで主張してくれなくても大丈夫。
二次元での出来事だからこそ愛でられるのだ。
三次元だと生々しすぎて、頂けない。
「べ、別に、そのアヤノは実は男性という訳ではないんだな?」
「私は生物学上は女性で、異性愛好者です」
探るように問う蒼い瞳が、あからさまにほっとした色を宿す。
「それは行幸だ。しかし……」
「世の中には、こういう世界を俯瞰して眺めるのが好きな方も居るんです。需要と供給。私は職業として提供する側ですよ。勿論、嫌いでは無いですけど。深くハマっている訳じゃないです」
「成る程……」
「たぶん」
「たぶんっ!?」
アレクシスの持参してきた葡萄酒は、アルコール濃度がかなり高めの感触だったのだが、彼は私が書籍を片付けている間に、すべて飲み干してしまったようだ。
ほんわりと赤い首元は、ボタンが理想的な位置まで外されていた。
自棄になったように床に直接片膝を立てて座っている姿は、美しい。
テーブルに頬杖をついて、理想の角度から鑑賞させてもらっている。
流し目を受けて、微笑んで返せるくらいなんだから、私もやっぱり酔っていたのだろう。
うむうむくるしゅうない。
眼福である。



