柚葉はチェックアウトを済ませ、支配人やスタッフに挨拶して、ホテルの送迎バスで鵜方駅へと向かった。
鵜方駅前に到着すると、あらかじめ手配していたレンタカーの店舗で手続きを済ませ、コンパクトカーのキーを受け取る。
予想を裏切るような、ちょっと派手な真っ赤な車だ。自分では選ばないから、たまにはいいかも。
ナビを鳥羽の浦村エリアの本日の宿「料理宿はなむら」にセットして走り出した。京都ではあまり運転する機会はないが、出張先で車社会の土地に行った時にはいつもこんな感じだ。鳥羽には毎年のように来ているため、そこそこ土地勘があるから、気負わず運転に臨む。
パールロードに入ると、木々の向こうに海が見えた。カーブを抜けるたびに景色が開け、冬の陽を受けた水面がきらきらと光っている。久しぶりの海に、柚葉の肩から少しだけ力が抜けた。
温泉宿へ向かう途中、小さな洋菓子店が目に入った――こんな所あったっけ?
そういえば、明日は朝が早く朝食をスキップすることになっている……。柚葉はひらめいた。朝食用に何か買っておこう、と思い立ち寄る。ちょうど駐車スペースも空いていた。
店内に入ると、焼き菓子がズラーっと並んでいる。ショートブレッド、ラングドシャ等保存が出来そうなものも。気になったのは、レモンのマドレーヌだった。多分間違いない。
けれど、ショーケースの端に「期間限定」の札とともに並んでいた栗きんとんのモンブランと、目が合ってしまった。和栗を使っていると、小さなポップに書いてある。
期間限定には、昔からめっぽう弱い。
「今日はこの子に決めた」
気づけば、マドレーヌではなくモンブランを、店の紙箱に入れてもらっていた。ついでに、自家焙煎だという豆のドリップコーヒーも一杯分頼む。お湯を注げば飲めるから、旅行者にはちょうどいい。
紙袋を提げて車に乗り込もうとした時、やっぱり、赤い車が思いのほか可愛くて、気分が上がる。
そのまま予約していた鳥羽の宿「はなむら」へ向かい、アーリーチェックインの手続きを済ませた。ここは小さな宿で、内湯に温泉が引かれていたり、新鮮な海鮮が食べられる小規模な施設だ。
部屋に荷物を置き、ケーキ箱を冷蔵庫に入れ、車も宿の駐車場に預ける。これで、心置きなくお酒が飲める。
持ち込み用のドリンクとミニ調味料、ナイロン手袋、割り箸、おしぼりをバッグに入れて、防寒用のコートを羽織り、宿を出て潮風の吹く道を歩いた。十二月にしてはそんなに寒くなくて、潮の香りもいい感じ。鳥羽に来たんだなーと実感が湧いてきた。
十分ほど歩くと、海沿いに建ち並ぶ牡蠣小屋から、香ばしい炭火の煙が立ち上っているのが見えてきた。予約時間より早く到着したから、店先で待つ。外の水槽には牡蠣が沢山準備されていて、焼き場担当の方が忙しそうに牡蠣を焼いている。
数分後、時間になったので、牡蠣小屋の暖簾をくぐる。
入店時に受付で名乗ると、二人がけの席に案内された。隣のテーブルでは常連らしき夫婦が、持ち込みのドリンクや調味料を木製の机に並べ始める。
柚葉も小さな調味料、昨日、隙間時間に買っておいた伊勢産のレモンをカットしたもの、自社の小さな辛口白ワインボトルと炭酸水も並べる。
続々とグループ客とカップルで店内は埋まっていった。入れ替え制なので、回転はとても良い。店員がテーブルを綺麗にすると、次々と客が入店する。
ここは、一時間半の食べ放題制なのだ。牡蠣以外は持ち込み可となり、価格はだいたいどこの牡蠣小屋も三千円前後。焼き牡蠣のみだとさらに安くなるが、柚葉は蒸し牡蠣派だ。
まず生牡蠣を六個注文した。食べ放題プランだけど、焼き牡蠣と蒸し牡蠣のみで、生牡蠣は別料金である。あとは、食べたいものを別途頼んでおく。その中でもアヒージョセットはマストだ。小さな蝋燭の上で、アルミの容器に入ったオイルが温められているやつだ。大蒜、牡蠣のほか、ミニトマト、パプリカといった野菜は変わるような気がする。それと、トーストしたバゲットスライスも添えられている。
他のテーブルをチラ見すると、牡蠣飯、牡蠣フライを注文されている方が多い。
予約時に生牡蠣希望だと伝えていたからか、すぐ出してもらえた。鮮度が大事だから、さっそく食べなくては。持ち込んだ白ワインと炭酸水を同量タンブラーに手早く注ぎ入れてスプリッツァーを作り、生牡蠣にレモンを絞って、いざ実食。生牡蠣を食べるルールとしては殻に口をつけないことが重要だ。当たりにくくなるらしい。
店員にも注文時に、「今日って体調悪くないですよね?」と毎回確認される。当たったことない人でも、体調が優れないと当たってしまうらしい。柚葉はたぶん大丈夫……だと思う。
一つ目の牡蠣を割り箸で口に運んだ瞬間、ミルキィで芳醇な磯の香りが舌に広がり、海中を泳いでいるような浮遊感に包まれる。一年ぶりのこの食感と風味に、思わず感動してしまう。喉の奥に飲み込むのが勿体なくて、しっかりと味わってから、スプリッツァーで後味を流し込んだ。鳥羽の生牡蠣は本当に癖がなく、レモンをかけるだけで味わい深い。
そして、懐かしいフランスの記憶へと誘われていく。
鵜方駅前に到着すると、あらかじめ手配していたレンタカーの店舗で手続きを済ませ、コンパクトカーのキーを受け取る。
予想を裏切るような、ちょっと派手な真っ赤な車だ。自分では選ばないから、たまにはいいかも。
ナビを鳥羽の浦村エリアの本日の宿「料理宿はなむら」にセットして走り出した。京都ではあまり運転する機会はないが、出張先で車社会の土地に行った時にはいつもこんな感じだ。鳥羽には毎年のように来ているため、そこそこ土地勘があるから、気負わず運転に臨む。
パールロードに入ると、木々の向こうに海が見えた。カーブを抜けるたびに景色が開け、冬の陽を受けた水面がきらきらと光っている。久しぶりの海に、柚葉の肩から少しだけ力が抜けた。
温泉宿へ向かう途中、小さな洋菓子店が目に入った――こんな所あったっけ?
そういえば、明日は朝が早く朝食をスキップすることになっている……。柚葉はひらめいた。朝食用に何か買っておこう、と思い立ち寄る。ちょうど駐車スペースも空いていた。
店内に入ると、焼き菓子がズラーっと並んでいる。ショートブレッド、ラングドシャ等保存が出来そうなものも。気になったのは、レモンのマドレーヌだった。多分間違いない。
けれど、ショーケースの端に「期間限定」の札とともに並んでいた栗きんとんのモンブランと、目が合ってしまった。和栗を使っていると、小さなポップに書いてある。
期間限定には、昔からめっぽう弱い。
「今日はこの子に決めた」
気づけば、マドレーヌではなくモンブランを、店の紙箱に入れてもらっていた。ついでに、自家焙煎だという豆のドリップコーヒーも一杯分頼む。お湯を注げば飲めるから、旅行者にはちょうどいい。
紙袋を提げて車に乗り込もうとした時、やっぱり、赤い車が思いのほか可愛くて、気分が上がる。
そのまま予約していた鳥羽の宿「はなむら」へ向かい、アーリーチェックインの手続きを済ませた。ここは小さな宿で、内湯に温泉が引かれていたり、新鮮な海鮮が食べられる小規模な施設だ。
部屋に荷物を置き、ケーキ箱を冷蔵庫に入れ、車も宿の駐車場に預ける。これで、心置きなくお酒が飲める。
持ち込み用のドリンクとミニ調味料、ナイロン手袋、割り箸、おしぼりをバッグに入れて、防寒用のコートを羽織り、宿を出て潮風の吹く道を歩いた。十二月にしてはそんなに寒くなくて、潮の香りもいい感じ。鳥羽に来たんだなーと実感が湧いてきた。
十分ほど歩くと、海沿いに建ち並ぶ牡蠣小屋から、香ばしい炭火の煙が立ち上っているのが見えてきた。予約時間より早く到着したから、店先で待つ。外の水槽には牡蠣が沢山準備されていて、焼き場担当の方が忙しそうに牡蠣を焼いている。
数分後、時間になったので、牡蠣小屋の暖簾をくぐる。
入店時に受付で名乗ると、二人がけの席に案内された。隣のテーブルでは常連らしき夫婦が、持ち込みのドリンクや調味料を木製の机に並べ始める。
柚葉も小さな調味料、昨日、隙間時間に買っておいた伊勢産のレモンをカットしたもの、自社の小さな辛口白ワインボトルと炭酸水も並べる。
続々とグループ客とカップルで店内は埋まっていった。入れ替え制なので、回転はとても良い。店員がテーブルを綺麗にすると、次々と客が入店する。
ここは、一時間半の食べ放題制なのだ。牡蠣以外は持ち込み可となり、価格はだいたいどこの牡蠣小屋も三千円前後。焼き牡蠣のみだとさらに安くなるが、柚葉は蒸し牡蠣派だ。
まず生牡蠣を六個注文した。食べ放題プランだけど、焼き牡蠣と蒸し牡蠣のみで、生牡蠣は別料金である。あとは、食べたいものを別途頼んでおく。その中でもアヒージョセットはマストだ。小さな蝋燭の上で、アルミの容器に入ったオイルが温められているやつだ。大蒜、牡蠣のほか、ミニトマト、パプリカといった野菜は変わるような気がする。それと、トーストしたバゲットスライスも添えられている。
他のテーブルをチラ見すると、牡蠣飯、牡蠣フライを注文されている方が多い。
予約時に生牡蠣希望だと伝えていたからか、すぐ出してもらえた。鮮度が大事だから、さっそく食べなくては。持ち込んだ白ワインと炭酸水を同量タンブラーに手早く注ぎ入れてスプリッツァーを作り、生牡蠣にレモンを絞って、いざ実食。生牡蠣を食べるルールとしては殻に口をつけないことが重要だ。当たりにくくなるらしい。
店員にも注文時に、「今日って体調悪くないですよね?」と毎回確認される。当たったことない人でも、体調が優れないと当たってしまうらしい。柚葉はたぶん大丈夫……だと思う。
一つ目の牡蠣を割り箸で口に運んだ瞬間、ミルキィで芳醇な磯の香りが舌に広がり、海中を泳いでいるような浮遊感に包まれる。一年ぶりのこの食感と風味に、思わず感動してしまう。喉の奥に飲み込むのが勿体なくて、しっかりと味わってから、スプリッツァーで後味を流し込んだ。鳥羽の生牡蠣は本当に癖がなく、レモンをかけるだけで味わい深い。
そして、懐かしいフランスの記憶へと誘われていく。



