出張女子ひとりメシ~食いしん坊新人営業の全国グルメ旅~

「小野寺さん、名古屋出張よろしく」

課長からそう言われた瞬間。

私の頭の中に、ある言葉が浮かんだ。

――モーニング。

名古屋。

それは、朝ごはん文化が有名な街。

コーヒーを頼むと、トーストや卵料理がついてくる。

そんな話を聞いたことがある。

「……朝からご飯が楽しめる街」

最高ではないだろうか。

「小野寺さん」

隣の席から先輩の声。

「また食べ物のこと考えてる?」

「えっ」

「顔に出てる」

最近、完全に読まれるようになっていた。

名古屋へ向かう新幹線の中。

私は仕事の資料を確認していた。

今回の目的は、名古屋の取引先との打ち合わせ。

商品の販売状況の確認と、今後の提案。

以前なら、出張前は不安で資料ばかり見ていた。

でも今は違う。

資料の隣には、小さなメモ帳。

そこには、

『名古屋で食べたいもの』

と書かれている。

・モーニング
・味噌カツ
・手羽先
・きしめん

我ながら欲張りだと思う。

知らない街に行く楽しみがあると、仕事も頑張れる気がした。

食べ物のことを考えているとすぐに名古屋駅に到着。

大きな駅。

人の流れ。

東京とは違う活気。

私はまずホテルへ荷物を預け、そのまま取引先へ向かった。

今回の商談相手は、少し厳しいことで有名な担当者だった。

「新人さんですか?」

開口一番、そう聞かれた。

「はい。小野寺美咲と申します」

「大丈夫ですか? 担当を任されて」

少しだけ胸が痛む。

以前の私なら、その言葉だけで緊張してしまった。

でも。

北海道で海鮮丼を食べた夜。

仙台で一人焼肉に挑戦した夜。

新潟で美味しいご飯に励まされた朝。

全部思い出した。

「はい。精一杯ご提案させていただきます」

しっかり答えた。

商談後。

担当者の表情が少し変わった。

「最初は心配しましたが……」

「はい」

「ちゃんと自分の言葉で話せていますね」

その言葉に、ほっとした。

仕事が終わった時の達成感。

そして。

もう一つ。

「さて……」

私は時計を見る。

午後六時。

名古屋の夜は、これからだ。

その日の夜、私は味噌カツのお店へ向かった。

熱々のカツ。

濃厚な味噌ダレ。

ご飯との相性は抜群。

「美味しい……!」

一人なのに、思わず笑ってしまう。

周囲を見る。

会社帰りの人。

観光客。

家族連れ。

いろんな人が同じ料理を楽しんでいる。

料理には、人を近づける力がある。

そんなことを感じた。

そして翌朝、出張二日目。

私は早起きした。

理由は一つ。

「名古屋モーニング!」

ホテルではなく、街中の喫茶店へ向かう。

朝の名古屋。

まだ少し静かな街。

小さな喫茶店の扉を開ける。

「いらっしゃいませ」

店内には、新聞を読むおじさん。

楽しそうに話す常連さん。

落ち着いた空気。

私はカウンター席へ座った。

「コーヒーお願いします」

すると。

店員さんが尋ねる。

「モーニングつけますか?」

「はい!」

即答だった。

しばらくして。

目の前に運ばれてきた。

コーヒー。

トースト。

ゆで卵。

小さなサラダ。

「……」

感動してしまった。

これが名古屋の朝。

朝から誰かが作ってくれた温かい食事を食べる。

それだけで、一日が少し良くなる気がした。

「お姉さん、出張?」

隣の席のおばあさんが声をかけてきた。

「はい」

「大変ねぇ」

「でも、最近は楽しみもあって」

「食べ歩き?」

また言われた。

私は苦笑する。

「そんなに顔に出ていますか?」

「ええ。でもいい顔してるわよ」

おばあさんは笑った。

「知らない街で美味しいものを探すって、素敵なことよ」

会社へ戻る新幹線。

私はメモ帳を開いた。

『全国ひとりメシ記録』

名古屋。

――モーニング。

――朝から幸せになれる街。

そして、新しい発見。

出張は夜だけじゃない。

朝にも、その土地の魅力がある。

東京へ戻ると、先輩が聞いてきた。

「名古屋どうだった?」

「最高でした」

「仕事?」

「もちろんです!」

「……本当に?」

「本当です!」

少し間を置いて。

「あと、モーニングが最高でした」

先輩は笑った。

「やっぱり食べ物じゃん」

私はまた、楽しみを見つけた。

仕事で訪れる街が、少しずつ自分の好きな場所になっていく。

そんな気がしていた。