出張女子ひとりメシ~食いしん坊新人営業の全国グルメ旅~

「沖縄出張、お願いします」

課長からそう言われた時。

私は少しだけ寂しくなった。

「最後……なんですよね」

「うん。今回の沖縄出張が終わったら、ひとまず君の出張は一区切りだ」

最初は少し気が重かった一人の出張。

いつしか、私にとっては大切な時間になっていた。

北海道。

宮城。

新潟。

名古屋。

京都。

大阪。

広島。

香川。

福岡。

それぞれの街で食べた料理。

出会った人。

少しずつ変わっていった自分。

「沖縄か……」

自然と笑顔になる。

最後の街。

どんな味が待っているのだろう。

沖縄へ向かう飛行機。

窓の外を見る。

青い海。

白い雲。

東京とは違う景色。

「同じ日本なのに、こんなに違うんだ」

思わず呟く。

最初の北海道出張の日。

私は飛行機の中で緊張していた。

一人で仕事ができるのか。

一人で食事できるのか。

そんなことばかり考えていた。

今は新しい街へ行くことが楽しみになっている。

今回の仕事は、沖縄の取引先との最終確認。

これまでの出張で学んだことを、全部出したい。

そう思っていた。

打ち合わせでは、相手の話をよく聞く。

相手が求めているものを考える。

一方的に説明するのではなく、一緒に答えを探す。

「小野寺さん、以前よりずいぶん変わりましたね」

担当者の方が言った。

「え?」

「何と言うか、言葉に重みがあって説得力があります」

その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が温かくなった。

仕事が終わった夕方。

私はホテルの近くを歩いていた。

沖縄の街。

ゆっくり流れる時間。

東京では、いつも時計を気にしていた。

次の予定。

締め切り。

連絡。

ここでは、不思議と時間がゆっくり感じる。

「最後くらい、ゆっくり食べよう」

そう決めた。

向かったのは、小さな沖縄料理店。

観光客向けの大きなお店ではない。

地元の人が通うような店。

扉を開ける。

「いらっしゃい」

店員さんが笑顔で迎えてくれる。

「一人です」

もう、その言葉に迷いはなかった。

席につく。

メニューを見る。

沖縄そば。

ゴーヤーチャンプルー。

ラフテー。

海ぶどう。

どれも食べたい。

悩んだ末。

「沖縄そばと、ゴーヤーチャンプルーお願いします」

料理が届く。

まず沖縄そば。

優しいだしの香り。

一口食べる。

「……」

懐かしい。

もちろん初めて食べる味なのに。

なぜか安心する。

続いてゴーヤーチャンプルー。

苦み。

卵のまろやかさ。

具材の味。

沖縄の暮らしが詰まっているようだった。

「出張?」

店主さんが聞いてくる。

「はい」

「どこから?」

「東京です」

「遠いねぇ」

「でも、楽しいです」

「仕事が?」

私は少し笑った。

「仕事もです。でも……」

少し考える。

「その土地のご飯を食べるのが楽しみで」

店主さんは笑った。

「それなら、いい旅してるね」

その言葉を聞いて、私はふと思った。

最初は、ただ美味しいものが食べたかった。

出張の楽しみを増やしたかっただけ。

だけだった筈。

いつの間にか。

料理を通して、その土地を知っていた。

北海道の海鮮丼。

寒い夜に食べた温かい味。

宮城の牛タン。

一人でも挑戦できると教えてくれた味。

新潟のお米。

当たり前の大切さを教えてくれた味。

名古屋のモーニング。

朝を楽しむ心。

京都のおばんざい。

受け継がれる想い。

大阪のお好み焼き。

人と笑う楽しさ。

広島のお好み焼き。

違いを楽しむ大切さ。

香川のうどん。

忙しい毎日でも、自分を大切にする時間。

福岡の屋台。

知らない人とつながる温かさ。

そして沖縄。

ゆっくり流れる時間。

ホテルへ戻る。

最後のページを開く。

『全国ひとりメシ記録』

沖縄。

――沖縄料理。

――旅の最後に、自分の成長に気づいた。

少し考えて。

最後にもう一行書いた。

――また、どこか出張に行ってみたい。

会社に戻ると、先輩が声をかけてくる。

「沖縄どうだった?」

私は答える。

「最高でした」

「仕事?」

「はい」

少し間を置いて。

「あと、ご飯も」

先輩は笑う。

「最後までそれか」

「でも、本当なんです」

私は言った。

「美味しいものを食べると、その街のことを好きになるんです」

デスクの引き出しには、一冊の小さなノート。

『全国ひとりメシ記録』

もう九つの街の思い出が詰まっている。

ページはまだ残っている。

日本には、まだ行ったことのない街がある。

まだ食べたことのない料理がある。

まだ出会っていない人がいる。

私は新しいページを開く。

そして書く。

――次の出張先。

その文字を書く瞬間。

私は、少しだけ幸せだった。