──そして。
ついに文化祭当日がやってきた。
朝から豪雨だというのに人でごった返す校内の中で、人の波は絶えず、ヨウジとつばめは朝からずっとブースの前で美術部の呼び込みをしていた。
それは二人が美術部のボランティアをしている以上、必要な仕事だというのはわかる。
‥‥‥それは百歩譲って。
「何でこんな格好までしないといけないんだよ!」
そう叫ぶヨウジは、金髪のウィッグを被り、安物のパールネックレスをつけていた。
本当はハイヒールもあったのだが、「足痛ェ!」と三秒で脱落したので、下は上履きのまま。
裾がつんつるてんになったテカテカした素材のドレスは背中のジッパーが上がらず、よくみると上側がずっと開いたままになっている。
一応、お姫様のコスプレ。だそうだ。
「本当だよ‥。なんだよこのカッコ」
そう返すつばめもつばめで、白いシャツに金のボタンがついたベストと白いズボン。
頭にはプラスチックで出来たメッキの王冠を乗せてマントを羽織って、二人して、まるで絵本の中に出てくるコテコテのお姫様と王子様のようなコスプレをしていた。
それもこれも、時をさかのぼること数時間前。
「はい。二人とも、これ着て!」
当日いきなり、ニーナは二人を呼び込みスタッフに任命するなりこの衣装を渡してきた。
「‥‥‥‥」
その後ろには、こちらにガンを飛ばしまくるミズキ。
──拒否権はなかった。
「‥‥まだお前の方はいいよ。王子だし。
そんなに装飾も派手じゃないから。
これさあ‥‥絶対ミズキの嫌がらせだろ!
ふつー、俺が王子でつばめがお姫様、だろ!
てか、体型的にみたら絶っ対にそっちじゃん!」
「へへーん。
かっこいいコスプレが羨ましいか」
つばめはさっきから恨めしく自分を見てくるヨウジにイタズラっぽく挑発する。
「うるせえ!
衣装ぜーんぶ追い剥ぎしてやる!」
「なっ!やめろばーか!」
二人はギャースカといつものように他愛のない、意味のない言い合いをする。
「あらあら、お二人とも素敵なお召し物ですこと」
と、ニーナの声がして二人は振り返る。
「あ!ニーナちゃん!
‥‥って。魔女っ子!かわいー!」
「アンタのお姫様姿、やば。
やっぱ私の見立て通りだわ。最高じゃん」
ミズキが鼻で笑うように言う。
二人は共に色違いでお揃いの魔女のコスプレをし、手を繋いで立っていた。
「私たちはねー、魔女の双子コーデにしました!」
そういうと、ニーナはその場でくるくると回る。
ニーナは白で、ミズキは黒。それぞれミニ丈の裾広がりなワンピースに大きな帽子と、ニーナはピンクストライプのタイツ。ミズキは緑のタイツを合わせている。
「これから休憩がてらデートしてくる!」
「呼び込み、サボんなよ」
そういうと、二人は周りの目など気にせず自分たちの世界全開で、腕を組んで雑踏に消えていった。
‥‥デートかあ。いいなあ。
つばめは思った。
「おい」
急にヨウジがずいっと真剣な面持ちで目の前に接近してくる。
「な、なんだよ‥‥」
(ここ最近‥ずっとヨウジは距離が近い‥‥)
「じっとしてろ」
「なんで?」
「いいから。王冠ずれてる」
そういうと、ヨウジはつばめの髪に手をやると、頭の上にある王冠の位置を直した。
なんだか頭を撫でられているような気がして、照れくさい。
「なっ、なにそれ。
お前のほうがめちゃくちゃな服装してる癖に‥‥!」
見つめられてドキドキする心の中で、つばめは改めて浮き足たつ。それをかき消すように減らず口をいいつつも‥‥耳まで赤くなる。
「はいはい。オッケー。これでよし」
ヨウジは満足そうにそういうと、つばめの赤くなった両頬をぐにーっと引っ張る。
「‥‥おーい、今日は王子様なんだからシケたツラしてないで、もっと笑え笑え!」
「いひゃいって!」
無防備なヨウジのやりとりに、つばめの心はひたすらかき乱される。
──つばめはふいに、昨日の事を思い出した。
部室で意味深に自分に何かを言おうとした時、
その心臓は、つばめと同じくらい暴れていた。
そして、グラウンドでのあの言葉。
"明日、文化祭終わったら明日のお前の時間。
少しでいいから‥‥俺にくれ"
伝えたい事って、なんだろう。
ヨウジって、もしかして‥‥。
頭の中でぐるぐると感情が巡る。
「‥‥あ、あのさ」
つばめは思い切って声をかけた。
「なんか俺たちも、色々見て回りたくない?」
「‥‥確かにまあ、それはある!」
「次の15分休憩さ、一緒にぐるっと校内回ってみねえ?」
「この格好で?」
「うん」
ヨウジは少し驚いて少し何かを考えたあと、ニヤッと笑っていった。
「えーやん。おもろそう!賛成!」
ヨウジの笑顔に、つばめもつられて笑う。
これはただの、仲良い友達同士のたわむれ。
デートなんかじゃない。
デートなんかじゃ‥‥。
つばめは心の中でつぶやきながらヨウジをみると、思わずその横顔に見とれてしまう。
「‥‥‥‥‥」
その時ふと、彼越しに壁掛け時計が目に入った。
(あ‥‥もうすぐレイジと約束の時間だ)
「ごめんちょっと。一瞬だけ抜ける!」
つばめは急いで人の波をかきわけると、美術準備室に向かった。
「え‥‥‥‥!
な、なんで、そんな格好してるの‥‥?」
そこでは、レイジが先に座って待っていた。
彼はつばめの姿を一目見るなり、心底びっくりした様子で硬直する。
「え?ああ、コレ?
ニーナとミズキにほぼ強制で着せられたんだよ‥‥。
ほら、客寄せだから!って」
呆れながらつばめが返す。
「‥‥ああ、そっか。そうだよね‥‥‥」
その言葉に、少しだけ残念そうな様子でレイジがつぶやいた。
「疲れたからいったん取る。はーあ」
レイジの様子に特に違和感を感じることもなく、つばめは頭につけっぱなしだった王冠とローブを取る。
この二つを取ればコスプレ感もだいぶ薄まって、気恥ずかしさも和らぐ。
つばめはそのまま、どかっと椅子に腰掛けて聞いた。
「あ、そうだ。それよりも今って何時?」
つばめの姿に見とれるようにぼーっとしていたレイジがハッとして腕時計を見る。
「‥‥あ、うん。今は‥‥。十四時半」
──予定時刻の一時間半前だ。
「順調に天気も崩れてきてる」
レイジは窓の外をみて言う。
その言葉に、つばめは吹き出した。
「‥‥‥なんか冷静に考えたら‥‥。
おれらってシュールだよな。
ふつー、文化祭が雨になったら早く晴れてくれって思うのに、おれたちは雷雨になるのを願ってるんだから」
「たしかに、変なの」
顔を見合わせて、少しの間笑い合う。
「‥‥じゃ、手短に」
そう前置きしてレイジは続ける。
「前も言ったけど‥‥。
雷は欅が避雷針になってくれる。
だからこそ、危ないから木には近寄りすぎないように気だけ気をつけてね。
特にグラウンドの真ん中より先はぜったいに行っちゃダメだから‥‥それに、」
「あ、ありがとう。
でも、そのことなんだけどさ‥」
真剣に話すレイジを前に、気まずそうにつばめが切り出す。
「実は、昨日お前と別れた後、ヨウジに言われたことがあって‥‥‥」
「‥‥うん」
レイジの表情が一瞬だけこわばって、すぐにいつもの涼しい顔に戻る。
「今日の文化祭が終わったら"話したい事がある"って。
スゲー意味深に言われちゃってさ。
もちろん、まだ、わかんないけど‥‥」
テーブルの下でレイジは無意識に拳を握っていた。
「もし、もしさ。
‥‥それがヨウジからの告白だったら?
いま、あいつの話をきかないまま、全部元に戻っちゃったら、たぶんおれ、一生『もしも』を引きずると思う。
‥‥なんかそれって、この先ずっとキモチを押し殺して過ごすより、嫌なんだ」
レイジの拳は、テーブルの下で静かに震えている。
「‥‥」
「レイジがおれを元に戻そうと、あんなにたくさん調べてくれたのはわかる。
ほんと自分勝手だよな‥‥でも。
でも‥おれ、まだ元に戻りたくないかも。って、
昨日の夜にずっと考えて、考えて‥‥。
気づいちゃったんだよね‥‥‥」
そう言って、つばめは泣きそうな顔でレイジを見た。
「‥‥」
その表情をみたレイジは、テーブルの下でずっと握っていた拳をゆっくりとほどいた。
「‥‥わかった。
じゃあ、今日の作戦はやめよっか。
休憩時間は普通に使って。俺も好きに過ごすから」
「ありがとう‥‥ごめん」
「なんで謝るの?
‥‥ヨウジ君からの告白、楽しみだね」
つばめは頬を赤らめながら、コクリとうなずいた。
「実はこの後も、ヨウジと一緒に校内回る約束したんだ‥」
まるで友人に恋の相談をきいてもらう子供のような、うきうきとしたつばめの表情を見て、レイジはふっと笑った。
「そっか‥‥いいじゃん」
──その時。
「あ‥‥つばめ!よかった、ここにいたのか。探した」
突然、ヨウジが二人の元へやってきた。
さっきまで来てきたコスプレは、もう脱いでいる。
(あれ、次の休憩にはまだ早いはず‥‥)
つばめは妙な違和感に、背中がざわついた。
「紹介したい人がいるんだ」
ヨウジはそういうと、ドアの向こうにいる"だれか"を呼び寄せる。
「ムツミ‥‥おいで」
優しい声でヨウジが言う。
その目は、つばめがいままで見たことない瞳をしていた。
「‥‥お邪魔しまーす」
小さな鈴が揺れるような可憐な声とともに、きらきらした女性が二人の前に現れると、ヨウジの横に連れ立った。
え?
え?
え、え、待って。
どういうこと。
状況をつかめないまま、つばめは立ち尽くす。
「こいつ、俺の彼女!‥‥ムツミって言うんだ」
「‥‥‥?!」
レイジは驚いた顔でヨウジを見る。
(海野君、どうして‥?
昨日わざわざあんなことを俺に言ってきたのに‥‥‥)
ヨウジは、レイジに目を合わせることなく、ぎこちなく作り笑いを浮かべている。
「‥‥‥‥‥‥‥うそだ‥」
つばめは、ヨウジのその言葉に、頭の中が真っ白になった。
「‥うそだ‥それって‥‥い、いつから?」
「んー‥‥ホントつい最近。
一週間も経ってねえ。‥‥バイト先の先輩でさ」
「‥‥そんなの‥知らなかった‥‥」
「‥‥悪い。
隠すつもりなかったんだけど、なんか照れ臭くて」
「‥‥‥‥」
「‥‥本当は夜にこっち来る予定だったんだけど、ついさっき連絡きてなんか早く来れそうって言うからさー。せっかくだから連れてきたんだ」
ヨウジは張り付いた笑顔のまま、必死に言葉をまくしたてる。まるで、何か言い訳をしているようだった。
「‥き、きのう、あんなに真剣に言ってた話したいことって‥‥このことだったのかよ‥‥‥」
動揺を隠せないつばめは、なんとか自分を取り繕ってヨウジに尋ねる。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥うん。
‥‥‥そうだよ」
ヨウジは長い長い沈黙のあと、短くうなずいた。
「‥‥‥‥‥!」
「ねえーヨウちゃん、早く行こう?」
つばめが言おうとするのと同時に、痺れを切らした女性がヨウジの腕に絡んで言う。
小柄で華奢な佇まい。サラサラのロングヘア。
自分にはないものをたくさんもっている女性。
だけど目元の雰囲気が、少しだけ自分に似ていた。
「だからさ、そういう事だから‥。
この後一緒に回ろうって約束あったけどさ‥‥ムツミを1人にできねえから、こいつも一緒に連れてってもいい?」
「あ‥‥」
そう聞いてくるヨウジの言葉に、つばめはどんな顔をしたらいいか分からなくなる。
だけど、とにかく必死に、
(泣くな。泣くな。泣くな。泣くな。泣くな‥‥)
とだけ自分に言い聞かせて、言葉をつむいだ。
「お前さ‥‥‥‥。バカじゃねーーの!
せっかく彼女さんきてくれたんなら、おれよりそっち優先しろっての!バーーーーカ!」
精一杯の作り笑顔で大袈裟におどけながら、つばめは必死に取り繕う。
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
その様子を、レイジはずっと隣で心配そうに見つめていた。
「‥だって、お前に言ったら絶対茶化されるから‥‥」
「まあそりゃそうだろ!
お前、知らねえ所でこんなら可愛い彼女作ってたなんて、もっと早く言えってのーー!!!
本当彼女さん、おれ大丈夫なんではやくコイツ連れてっちゃって下さい!」
「つばめ、いいのか‥‥?」
「いいのいいの!気にしないで!
ヨウジ、紹介してくれてありがとうな。
じゃっ、‥‥楽しんできて!」
ぐいぐいと二人を準備室の外に押し出す。
バタン!とドアを強く閉めた後、つばめはうつむく。
我慢していた涙があふれて、ボタボタと床に落ちた。
「つばめ君‥‥」
レイジがたまらず、声をかける。
「‥‥‥‥」
つばめはうつむいたまましばらくの間、ふーーっと長いため息をつくと、顔を上げて笑った。
「‥‥‥‥はは。恥ず。
ごめん。やっぱさっきの無しで‥‥‥」
笑いながら強がるが、涙がとまらない。
「‥‥いいよ。
何も言わなくていいから」
そういうと、レイジはとっさにつばめを抱きしめる。
その声は震えていて、レイジまで泣き出しそうだった。
「あ‥‥」
つばめは、一瞬だけ。
思わず彼の背中に手を伸ばし、そのまま胸の中に顔を埋めて、わんわんと泣きたくなった。
‥‥‥でも、そんな都合のいい自分が心底嫌になり、すぐに伸ばした手を引っ込める。
「やめろ。同情すんなバカ」
とつばめは力無く言うと、突き飛ばすようにレイジから離れる。
──その時。
パッと強い稲光と共に、教室が一瞬だけ停電した。
「‥‥!」
その後少し遅れて、ゴロゴロという轟音。
思わず二人は顔を合わせる。
「遠くに落ちたっぽいけど‥。
予定より早く天気が崩れ始めてる」
少し焦った様子でレイジが言った。
‥‥‥‥なんでだよ。
何もかも、うまくいない。
でも‥‥‥もうどうでもいい。
「‥‥‥なんか、どうでもいい。
全部忘れたい。はやく‥‥」
つばめは、ぼそっとつぶやく。
そのままフラフラと準備室から出て行こうとするのを、レイジはすかさず腕を掴んで引き止める。
「‥‥ちょっと待って。どこ行くの」
「グラウンド‥‥」
「俺も行く」
「ほっとけよ!‥‥おれ一人で行ける!」
つばめは泣き叫ぶように声を上げる。
「‥‥‥ほっとけるわけないだろ」
レイジは強い口調で言った。
その声は、ほとんど怒っていた。
「‥‥‥ちょっと、落ちつこうよ」
すぐに冷静な声にもどり、レイジが言う。
しかし、つばめはレイジをにらみつけると、
「お、落ち着けるわけ、ない‥‥」
そう言葉を絞り出して、ボロボロと泣くばかりだった。
「‥‥‥」
レイジはその顔をみて言葉が詰まり、苦しくなる。
「‥‥‥離せよ」
「いや」
「離せって」
「いやだ」
「‥‥なんなん、さっきから‥‥」
押し問答の果てに、なげやりにつばめが言う。
「‥‥‥お前におれの何がわかるんだよ!」
「‥‥‥‥‥‥わかんないよ‥‥。
‥‥でも、心配なんだ。
今のつばめ君‥‥見ててすごくヒヤヒヤする。
だから、絶対離さない」
レイジはつばめをじっと見て、言う。
「‥‥‥はっ、なんだよそれ」
つばめはうつろな目でつぶやく。
「どうせお前‥‥。
おれが弱ってるからって、それに漬け込んで優しくすれば、俺のこと‥何とかできるかとか、思ってんだろ‥‥」
むなしさのやり場がなくてやさぐれるあまり、ついつばめは、思ってもないことを口走ってしまう。
「そんな訳‥‥!
‥‥俺のこと、ずっとそんな風に見てたの?」
レイジの心が揺らぐ。
怒りを抑えるように、悲しい声で尋ねる。
「‥‥さあな」
つばめは小さくつぶやく。
そのまま、すぐ近くの机にしなだれるように力無くもたれると、なげやりに言葉を吐き捨てた。
「‥‥ふん。でもまあいいよ。
お前、俺のこと好きなんだもんな。
そんなにしたいんだったら‥‥いいぜ。
キスくらいなら、してやっても」
その言葉に、一瞬だけレイジの瞳孔が怒りで開く。
「‥‥‥‥ねえ、本気で言ってる?」
「‥‥なんだよ、その目は。
どうせそれが目的なんだろ、お前。
それとも‥‥キスよりもっと先のことがしたいとか?
‥‥はは。別にいいよ。
なんかもう、どうでもいいから。
‥‥‥最後に一発やってみる?」
「‥‥!!!!」
レイジは気づくと反射的に、つばめの頬をぶっていた。
「お前さ‥‥‥ふざけんなよ‥‥‥!」
肩で息をしながら、言葉にならない様子で怒りに震えている。
「あ‥‥‥」
目の前がチカチカして、めちゃくちゃ痛い。
目が覚めるようなビンタをくらって、赤く腫れた頬を抑えながら、つばめはポロポロと涙を流してレイジを呆然と見つめた。
「‥‥‥!」
その姿にレイジは一瞬で我に返る。
とっさに掴んでいた手を離した。
「‥あ‥‥‥違う。
ちがう。俺、最低だ‥‥ごめん‥‥」
そう小さく呟くと、苦しそうにうつむく。
「レイジ‥‥」
つばめは呆然としたまま、彼の名前を呼ぶ。
しかし、次の言葉が出てこない。
何か話さなきゃと思うのに、何もできない。
「‥‥ごめん‥‥‥‥‥‥ごめん。
‥‥‥‥‥ちょっと無理。
俺も頭ぐちゃぐちゃで、整理できない‥‥」
と、うつむいたままポツリと言うと、レイジは静かにその場から去っていく。
「レイジ、待って‥‥!」
「‥‥ううん、いい。
‥‥‥‥‥着いてこないで」
その言葉に、つばめは体が棒切れのように固まって、その場から動けなくなる。
二人はそれっきり、別れた。
ひとり取り残された準備室で、つばめは思わずやり場のないキモチをテーブルにぶつけてしまう。
「‥‥くそおっ!‥‥」
でも、気持ちなんて晴れるわけない。
むしろ乱暴に物に当たる自分に、ますます嫌気がさす。
「‥‥なんでだよ‥どうして‥‥。
どうしてこんな事になっちゃうんだよ‥‥」
そのまま、つばめはその場でうずくまると、しばらくの間大声をあげて子供のようにわんわんと泣いた。
その泣き声は、窓の外の土砂降りと壁を隔てた向こうにある展示を見にきた人々の賑わいに、すべてかき消された。
