どんよりとした黒い雲が空全体を覆っている。登校する前に確認した天気予報ではしばらく雨が続くと言っていた。私は嫌な天気だなと思いながら、視線を窓の外からピアノの前に座る風間くんへと移した。
風間くんのピアノを聴きに音楽室に通うようになってしばらく経った。桜の花びらが散っていた木々は新緑で覆われ、雨がしとしとと降り注ぐ季節になっていた。今日も風間くんは真剣な表情でピアノと向き合っており、私はそんな彼と彼の奏でる音楽をじっと聞いている。
「お前、こんなに頻繁に僕のところに来ていいのか?」
「どういうこと?」
不意に風間くんが手を止めて私の方を見た。私は質問の意図が分からず首を傾ける。風間くんは言いにくそうに視線を彷徨わせると、「……友達とか、いいのか」とぶっきらぼうに尋ねた。
「昼休憩は、友達と一緒にご飯を食べたり、次の授業の予習をしたりするんじゃないのか」
「私は不真面目だし、あんまり成績良くないから予習をしたりはしないかな」
「それでも友達くらいいるんだろ? 僕のところにばかり来ていたら友達に愛想をつかれるんじゃないのか」
風間くんの中にある友達像がよく分からなかったが、ようは友達付き合いをおろそかにして大丈夫かと聞きたいようだった。私は頭の中で佳奈や他の友達のことを思い浮かべながら「きっと大丈夫だよ」と答える。
「私の友達は、四六時中べったりしてなくても、友達辞めちゃうような子はいないから。それに、友達だからっていっていつも一緒にいるわけじゃないからね」
「そういうものなのか?」
「そうそう。それより、風間くんには友達いないの?」
せっかくだからと風間くんに話題を持ち掛ければ、風間くんは不愉快そうに眉を顰めて「僕にそれを聞くのか」と低い声で言い返された。
「僕は友達を作る暇なんてないんだ。友達に時間を使うくらいなら、ピアノを練習しなきゃいけないから」
「でも、全くいないなんてことないでしょ? よく世間話をするくらいの友達くらいいるんじゃないの?」
私の言葉に風間くんは眉を顰めたまま視線をスッと横に流した。そして、少し悩んだ後、小さな声で何かを呟いた。いつも自信ありげに堂々と話す彼からは想像もできないほど小さな声で、私は思わず「え?」と聞き返す。
「だから! それなら、お前が僕の友達になるんじゃないのかって言ってるんだよ!」
「……わ、私?」
頬をほんのりを赤く染めた風間くんの言葉に私は目を見開く。まさか自分が選択肢に上がるなんて思ってもみなかったからだ。
「……こうやって、よく世間話をするだろ。そういう関係を友達と呼んでいいのなら、僕とお前は友達になるんだろう?」
「…………風間くんが私のことを友達だと思ってくれるのなら、きっと私たちは友達だよ」
「なんでそんなに曖昧な返答なんだ」
呆れたように口を尖らせた風間くんはこの話は終わりだというようにピアノに向き直ってしまう。スイッチを切り替えたようにピアノに集中し始めた風間くんを観察しながら、私はバクバクと心臓が早く動くのをなんとか宥めようとしていた。
正直に言えば、私と風間くんの関係を友達と呼んでいいのかは分からなかった。なぜなら私は風間くんのことをほとんど何も知らないからだ。風間くんの好きなもの、嫌いなもの。得意なこと、苦手なこと。友達なら知っていそうなことを何一つ、私は知らない。世間話はたしかにするが、その頻度だって多くはない。本当にたまに、風間くんの気まぐれで二、三言話すことがあっても親しい関係になれるほど話したことはないのだ。
だから私は返答に詰まり、答えを曖昧にするしかなかった。
でも、風間くんと友達になれたなら、きっと私は嬉しいだろうな、とも考えていた。
風間くんのピアノを聴きに音楽室に通うようになってしばらく経った。桜の花びらが散っていた木々は新緑で覆われ、雨がしとしとと降り注ぐ季節になっていた。今日も風間くんは真剣な表情でピアノと向き合っており、私はそんな彼と彼の奏でる音楽をじっと聞いている。
「お前、こんなに頻繁に僕のところに来ていいのか?」
「どういうこと?」
不意に風間くんが手を止めて私の方を見た。私は質問の意図が分からず首を傾ける。風間くんは言いにくそうに視線を彷徨わせると、「……友達とか、いいのか」とぶっきらぼうに尋ねた。
「昼休憩は、友達と一緒にご飯を食べたり、次の授業の予習をしたりするんじゃないのか」
「私は不真面目だし、あんまり成績良くないから予習をしたりはしないかな」
「それでも友達くらいいるんだろ? 僕のところにばかり来ていたら友達に愛想をつかれるんじゃないのか」
風間くんの中にある友達像がよく分からなかったが、ようは友達付き合いをおろそかにして大丈夫かと聞きたいようだった。私は頭の中で佳奈や他の友達のことを思い浮かべながら「きっと大丈夫だよ」と答える。
「私の友達は、四六時中べったりしてなくても、友達辞めちゃうような子はいないから。それに、友達だからっていっていつも一緒にいるわけじゃないからね」
「そういうものなのか?」
「そうそう。それより、風間くんには友達いないの?」
せっかくだからと風間くんに話題を持ち掛ければ、風間くんは不愉快そうに眉を顰めて「僕にそれを聞くのか」と低い声で言い返された。
「僕は友達を作る暇なんてないんだ。友達に時間を使うくらいなら、ピアノを練習しなきゃいけないから」
「でも、全くいないなんてことないでしょ? よく世間話をするくらいの友達くらいいるんじゃないの?」
私の言葉に風間くんは眉を顰めたまま視線をスッと横に流した。そして、少し悩んだ後、小さな声で何かを呟いた。いつも自信ありげに堂々と話す彼からは想像もできないほど小さな声で、私は思わず「え?」と聞き返す。
「だから! それなら、お前が僕の友達になるんじゃないのかって言ってるんだよ!」
「……わ、私?」
頬をほんのりを赤く染めた風間くんの言葉に私は目を見開く。まさか自分が選択肢に上がるなんて思ってもみなかったからだ。
「……こうやって、よく世間話をするだろ。そういう関係を友達と呼んでいいのなら、僕とお前は友達になるんだろう?」
「…………風間くんが私のことを友達だと思ってくれるのなら、きっと私たちは友達だよ」
「なんでそんなに曖昧な返答なんだ」
呆れたように口を尖らせた風間くんはこの話は終わりだというようにピアノに向き直ってしまう。スイッチを切り替えたようにピアノに集中し始めた風間くんを観察しながら、私はバクバクと心臓が早く動くのをなんとか宥めようとしていた。
正直に言えば、私と風間くんの関係を友達と呼んでいいのかは分からなかった。なぜなら私は風間くんのことをほとんど何も知らないからだ。風間くんの好きなもの、嫌いなもの。得意なこと、苦手なこと。友達なら知っていそうなことを何一つ、私は知らない。世間話はたしかにするが、その頻度だって多くはない。本当にたまに、風間くんの気まぐれで二、三言話すことがあっても親しい関係になれるほど話したことはないのだ。
だから私は返答に詰まり、答えを曖昧にするしかなかった。
でも、風間くんと友達になれたなら、きっと私は嬉しいだろうな、とも考えていた。



