疎まれてきた最強妖狐は、優しすぎる天狗と政略結婚する

「……初めまして。佐狐(さこ) 花楓(かえで)と申します」
 天倉(あまくら)家のお屋敷は、とても広かった。
「……天倉(あまくら) 真人(まこと)、です」
 真人(まこと)さんは、少し居心地が悪そうだった。
 周りからの視線も冷たい。
「真人(まこと)の“母”の、天倉(あまくら) 夏芽(なつめ)です。どうぞ、末永く、よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いします」
 目が笑っていない。
 真人(まこと)さんを見つめる瞳は、冷たい刃のようだった。
「……真人(まこと)。花楓(かえで)さんのお荷物を持って」
「はい……」
 冷たい口調で、真人(まこと)さんに命令する夏芽(なつめ)さん。
「花楓(かえで)さんも、来て早々に申し訳ないけれど、移動してくれるかしら?あなたたちの新居、少し遠いのよ」
「あ、はい……」
 お屋敷を出る。
 荷物を車に載せる真人(まこと)さんの顔は、苦しそうだった。
「真人(まこと)さん……?」
 私の声に反応して、振り返った真人(まこと)さんは、ネックレスをつけていた。
 ……え?
 ネックレスをつけていること自体は、あやかしにとっては、全くおかしいことではない。
 自分が、何のあやかしなのかを証明するために。
 私も、狐の絵が描かれているネックレスをつけている。
 驚いたのは、そこじゃなくて……。
「猫……?」
 そう。
 彼のネックレスに描かれていたのは、ただの天狗ではなかった。
 天狗に、猫耳がついていたのだ。
「あっ……」
 私が、ネックレスをじっと見つめていることに気づいたのか、ネックレスを隠す真人(まこと)さん。
「あ、えっと、これは……」
 視線が、宙を彷徨う。
 焦っているのが分かった。
 きっと、隠しておきたい秘密だったのだろう。
「――真人(まこと)は、天猫(あまねこ)家の人だからね」
 後ろから、夏芽(なつめ)さんが近づいてくる。
「天猫(あまねこ)家……?」
「そう。天猫(あまねこ)家。没落貴族だよ。……混血天狗の一族だからね。ソイツは、街に捨てられていたんだよ。それを使用人が勝手に拾ってきた。その後、天猫(あまねこ)に返しに行っても受け取ってくれなくてね。『もう捨てた子どものことなんて、天猫(うち)には関係ない』ってさ。だから、仕方なく天倉家(うち)で育てることにしたんだ」
 混血天狗……。
 真人(まこと)さんは、バツが悪そうだった。
 天猫(あまねこ)家ということは、天狗と猫又の混血だろうか。
 天狗は貴族で、猫又は庶民。
「……お前がいなくなって良かったよ。家の空気が良くなる」
 “いらない者”同士の結婚だったのか。
 なんだか、少しモヤモヤしてしまう。
「……真人(まこと)。お前はもう二度と、天倉家(うち)の敷居をまたぐな。」
 その言葉には何も反応せず、車に乗り込む真人(まこと)さん。
 こちらを睨みつけながら、屋敷へ戻っていく璃玖(りく)さん。
 私は、夏芽(なつめ)さんの背中をずっと見つめていた。
「……花楓(かえで)さん?」
 車の中から声をかけられる。
「……早く、乗ってください」
「あ、はい。……すみません」
 ……もう、誰も信じない。
 信じられない。
 そんな私を、貴方は愛してくれますか――?