雨の日のKISS


 ちょうど、梅雨の時期だった。
 今でも、ときどき思い出す……。

 世界が闇に見えた。
 ずっと、好きだった人と別れた。

 2年つきあった彼氏だった。
 なんか怪しいと思ってた。
 最近は、デートの回数も減った。
 LINEの返事も適当。
 電話なんて、ほぼない。

 いけないことだとは、わかってた。
 けど……
 見てしまった。彼のスマホ。

 彼氏が浮気してた。

「河井!」
 放課後。クラスメートの、羽柴漣が声をかけてきた。
「おまえ、今日、元気ないな……なんか、あった?」
「べ、別に…」
「ふーん…なら、いいけど」
 漣がじっとあたしを見てる。
 そんなに元気なく見えるのかな?
「あ」
漣が、窓のほうを指差す。
「雨だ!」
「え、ほんと、やだ!」
「強くなりそうだな」
「ほんと? すぐ帰る! 強くなる前に!」
「少し待ってから帰れば?」
「大丈夫!」

 あたしは、昇降口で、靴箱からローファーを取り出した。
「雨、やだな」  
 少し、校庭を横切る。
 途端、前に進めなくなった。
 辛くて、しゃがみ込む。
 傘が手から転げ落ちた。
「う、うぅー……なんで? 好きだっていったじゃん」
 涙と雨が混ざり合って、ぐちゃぐちゃになる。

どれだけしたか、
「河井!」
 名前を呼ばれた。
 傘があたしの頭上に差し出された。
 見上げると、漣が心配そうに見ている。
「どうして?」
「窓から見えたから」

 漣がかがみ込む。
「河井……大丈夫か? 服、着替えたほうがいい。ジャージあるか?」
「うん……」
 漣があたしの肩に手を置いた。
いろんな感情がごちゃ混ぜになって、

 気付いたら、
 あたしは漣にキスしてた。

「え?」
 な、なにしてた? いま、あたし?
 ど、どうして、漣にキスなんて……。

「菜乃……」

 急に名前で呼ばれた。
 漣も自分で言って驚いたのか、気まづそう。  
 でも、そのあと、漣があたしを抱き寄せてきた。

「好きだ……菜乃。
 ずっと、好きだった……」

 えぇえーー!!!
 漣が、あたしを???
「ご、こめん、つきあってもいないのに、キスなんてして……」
「じゃあ、つきあって」
「え! ムリムリ。
 あたし彼氏と別れたばかりだし、他の男の子なんて,いまちょっと、考えられない!」
「え……」
 漣がショックを受けてる。
 やばい。
「ご、ごめん……」

 そのあと、あたしはジャージに着替えて、帰宅した。
 なんで、好きでもない男の子にキスしちゃったんだろ。 
 そして、その子が、あたしを好きだなんて……。   
 
 スマホが鳴った。
 
 漣からのLINEだった。


《今日は、いきなりごめん。
 菜乃があいつより、俺が好きになるまで、待ってい?》 


 漣……。

 ばかなんだから。

   
 その後、漣と私の関係が変わることはなかった。

 でも、やっぱり、気持ちは、嬉しかった。

 

 今でも雨の日には、ときどき思い出す。
 
 漣の優しさと、
 
 あの、
 
 キスのことを……