杓子定規なお姫様ー最恐のわがまま呪術師の元に嫁いだのは曲がれない解呪師でしたー

「今日も殺されぬのですか?」
「……まだ、奴の力を見定めきれておらぬ、ゆえに仕方がない」
「左様でございますか……」
 
 鈴懸はその日もターゲットの男の呪殺を諦めた。
 鈴懸と同じく名の知れた呪術師の家の出のターゲットの男との力量の差は見るものからすれば一目瞭然に鈴懸に分があった。
 
 長期の任務になるかもしれないとここまで慎重に事を運んできたものの音無の家の使いは誰もが鈴懸がすぐにでもこの依頼を完遂し早々に家に戻るだろうと予想した。
 
 鈴懸自身もすぐに終わるだろうと考えていた筈、だったのに、気付けば琴音との結婚生活は既に2ヶ月が経とうとしていた。
 この依頼が延びている理由は簡単、何故か鈴懸が適当な理由をつけては男の呪殺を何日も何日も後回しにするからだ。
 そして、その理由は鈴懸自身も理解していない。
 
 いつものように呪ってしまって、殺してしまってはい終わり、それが呪術師の生き方だ。
 実際に鈴懸は何度か男を殺そうと考えたし呪いの言葉が喉まで出かかったこともある。
 
 その度に鈴懸の頭に浮かぶのはひとりの女の顔だった。
 出会った時の印象は最悪。
 杓子定規で、頭が固くて無愛想で何を考えているのかも分からないこの時この瞬間だけの自身の妻。
 
 実家に帰れば五月蝿く何か言われることもなく黙っていても毎日洋食が出てくる生活に戻れるだろう。
 
 だからこそ、今のこの生活に別に執着などない筈なのに、居心地も悪ければ気も休まらない筈なのに。
 あの時笑った琴音を可愛いと、思ってしまったその時から
 
「……ああ、そうか」
 
 あの杓子定規な女に少なからず鈴懸は、心惹かれてしまっていたのだ。