結局、私たちは客間へ戻るまでの間に、ひとまずの作戦を決めた。
お茶を乗せた盆を手に客間へ戻ると、悠斗が一冊の本を手にしていた。
(……ん?)
見覚えのある表紙に目を凝らす。
『恋愛相談Q&A』
「――っ!」
思わず声を上げそうになった、その時だった。
「悠斗、それ」
真尋が悠斗の手から本を取り上げた。
「勝手に読んだら駄目だろ」
「あ、ごめん。そこにあったから、つい」
悠斗と目が合う。『勉強って、これ?』なんて冷やかされるかも知れない。先に弁解しとかなきゃ――と焦っていると、真尋がちらりとこちらを見た。
「忘れ物だ。持ち主がそのうち取りに来る」
「ああ、そうなんだ」
私は思わず真尋を見る。
けれど、真尋はもうこちらを見ようとはしなかった。
(……庇ってくれた?)
思いがけない真尋の気遣いに、思考が一瞬止まる。
「みとさん」
「えっ」
「お茶を」
「あ、はい!」
危ない。そうだった。
今はそれどころじゃない。
悠斗の前に湯呑みを置き、私も座卓の前に腰を下ろす。
ちらりと時計を見ると、配信開始まであと20分ほど。
私は真尋と目を合わせた。
「……あの、悠斗さん」
「ん?」
「実は私、このあとオンラインで予定があって……」
さっき打ち合わせた通りに切り出す。悠斗が目を瞬かせた。
「オンライン?」
「はい。それで、その間だけ真尋さんの部屋を借りることになってるんです」
「ああ、そうなんだ」
よし。ここまでは順調。
「30分ほどかかるそうだ。その間、僕も席を外す」
「……え、真尋も?」
「ああ」
悠斗が、ちらりと私を見る。
「ちょっと一人だと不安なので、真尋さんにも付き合ってもらう予定なんです」
「ああ、なるほど。てか、気遣わなくていいよ。これ飲んだら帰るから」
悠斗は湯呑みを軽く掲げると、ニッと屈託のない笑みを浮かべた。
それを聞いて内心、ほっと息をつく。けど――
「いやー、それにしてもさ。ごめん、ちょっと気になりすぎて落ち着かないから、聞いてもいい?」
「はい?」
「真尋、いつの間にこの子とそんな仲良くなったわけ? さっきの出迎えも何だったの?」
「昨日、ここで会った」
「昨日?」
「ああ」
「……昨日?」
「うん」
「昨日会ったばっかりなの?」
「そうだよ」
「…………」
悠斗が、今度はまじまじと私を見る。
(ほらー! そうなるじゃん!)
「昨日会った子に勉強教えて、自分の部屋貸して、オンラインまで付き合うの?」
探るような視線に、息が詰まる。
どう説明しようか迷っていると、真尋が静かに口を開いた。
「昨日、事情があって、みとさんをここに連れてきたんだ」
「……連れてきた?」
「少し危険な状況だから、しばらく僕が見守る。さっきもそのためだ」
「…………」
嘘はついてない。
ただ、言い方がものすごく物騒だ。
悠斗はしばらく考えるように私を見ていたが、やがて小声で尋ねた。
「……危険って? 何かに狙われてるってこと?」
「それは、その……」
妖が出るかもしれないんです、なんて言えるはずもない。
答えに詰まっていると、悠斗がさらに声を落とした。
「……なに? マフィアとか?」
「それは違う」
「違います!」
真尋と私の声が重なった。
「……そこは即答なんだ」
「だって、違いますから!」
「じゃあ、何?」
「それは……」
続きが出てこない。
悠斗の顔から、からかうような色がすっと消えた。
「あー……なるほど」
「え?」
「いや。言えない事情なら、無理に聞かないほうがいいよな」
「あ、いや……」
否定しかけて、口をつぐむ。言えない事情なのは、その通りだった。
「大丈夫。もう聞かないから」
気遣うように笑われて、ますます何も言えなくなる。
(絶対、変な方向に勘違いされてる……!)
悠斗は何とも言えない顔で私たちを見比べると、残っていたお茶を飲み干した。
「さて、邪魔するのも悪いし、そろそろ帰るわ」
「もう帰るのか?」
「うん。色々聞きたいけど、また今度にするわ。本返しに来ただけだし。お茶、ごちそうさま」
悠斗は立ち上がると、空になった湯呑みを盆の上へ戻した。
「じゃあ真尋、また大学で」
「ああ」
「みとちゃんも、オンライン頑張ってね」
「あ、ありがとうございます!」
にこっと笑って、悠斗が客間を出ていく。
廊下を遠ざかっていく足音を聞きながら、私はじっと襖を見つめた。
やがて、玄関の戸が閉まる音がする。
「…………」
私は、がくりと肩を落とした。
「……疲れた」
「そこまで緊張することでしたか?」
「だって、ずっとヒヤヒヤしてたんだもん!」
言い返しながら、時計を見る。
「あっ、あと何分!?」
「15分です」
「やばっ! 急ごう!」
悠斗も帰ったので、わざわざ部屋を移る必要もない。このまま客間を使わせてもらうことにした。
私は慌ててリュックを引き寄せ、配信用の道具を取り出した。
スマホをスタンドにセットし、いつもの位置に置く。
「じゃあ、あとは接続して……」
ボイスチェンジャーをオンにして、アバターと背景を確認する。
「準備オッケー!」
真尋は私のすぐ隣に腰を下ろすと、錫杖を手の届く足元へ静かに置いた。
やがて準備がひと段落すると、不意に笑いがこみ上げてきた。
「……ふ、ふふっ」
「? どうしたんですか」
「悠斗さんの顔、思い出しちゃって。『昨日?』って何回聞くの」
「ああ……」
真尋も思い出したのか、顔を綻ばせる。
「驚いたんでしょうね」
「そりゃ驚くよ。私だって逆の立場なら、わけわかんなくて色々聞いちゃうと思う。しかも真尋さん、全部そのまま答えるし」
「嘘をつく必要はありませんから」
「……さっきの本のことは嘘ついたけどね」
「…………」
真尋が一瞬、黙る。
「……あれは、別です」
「別?」
「みとさんが困っているようでしたので」
そう言って、真尋は何でもないことのように画面へ視線を戻す。
私は何も言えず、その横顔を見つめた。
(――なんだろ、これ……)
さっきまで笑っていたはずなのに、急に落ち着かなくなってきた。
「そろそろですね」
「うん」
私は気持ちを切り替えるように、一度大きく息を吐いた。
画面には、配信開始を待つ人たちのコメントが少しずつ流れ始めている。
時計を見ると、ちょうど21時。
「よし」
配信開始のボタンを押した。
「みんなー! こんばんは! 地元に笑顔と巫女パワーをお届け! “みこにゃん”こと月乃みことだよー!」
いつもの挨拶と同時に、コメント欄が一気に動き出す。
『みこにゃんこんばんはー!』
『待ってた!』
『巫女パワーくださーい』
「はーい! 巫女パワーは今日も大放出だよー!」
いつもの調子で返しながら、ちらりと隣を見る。
真尋は静かに画面を見つめていた。
昨日と同じ。何かあれば、きっとすぐに動いてくれる。
そう思うと、不思議と少しだけ肩の力が抜けた。
「まず最初のお悩みは、リボンちゃんから。『最近、成績が落ちてきて、親に怒られました。これ以上下がらないアドバイスください』……わぁ! これ、みこにゃんも耳が痛い話だぁ。でも、先生や友達に聞いた話を参考に、がんばってアドバイスするね!」
復習の習慣や、時間の使い方。
私自身ぜんぜんできていないことだけど、さも『できてます』みたいな顔で話していく。
(ごめんね、不甲斐ないみこにゃんで……)
なんとか一つ目の相談を終え、次のメッセージを開く。
「さて、続いてのお悩みは、ナバちゃんから。『遠距離恋愛中の彼が浮気してる気がします。不安で仕方ありません。どうしたらいいですか?』」
いよいよ例の相談。メールを開き、通話を開始する。
(さあ、恋愛本を速読した成果や、いかに!)
「こんばんは……よろしくお願いします」
寝起きのような気怠い声が返ってきた。
「こんばんは! 来てくれてありがとう。ナバちゃんは、どうして彼が浮気してると思ったの?」
「なんか……ラインの返信も遅いし……この間会った時も、すぐ帰っちゃったし。しかも、彼が帰る直前、たまたま見ちゃったんです。携帯に『みきちゃん』って子から電話があったの……」
『限りなくクロよりのグレー』
『タイミング的にクロでしょ』
『そこで問い詰めなかったの偉い』
視聴者のコメントが次々に流れていく。
「うーん、でもさ。それで『浮気してる』って決めちゃうのはまだ早い気がする。ナバちゃんが不安なのはわかるけど、相手の行動だけで決めつけるのは良くないって書いてあっ……じゃなくて! 憶測で彼と気まずくなったら、それこそ嫌じゃない?」
「……うん。せめて私、みこにゃんみたいな可愛い子に生まれてればよかったな。そしたらこんなに不安にならなかったかも」
「え? 可愛いとか可愛くないとか、関係ないよ!」
考えるより先に、言葉が出ていた。
「だって、好きな人のことでこんなに悩んで、不安になって……それでもその人を好きでいたいって思えるんでしょ? そういうナバちゃんだって、絶対かわいいよ」
ふと、隣から視線を感じて顔を向ける。
真尋がこちらを見ていた。
(……なに?)
目が合う。
すると真尋は、何事もなかったように画面へ視線を戻した。
『まぁ、みこにゃんは俺のこと信じてくれてるもんな』
『いやいや俺の嫁だから』
「こらぁ! そこ、いい加減なこと言わない。みこにゃんは誰の嫁でもないぞ」
流れていくコメントを追いながら、ふと部屋の入り口へ目をやる。
「――え」
私は、そのまま固まった。
開いた襖の向こうに、悠斗が立っていた。
訝しげな表情で私を見て、それから隣に座る真尋へ目をやる。
『……みこにゃん?』
スピーカーから聞こえたナバちゃんの声に、はっとする。
『固まった?』
『どうしたw』
私の異変に気づいたのか、真尋も顔を上げた。
「…………」
その時、真尋の足元で錫杖がかすかに光った。
(うそ)
帰ったんじゃなかったの!?
――ずる……
庭のほうから、何かを引きずるような音がした。
けれど、今の私にそれを気にしている余裕なんてない。
(ていうか、なんで戻ってきたのー!?)
お茶を乗せた盆を手に客間へ戻ると、悠斗が一冊の本を手にしていた。
(……ん?)
見覚えのある表紙に目を凝らす。
『恋愛相談Q&A』
「――っ!」
思わず声を上げそうになった、その時だった。
「悠斗、それ」
真尋が悠斗の手から本を取り上げた。
「勝手に読んだら駄目だろ」
「あ、ごめん。そこにあったから、つい」
悠斗と目が合う。『勉強って、これ?』なんて冷やかされるかも知れない。先に弁解しとかなきゃ――と焦っていると、真尋がちらりとこちらを見た。
「忘れ物だ。持ち主がそのうち取りに来る」
「ああ、そうなんだ」
私は思わず真尋を見る。
けれど、真尋はもうこちらを見ようとはしなかった。
(……庇ってくれた?)
思いがけない真尋の気遣いに、思考が一瞬止まる。
「みとさん」
「えっ」
「お茶を」
「あ、はい!」
危ない。そうだった。
今はそれどころじゃない。
悠斗の前に湯呑みを置き、私も座卓の前に腰を下ろす。
ちらりと時計を見ると、配信開始まであと20分ほど。
私は真尋と目を合わせた。
「……あの、悠斗さん」
「ん?」
「実は私、このあとオンラインで予定があって……」
さっき打ち合わせた通りに切り出す。悠斗が目を瞬かせた。
「オンライン?」
「はい。それで、その間だけ真尋さんの部屋を借りることになってるんです」
「ああ、そうなんだ」
よし。ここまでは順調。
「30分ほどかかるそうだ。その間、僕も席を外す」
「……え、真尋も?」
「ああ」
悠斗が、ちらりと私を見る。
「ちょっと一人だと不安なので、真尋さんにも付き合ってもらう予定なんです」
「ああ、なるほど。てか、気遣わなくていいよ。これ飲んだら帰るから」
悠斗は湯呑みを軽く掲げると、ニッと屈託のない笑みを浮かべた。
それを聞いて内心、ほっと息をつく。けど――
「いやー、それにしてもさ。ごめん、ちょっと気になりすぎて落ち着かないから、聞いてもいい?」
「はい?」
「真尋、いつの間にこの子とそんな仲良くなったわけ? さっきの出迎えも何だったの?」
「昨日、ここで会った」
「昨日?」
「ああ」
「……昨日?」
「うん」
「昨日会ったばっかりなの?」
「そうだよ」
「…………」
悠斗が、今度はまじまじと私を見る。
(ほらー! そうなるじゃん!)
「昨日会った子に勉強教えて、自分の部屋貸して、オンラインまで付き合うの?」
探るような視線に、息が詰まる。
どう説明しようか迷っていると、真尋が静かに口を開いた。
「昨日、事情があって、みとさんをここに連れてきたんだ」
「……連れてきた?」
「少し危険な状況だから、しばらく僕が見守る。さっきもそのためだ」
「…………」
嘘はついてない。
ただ、言い方がものすごく物騒だ。
悠斗はしばらく考えるように私を見ていたが、やがて小声で尋ねた。
「……危険って? 何かに狙われてるってこと?」
「それは、その……」
妖が出るかもしれないんです、なんて言えるはずもない。
答えに詰まっていると、悠斗がさらに声を落とした。
「……なに? マフィアとか?」
「それは違う」
「違います!」
真尋と私の声が重なった。
「……そこは即答なんだ」
「だって、違いますから!」
「じゃあ、何?」
「それは……」
続きが出てこない。
悠斗の顔から、からかうような色がすっと消えた。
「あー……なるほど」
「え?」
「いや。言えない事情なら、無理に聞かないほうがいいよな」
「あ、いや……」
否定しかけて、口をつぐむ。言えない事情なのは、その通りだった。
「大丈夫。もう聞かないから」
気遣うように笑われて、ますます何も言えなくなる。
(絶対、変な方向に勘違いされてる……!)
悠斗は何とも言えない顔で私たちを見比べると、残っていたお茶を飲み干した。
「さて、邪魔するのも悪いし、そろそろ帰るわ」
「もう帰るのか?」
「うん。色々聞きたいけど、また今度にするわ。本返しに来ただけだし。お茶、ごちそうさま」
悠斗は立ち上がると、空になった湯呑みを盆の上へ戻した。
「じゃあ真尋、また大学で」
「ああ」
「みとちゃんも、オンライン頑張ってね」
「あ、ありがとうございます!」
にこっと笑って、悠斗が客間を出ていく。
廊下を遠ざかっていく足音を聞きながら、私はじっと襖を見つめた。
やがて、玄関の戸が閉まる音がする。
「…………」
私は、がくりと肩を落とした。
「……疲れた」
「そこまで緊張することでしたか?」
「だって、ずっとヒヤヒヤしてたんだもん!」
言い返しながら、時計を見る。
「あっ、あと何分!?」
「15分です」
「やばっ! 急ごう!」
悠斗も帰ったので、わざわざ部屋を移る必要もない。このまま客間を使わせてもらうことにした。
私は慌ててリュックを引き寄せ、配信用の道具を取り出した。
スマホをスタンドにセットし、いつもの位置に置く。
「じゃあ、あとは接続して……」
ボイスチェンジャーをオンにして、アバターと背景を確認する。
「準備オッケー!」
真尋は私のすぐ隣に腰を下ろすと、錫杖を手の届く足元へ静かに置いた。
やがて準備がひと段落すると、不意に笑いがこみ上げてきた。
「……ふ、ふふっ」
「? どうしたんですか」
「悠斗さんの顔、思い出しちゃって。『昨日?』って何回聞くの」
「ああ……」
真尋も思い出したのか、顔を綻ばせる。
「驚いたんでしょうね」
「そりゃ驚くよ。私だって逆の立場なら、わけわかんなくて色々聞いちゃうと思う。しかも真尋さん、全部そのまま答えるし」
「嘘をつく必要はありませんから」
「……さっきの本のことは嘘ついたけどね」
「…………」
真尋が一瞬、黙る。
「……あれは、別です」
「別?」
「みとさんが困っているようでしたので」
そう言って、真尋は何でもないことのように画面へ視線を戻す。
私は何も言えず、その横顔を見つめた。
(――なんだろ、これ……)
さっきまで笑っていたはずなのに、急に落ち着かなくなってきた。
「そろそろですね」
「うん」
私は気持ちを切り替えるように、一度大きく息を吐いた。
画面には、配信開始を待つ人たちのコメントが少しずつ流れ始めている。
時計を見ると、ちょうど21時。
「よし」
配信開始のボタンを押した。
「みんなー! こんばんは! 地元に笑顔と巫女パワーをお届け! “みこにゃん”こと月乃みことだよー!」
いつもの挨拶と同時に、コメント欄が一気に動き出す。
『みこにゃんこんばんはー!』
『待ってた!』
『巫女パワーくださーい』
「はーい! 巫女パワーは今日も大放出だよー!」
いつもの調子で返しながら、ちらりと隣を見る。
真尋は静かに画面を見つめていた。
昨日と同じ。何かあれば、きっとすぐに動いてくれる。
そう思うと、不思議と少しだけ肩の力が抜けた。
「まず最初のお悩みは、リボンちゃんから。『最近、成績が落ちてきて、親に怒られました。これ以上下がらないアドバイスください』……わぁ! これ、みこにゃんも耳が痛い話だぁ。でも、先生や友達に聞いた話を参考に、がんばってアドバイスするね!」
復習の習慣や、時間の使い方。
私自身ぜんぜんできていないことだけど、さも『できてます』みたいな顔で話していく。
(ごめんね、不甲斐ないみこにゃんで……)
なんとか一つ目の相談を終え、次のメッセージを開く。
「さて、続いてのお悩みは、ナバちゃんから。『遠距離恋愛中の彼が浮気してる気がします。不安で仕方ありません。どうしたらいいですか?』」
いよいよ例の相談。メールを開き、通話を開始する。
(さあ、恋愛本を速読した成果や、いかに!)
「こんばんは……よろしくお願いします」
寝起きのような気怠い声が返ってきた。
「こんばんは! 来てくれてありがとう。ナバちゃんは、どうして彼が浮気してると思ったの?」
「なんか……ラインの返信も遅いし……この間会った時も、すぐ帰っちゃったし。しかも、彼が帰る直前、たまたま見ちゃったんです。携帯に『みきちゃん』って子から電話があったの……」
『限りなくクロよりのグレー』
『タイミング的にクロでしょ』
『そこで問い詰めなかったの偉い』
視聴者のコメントが次々に流れていく。
「うーん、でもさ。それで『浮気してる』って決めちゃうのはまだ早い気がする。ナバちゃんが不安なのはわかるけど、相手の行動だけで決めつけるのは良くないって書いてあっ……じゃなくて! 憶測で彼と気まずくなったら、それこそ嫌じゃない?」
「……うん。せめて私、みこにゃんみたいな可愛い子に生まれてればよかったな。そしたらこんなに不安にならなかったかも」
「え? 可愛いとか可愛くないとか、関係ないよ!」
考えるより先に、言葉が出ていた。
「だって、好きな人のことでこんなに悩んで、不安になって……それでもその人を好きでいたいって思えるんでしょ? そういうナバちゃんだって、絶対かわいいよ」
ふと、隣から視線を感じて顔を向ける。
真尋がこちらを見ていた。
(……なに?)
目が合う。
すると真尋は、何事もなかったように画面へ視線を戻した。
『まぁ、みこにゃんは俺のこと信じてくれてるもんな』
『いやいや俺の嫁だから』
「こらぁ! そこ、いい加減なこと言わない。みこにゃんは誰の嫁でもないぞ」
流れていくコメントを追いながら、ふと部屋の入り口へ目をやる。
「――え」
私は、そのまま固まった。
開いた襖の向こうに、悠斗が立っていた。
訝しげな表情で私を見て、それから隣に座る真尋へ目をやる。
『……みこにゃん?』
スピーカーから聞こえたナバちゃんの声に、はっとする。
『固まった?』
『どうしたw』
私の異変に気づいたのか、真尋も顔を上げた。
「…………」
その時、真尋の足元で錫杖がかすかに光った。
(うそ)
帰ったんじゃなかったの!?
――ずる……
庭のほうから、何かを引きずるような音がした。
けれど、今の私にそれを気にしている余裕なんてない。
(ていうか、なんで戻ってきたのー!?)


