なんちゃって巫女は寺に居座る~家出ついでに配信してたら、副住職が本物の妖を祓い始めました~

 客間へ戻ろうと、縁側で土に汚れた靴下を脱いでいると、
「みとさん」
 先に戻っていた真尋から、声をかけられた。
「ん?」
「足、汚れたでしょう」
 真尋が差し出したのは、固く絞られた手ぬぐいだった。
「あ……ありがとう」
 言われて足元を見る。激しく動き回ったせいか、思ったよりも土で汚れている。
 濡れた手ぬぐいのひんやりした感触が心地良い。
 汚れを拭いていると、真尋がふと顔を上げた。
「そういえば、なんで戻ってきたんだ?」
「ああ、そうだ」
 悠斗はようやく思い出したように肩から掛けていた鞄の中を探り、
「これ。詩織から預かってたの忘れてた」
 と、封筒らしきものを真尋に差し出した。
 淡いピンクの花がプリントされた、いかにも女の子らしい封筒だ。
(詩織……?)
 思わず手を止めて見ていると、悠斗と目が合った。
「同じ大学の子。真尋、携帯持ってないからさ。急ぎじゃないと、たまに俺が伝書鳩やらされるんだよ」
「あ、そうなんですね……じゃあ、さっき真尋さんがお母さんに書いてた番号って」
「母屋の固定電話です」
「なるほど……」
 今どき携帯を持っていない理由はわからないけれど、なんとなく真尋らしい気がした。
 真尋が封を開け、便箋に目を通す。やがて、その表情がわずかに曇った。
「例の件?」
 悠斗が、急須に残ったお茶を湯呑みに注ぎながら尋ねる。
「ああ。また同じ夢を見るようになったらしい」
「え? 前にここの住職さんにお祓いしてもらって、治ったんじゃなかった?」
 悠斗の言葉に、私は手ぬぐいを手にしたまま客間へ上がった。
「前にも相談を受けてた方なんですか?」
「はい。以前、同じ悪夢を繰り返し見ると相談を受けました。夜中に目を覚ますと、人の気配もする、と」
「人の気配……」
「一度、寺で祓っています」
「じゃあ、もう大丈夫なんじゃないの?」
「そのはずだったんですが……」
 真尋が便箋へ目を落とした。
「最近になって、また同じことが起きているそうです」
「え……じゃあ、お祓いが効かなかったってこと?」
「いえ。あのあと、一度は完全に収まったと聞きました」
「じゃあ、なんで……」
 そのときだった。
 ふわり、と焦げ臭い匂いがした。
「……ん?」
 鼻をひくつかせる。
 真尋も何かに気づいたように、手元へ視線を落とした。
 薄桃色の便箋の端が、まるで内側から蝕まれるように黒く変色していく。
「真尋さん、それ……!」

 ――ボワッ!

 突然、便箋から赤い炎が上がった。
「――っ!」
「は!? なんっ……」
 真尋が咄嗟に便箋から手を放す。
 燃え上がった便箋が、畳の上に落ちた。
「ちょ、真尋!」
 悠斗が慌てて湯呑みを掴み、残っていたお茶を勢いよくかける。じゅっ、と小さな音を立てて、炎が消えた。
「……なんだよ、今の」
 悠斗が呆然と、黒く焦げた便箋を見つめる。
 真尋は答えない。ただ、険しい表情で燃え残った手紙を見つめている。
(……そうだ。悠斗さんは、妖のこと知らないんだよね)
「もしかして……詩織さんのところで、また何か起きてるってこと?」
 私が尋ねると、真尋はゆっくり首を振った。
「……わかりません」
 焦げた匂いだけが、しばらく客間に残っていた。