好きだって言われても好きなんかじゃないし、…たぶん!

初めて会った時からいい奴だなって思った。
見た目はチャラッとして、背は高いし顔はいいしこいつ絶対モテるだろーなとも思ったけど。

『只今より、ショースタジアムにてイルカショーを開催いたします。みなさま、ぜひショースタジアムにお集まりください』

ピンポンパンポーンとチャイムの後にアナウンスがされた。もうすぐイルカショーが始まるらしい、イルカショーが始まるとさらに館内は人が少なくなるように思えた。
だから見放題で、どこにいても何も邪魔するものがなく何でも好きに見られて…

「…ペンギン」

さっきも見たけど、まぁいいか。
ペンギンの水槽の前は3段くらいの階段になっている、下に降りれば水中に潜るペンギンが見られるし上から見れば地上をテクテクと歩くペンギンが見られる。
3段目の1番上から眺めてた、視点なんてどこに合ってるのかわからないぐらいぼぉーっとしてたけど。
はぁっとやたら重く感じる息を吐いて、もやのかかった胸の辺りを押さえた。

「…イルカショー、見てんのかな?」

あの女子たちと。見てるよな、たぶん。

「……。」

きっと、チサ(あの子)は好きなんじゃないかなって思った。なんとなくそんな気がした。
燈司だってイルカショー見るの楽しみにしてたし、行けばって言ったのは俺だし。だからきっと今頃、楽しそうに…

「…っ」

してたらいいじゃないか、別に。
それの何がダメなんだよ。
あの子と燈司がどうなったって俺には関係ないはずなのに、なんで嫌だって思うんだろう?
俺は燈司と一緒にいるのが楽しくて、おもしろくて、ただそれだけで。だからずっとそうしていられたらって、それが友達なんだって…思ってたのに。

だから、今こんな気持ちになるのはー…

「君可愛いね」

…すっげぇむかつく、こんな時にも声かけてくる奴がいるとか。
睨みながら声の方を向いてしまった。

「1人?暇だったらオレたちと…」

ギロッと睨みつける、苛立ち全開で。

「あ、男?」

見りゃわかんだろ!制服見ろ、制服!!
つーか制服見なくても男だろっ

「可愛い顔してるから女の子かと思った!」

目を丸くして俺の方を見る。背の高い男が2人、見下ろしてくるのがむかつく。囲むみたいに前に立って、ニヤニヤとほくそ笑むから。
思い出すんだこんな時、燈司と初めて話した時のことを。

それもこんな、どうしようもなく苛立ってた時だったー…


****


「光希って女子かと思った!」

1年の時、美化委員会に入って1回目の委員会で隣の席に座った奴に言われた第一声。まず初対面でいきなり呼び捨てもなんだよと思うけど、それ以上にイラッとして眉間にしわを寄せた。

「光希って言うから女子なのかなって思ったけど、顔見ても女子だったから」

こいつは…隣のクラスの岩瀬(いわせ)、って自己紹介してたっけ?

「超可愛いね、マジ俺全然付き合えるよ?」
「…は?」

なんでお前のが上からなんだよ。
付き合うわけないだろ、お前なんかと。
もう委員会も終わりだ、席から立ち上がってさっさと帰ろう。

「光希って身長もかわいーんだな!何センチ!?」

と思ったんだけど、立ち上がらなきゃよかったと思った。

「女子の平均くらい?あ、オレと結構差あるじゃん!」
「平均よりあるし…っ」

早く帰ろうと思ったのに立ち上がった岩瀬がわざと前に立つから帰るに帰れなくなって、見下ろしてくる岩瀬を嫌にでも見上げることになった。

「てか近くで見たらマジで超可愛いじゃん!」

ニタニタ見て来る目がいやらしくて、一歩後ろに下がった。それでもさらに近付いてこようとするから、ガタンと椅子にぶつかって。

「なぁ、光希ってー…」
「そうゆうのやめろよ」

スッと間に入り込んだ声に視線を変える、だけどそいつは岩瀬の方を睨んでた。
岩瀬より少し背が高くて、下から見てもモテるだろうなって顔してるのがわかった。

だけど、それ以上にー…

「俺が帰る約束してんの!岩瀬はしてないだろ!?」

は?
目をぱちくりしちゃったし。
そんな約束した覚えねぇし、今そんな話してねぇし…
てゆーかお前誰だよ!?

「ほら、帰るぞ」

って呼ばれて、その後ろを追いかけてしまった。なんか、そんな流れでっていうか岩瀬の前にいるよりはいいかと思って。
足早に教室を出て、誰だったかなーって思い出しながら後をついて歩いた。
委員会の自己紹介で何て言ってたっけ?聞いてたけど人多過ぎて全然覚えてねぇな。確か4組?あ、5組だっけ…

「晴永燈司!」

くるっと振り返った、前を歩きながら。

「燈司でいいから!」

これが初めてだった、燈司と話したのは。
それ以上、何も聞かなくて何も言わなくてただ笑ってるだけで。

「1組の雨谷光希だっけ?よろしくな!」

その瞬間、心の奥がきゅーってなったんだ。
少しだけドキドキする心臓を感じて、燈司を追いかけながら隣に並んだ。

「…ありがと」

隣は見られなかったけど、でもたぶん笑ってた。俺の声に笑って返してた。
そんな隣が居心地良くて、約束なんかした覚えなかったのにその日から一緒に帰るのが当たり前になってた。

燈司といるのは楽しくて、おもしろくて、燈司の隣は俺の場所だって思ってた。

そこにいるのは俺がよかったー…


****


「何泣いてんの?かわいー」

むかつく、今こんな奴らと話してる場合じゃないのに。
別に泣いてなんかねぇし、泣いてなんか…でも息を吸ったら苦しいから、胸が痛くて上手く吐けないんだ。

「君可愛いから全然男でもいーよ」

なんで今気付くんだよ、なんで今知るんだよ。
ずっと好きだった、こんなに苦しくなるぐらい好きだった。
だけどそばにいすぎてわからなかったんだ、それが普通のことに思えてたから。

初めて会った時から、きっと恋に落ちてたんだよ。

「慰めてあげよっか、オレたちが♡」
「やめろ…っ」

掴まれそうになった腕から逃げようと振り払った、だけどそのせいで後ろに負荷がかかったから。
あ、やばい階段!
このままだったら後ろに…なんて思う間もなく滑った足のせいでどんっと鈍い音を立てて尻もちをついた。

「あ、やべ…」
「もういいよ、行こうぜ!」
「あ、あぁそうだなっ」

……。
この状況は置いてくのかよ、マジで最悪なんだけど。
睨んじゃったねぇかよ、マジでなんだよこれ…
なんでこんなことしてるんだろ?

本当に、何もかも最悪ー…

「光希!」

立ち上がる気にもなれなくて目を伏せるように俯きかけた時、どこからか声が聞こえた。
そんなのすぐわかった、燈司の声だって。

「大丈夫か!?」

駆け寄って来た燈司は俺の前にしゃがみ込んだ。焦った様子ではぁはぁと肩で息をして。

「ケガは!?」
「あ、えっと…大丈夫」
「お前、ほんと心配させるなよ~…」
「……。」

はぁーっと長い息を吐いて顔を伏せた。
前髪の隙間から額の汗が見えて、よっぽど急いで来たらしい。
そんなに走って来たのかよ、わざわざ俺を探して…

「イルカショーは!?」

燈司を目の前にして思い出した。
今やってるんだった!もう始まってる…っ

「なんでここにいるんだよ!?」

見に行ったんじゃないのかよ、あの子たちと。

「なんでって…」
「始まってるぞ、早く行けよ!」
「いーんだよそれは」
「何がいいんだよ!絶対見るって言ってたじゃねぇーかよっ!」
「言ったけど!」

気付いたら燈司を目を合わせて言い合ってた。
燈司がキリッと眉を吊り上げる、まだはぁはぁと息をしてじっと俺を見てる。すぅっと大きく息を吸って、でもずっと俺のことを見たままで全部の息を吐くように叫ぶから。

「俺は光希とイルカショーが見たいんだっつーの!」

………は?
やばい、めちゃくちゃ目を見開いちゃった。
急に立ち上がるから声が響いて、ペンギンもびっくりしてるだろーが。

「だから1人でいいとか言うなよ!よくないんだよ、光希がいなきゃ意味ねぇーんだよ…っ」

急に声に勢いを失くすから。
ぎゅっと燈司の手に力が入ったのがわかった、握りしめた手が震えてた。
キリッとしてた眉が下がって俯きそうになる、だから咄嗟に立ち上がって燈司に…っ

「いったぁッ」

とんっと足を踏み込んだ瞬間、激痛が走った。

「え、光希!?どした!?」
「足…っ!」
「足!?」

あ、思いっきりやってる。これはやってる、さっきの衝撃で足やってる。
全然気付かなかったけど、これは確実に…!
ズキーンッと衝撃波みたいな痛みに次の足を踏み出すこともできなくて少しでも動いたらあれだ、ピキピキ足が震えてこれは…っ

「!?」

ふわっと急に体が軽くなった、一瞬何が起きたのかよくわかんなくてパチパチと瞬きをした。
え、地面が遠い…?

「っておい!何してんだ!?」

燈司に持ち上げられてた。それもひょいっと、軽く小さい子供を抱っこするみたいに。

「ケガしてんだろ?」
「いいから!大丈夫だから!」
「大丈夫じゃねぇだろ」
「やめろよ、おい!みんな見て…っ」
「イルカショー行ってて誰も見てねぇーよ!」
「でも…っ」

今近付いたらやばい気がして、燈司に密着してるみたいなの絶対やばい。
ドキドキしてるから、心臓がうるさいくらいドキドキしてこんなにくっ付いたら燈司に聞こえちゃうんじゃないかって…今までこんなことなかったのに、燈司といてドキドキするなんて。
こんなに近くにいるのに顔も見られなかった。

「燈司やっぱいい!」
「うわ、急に暴れんな!ちゃんと捕まっとけ!」

さらにぎゅっと燈司の腕に力が入る、だからもっと心臓の音は大きくなって止められなくなる。
少しだけ手が震えてた、ドキドキが溢れて手にも伝わっちゃって。
ゆっくり燈司の肩に触れた。

「…、ん」

顔が火照る、誰にも見られたくなくてわざと床を見た。涼しい水族館の中で顔が熱くなるのを感じたら、自覚ないなんてもう言えねぇよ。

俺は燈司のことがー…

「おとなしく抱かれてろよ」
「言い方が、嫌過ぎる」

好きだ、燈司に触れてハッキリそう思った。


****


「結構腫れてね?」
「いや、いいよこれくらい」
「よくねぇーよ、捻挫は癖になるんだぞ!」
「……。」

燈司に運ばれるがままバスの中に戻って来た。
1番後ろの真ん中の席に座らされ、その前にしゃがみ込んだ燈司が俺の足を見てる。これはこれで恥ずかしいんだけど。
ケガしたって言ったら開けてくれて、そんでもって開けてくれた運転手の人はバスの外で腕を伸ばしたり足を伸ばしたりして運動してる。
ずーっとバスの中でも待ってるのも疲れるよなーって…つまりは今、バスの中に2人きりで。

「あの…、燈司ほんといいから」
「よくねぇよ」
「大したことないって!」
「あ、なんか冷やすものあった方がい?ペットボトルでも買ってくるか?」
「だからいいって、そんなのなくてもっ」
「買ってくるわ」

燈司が立ち上がった、よっと声を出しながら立ち上がって俺に背を向けようとするから…
思わず手を伸ばしちゃった。燈司の腕を掴んで、引っ張るみたいに。

「いいから、…行かないで」

下を向いて、燈司の顔は見られなかったけどぎゅっと腕を握った。
やばい、どんな声出してんだ。かよわ過ぎるだろ。
しかもこんなことしてどうするんだ、だけどもう燈司にどこにも行ってほしくなくて…

「…っ」

そっと手が包み込まれた。燈司が握ったから、優しく触れるみたいに。
立ち上がった燈司がもう一度しゃがみ込む、ぎゅっと手を握ったまま下から覗くように俺の顔を見た。

「やっと自覚したかよ」

ケッと舌打ちされた、目を細めて。

「はぁ!?」

で、変な声で返しちゃったしな。

「はぁ~~~…」
「な、なんだよっ」

がっしがしと頭を掻いて、下を向いたかと思えばずっしり重い息を吐いて。息を吐き切ったらすぐに前を向いた。
その真っ直ぐな瞳にドキッとして。

「離れるわけねぇーって言っただろ?」

息が、止まるかと思った。あまりに真剣な顔で俺を見るから。
燈司が握った手が熱い、そこから熱が入り込んでくるみたいに体中が熱くなる。

「つーか離れられないんだって、俺が」

ドキドキがまた大きくなって溢れ出すからー…

「光希のことが好きなんだよ、離れたくない」

こてんっと頭を俺の膝の上に乗せた。俺よりでかいのに小さくなって、ぎゅーっと手は握ったまま離さないからドキドキは増していくばかりで。
膝の上に乗った燈司の頭を見つめる。心臓がやばい、もう耐えられないぐらい体から音が響きまくってるんだけど。
ど、どうしたらいいんだ?これはどうすれば…?
体が固まって動けない、燈司のつむじを見たまま…

「光希」
「な、なんだよっ」

急に顔を上げたから声がどもったしひっくり返った。すごい近い距離で目が合った、すげぇ焦るし。

「覚えてる?」
「何を?」
「光希と初めて喋った時!光希泣きそうになってたやつ」
「……。」

覚えてるけど、そこは覚えててほしくなかった。
つーか泣きそうになってねぇし…たぶん。

「ほら岩瀬に絡まれてて、まぁ岩瀬しつこいからな」

なんで今それ?思い出してイラッとしちゃったねぇーかよ。

「あれはさ光希が困ってるぽかったから声かけたんだけど、あの時声かけてなかったらたぶん今こうしてなくて」

…、それは燈司が助けてくれたから。

「あの時、思ったんだよ」

燈司がいてくれたからー…

「俺が守ってあげなきゃーって」
「……。」
「なんだよ、その顔」
「燈司が変なこと言うからだろ!」

どうゆう意味だよそれは!なんで俺が燈司に守られなきゃいけねぇーんだよっ

「泣きそうになりながらありがとって言う顔可愛かったぞ」
「ふざけんなよ!」

マジで何言ってんだ、可愛いとかそうゆうのもう聞き飽きて…っ
でも手を離したくなくて、燈司の手は離したくなくて。少しだけ嬉しいとか思っちゃったし、だって燈司の手が優しいから。

「光希が好きだ」

燈司の瞳に映る自分にドキドキして握られた手が汗ばむ。ぎゅーっとさらに手に力が入って、指を絡ませるから。

「光希は?」

この流れで何を聞かれてるかぐらいわかるし、何を言えばいいのかだってわかってる。だけどそんな風に見つめられたら心臓のドキドキはもう限界で上手く言葉が出て来ない。
だ、だって今声出してもちゃんと出るかわかんねぇーし!また変な声出るかもだし…っ

「教えろよ、自覚したんだろ?」
「…っ」

じっと俺を見つめる燈司を、ごくんっと息をのんで見つめ返した。
ドクンドクン響く心臓の音を感じながらゆっくり口を開く、精一杯息を吐いて。

「…両想いなんじゃん」

“なんだ、両想いかと思ったのに”
一瞬、目を逸らした。だけどすぐに視界が奪われたから。

「マジで素直じゃねぇーな」

もう燈司しか見えなくて、燈司さえも見えなくて。
真っ暗になるから、ただ唇に体温を感じるだけで。
ドキドキして、もはや何が起きてるのかもわからない。

だけど、ドキドキして気持ちいいー…


****


「なぁ光希、ほんとにいいわけ?」
「大丈夫だって、先生に手当てしてもらったし普通に歩けるし」
「でもさ」

水族館は、結局あれからほとんど見られなかった。
保健の先生が氷を用意してくれて冷やしてたら腫れは引いて、痛みもだいぶなくなった。そのせいでずーっとバスの中ではあったけど。

「家までちょっとだし歩いて帰れるから」

学校まで戻って来てあとは帰るだけ、いつもの帰り道だしこれくらいならなんとかなりそうだし。
もうすぐ日が暮れる、遠足の帰りはいつもより遅いから。

「てゆーか燈司までバスにいなくてよかったのに、せっかくの遠足なんだから水族館見てたら…」
「いーんだよ、俺が光希といたかったから」
「……。」

ふふんっと鼻歌交じりで、そんなに堂々と言われるとこっちが恥ずかしんだけど。
いつもと変わらない帰り道、当たり前みたいに燈司と帰るだけなのに…なぜか緊張してた。
ずっとドキドキが止まらなくて、隣を歩くだけこんなドキドキするんだって昨日までの俺とはまるで違うから。
は、なんだコレ?やばくない?なんかやばくないか…!?

「光希、手繋いで帰るか?」
「はっ!?なん…っ」

全然当たり前じゃないことを言い出すからギョッとして変な声が出た。わかりやすく大袈裟な反応を見せて、つい燈司を見上げて…そのままスッと下を向いた。
ドキドキする鼓動を、押さえて。
まぁ別に、俺が言ったわけじゃないし?燈司が言ったんだから、まぁ別に?

「…燈司が繋ぎたいならいいけど」
「じゃあやめようかな」
「な…っ」

なんだよ、それ…!って言いかけて気付いた、にやってした燈司に。
しまった、ハメられた。
すっげぇーにやにやして嬉しそうに…っ

「誰が繋ぐかよっ!」
「噓噓、俺が繋ぎたいんだって」

スルッと指を絡ませる、余裕しゃくしゃくに笑って。
それがちょっとむかつくけど、むかつくんだけど、それも嫌じゃないっていうかこれもあれで…
隣を見上げればふっと笑った燈司がいるから。

この隣が、良くて。
だからこの先も、ずっと隣がいい。

「で、光希はいつ好きだって言ってくれんの?」
「……。」