「光希って俺のこと好きじゃね?」
突然そんなことを言われて、つい眉間にしわを寄せちゃったじゃねぇか。
ぐーっと顔を上げて隣を見る、燈司と目を合わせるにはこれくらい上を見ないといけないのダルい。
「は?」
マジで急に何言い出すんだ?上から俺のこと見て何を…
つーか今遠足のバスの席決めだぞ!黒板に名前書いてる時にする話じゃないだろ!
なのに返事を待つみたいにじっと俺の方を見てくるから。
「好きじゃねぇし!」
カッと目に力、どころか眉間にさらに力が入った。
自習を使った遠足のバスの席決めはまぁまぁ騒がしくて、ちょっとくらい喋ったって怒られたりすることはないけど…どう考えてもこのタイミングでする話じゃねぇ、マジで何言ってるか意味わかんねぇ。
雨谷光希、高校2年生。
高校生男子の平均身長には届かず、でも女子の平均なら超えてっから。2センチぐらい。
そんでもってこいつは晴永燈司、余裕で越した男子の平均身長とちょっと伸ばした毛先を軽くハネさせる余裕に周りからはイケメンって言われてる洒落た奴。
「なんだ、両想いかと思ったのに」
「……は?」
つんっと前を向いて黒板に名前を書き始めた。
そんな横顔を見て変な声出ちゃったじゃねーか、テキトーなこと言ってんじゃねぇよ。
「光希は?席どこにすんの?」
「あ?え…っ、俺は…」
……。
チョークを持ち直して黒板の方を見る。空いてるバスの席を探して右から左、左から右をちらーっと確認した。
だけど名前を書くところなんか他にないから、燈司に見られながら名前を書いた。
「なんだよ、やっぱ好きじゃん」
燈司の隣に。
「好きじゃねーよ!」
別に好きじゃない、そんなんじゃないけど。
「…1番仲良いのは燈司だし」
クラスで、いや学校で。
だから隣に名前を書いただけ、だけど燈司は満足そうに笑ってた。だよな~とか言いながら、笑って…
そりゃ友達としては好きだけどさ!一緒にいて楽しいし、ラクだし、喋りやすいし、同じクラスになってからはだいたいつるんでるし。そもそも男同士なわけだから、友達以上もそれ以下でもねぇーし。
そうじゃねぇの?
いい奴だけどな、初めて会った時から燈司はー…
「光希、水族館で何見たいー?俺はイルカかな、やっぱトレンドは押さえておきたい」
「トレンドってなんだよ」
「水族館のトレンドだろ、イルカは」
席決めが終わった放課、俺の席の前にやってきた燈司がスマホを開いた。勝手に前の席に座って、何か探してるみたいにスマホをいじってる。
つーかさっきのあれはなんだったんだ?何事もなく普通に水族館の話してるけど。
「あ、これこれ!」
トントンッとタップしたスマホを俺の方に見せたから、何を探してたんだと思って視線を向ける。
水族館のカフェ?っぽくていろんなメニューが載ってるけど…
「七色クラゲフロート!さっき女子たちが教えてくれたんだけど」
これっと燈司が指を差したところにはキラキラした可愛らしいドリンクが映ってた。名前の通り七色の、ピカピカ光るソーダフロートっぽい。
「光希こうゆうの好きじゃん?」
「うん、すっ」
「光希ちゃんそうゆうの好きなの~??」
サッと割り込つように入って来た、クラスメイトの奴らが。
うわ、最悪。マジで最悪、このやり取りの続きは嫌な予感しかないんだよ。
「光希ちゃん女の子みたいだもんね~!」
「女の子みたいじゃねぇーよ!」
「あ、女の子だった?」
「違うしふざけんな!」
ダル絡みうざい、マジでうざい。
毎回毎回ことあるごとに突っ込んでくるこいつらの絡み本当どうにかなんないのかよ、いい加減にしてほしい。
「女の子みたいに可愛い光希ちゃん!」
「だからっ」
でも俺の言葉じゃ全然効果なんかなくてー…
「そうゆうのやめろよ」
燈司の声で、スッと引いていくみたいに声が消える。普段とは違う少し低い声が響くから、みんなが一瞬怯むんだ。
いつだってそうだ。
初めて会った時からずっと、燈司は…
「これは俺が飲みたいんだよ!」
もう一度スマホを指さした、ふんっと鼻を鳴らすみたいに。だからその瞬間、空気が変わって気付けばみんな俺じゃなくて燈司を見てる。
「お前がかよっ」
「まだモテようとしてんのか!女子に媚びるな!」
「そーだそーだ!」
「俺はクラゲのように儚く美しい存在でありたいと思ってる」
「バカだろ、燈司」
これでハハッと笑ったら終わり、満足してみんな戻っていく。マジであっという間、俺だったら永遠といじられて最悪の時間続きなのに。
「あ、光希」
「ん?」
トンッとタップしてスマホを閉じた。机に頬杖をついて、少しだけ首を傾けて俺を見る。
「水族館でも俺のそばから離れんなよ」
「なんで?」
「だって光希モテるから」
「は?」
いや、どう考えてもモテるのはお前だろ。その身長にルックスにおまけに性格までいいんだ、女子にも男子にも人気だろーが。
「あと小さいから迷子になったら困る」
「黙れよ」
「嘘嘘、本気」
「本気じゃねぇーか!」
くすくす笑って、髪を掻き上げる。
今のだって女子が見たらキャーって言いそうなぐらい様になってる。
「あ、そうだ!俺今日今日用事あるから先帰っていいから」
「え、用事?って何の?」
「ん~…まぁちょっと、あれだ」
「あれ…?」
****
ホームルームが終わって教室から出た、あとは帰るだけで別にすることなんてない。部活もやってないし、委員会もないし、何にもなくて…
「……。」
下駄箱で靴に履き替えようと思って手をかけた。
だけど頭の中に浮かんだ“あれ”にふと手が止まった。
…まぁちょっとって何なんだ?ちょっとって、何がちょっとなんだ??
言えないちょっとって何が…
「別に何でもいいけど」
先帰ってって言われたんだから先帰るだけだし。たぶん俺には関係ないことだし。
どーせまた明日会うんだから、わざわざ待ってなくたって…
「光希待っててくれたのか!」
「……まぁ、うん」
ぼけーっと下駄箱の前で座ってたらしばらくして燈司が来た。本当にちょっとだったのかわりとすぐ、だったら別に先帰っててとか言わなくてもいいぐらい。
「…なんかあった?」
のか、とか思ったり。
だってほらいつも帰ってるから、いつも当たり前みたいに一緒に帰ってるから急にそんなこと言われると。
「あー…いや、それは…」
え、目逸らす?そんなわかりやすく逸らす??目泳いでんじゃん!
「なんだよ、俺には言えないことなのかよ」
「そうじゃないけど~…」
「じゃあなんだよっ」
イラッした、あからさまに気まずそうな顔をしたからそんなに言えないことなのかって。
目を逸らしたまま決まりが悪そうに口を開くのにイラついた。
「…小テスト赤点だったんだよなー」
……は?
ぽんぽんっと砂埃を払いながら立ち上がろうとして目を細めてしまった。
「勉強したんだけど!範囲間違えてて…そんで先生に呼び出されてっていうかっ」
「……。」
「…マジ恥ずかしいっ、と思って光希に言えなかった」
「…は?」
眉間にしわを寄せたままパチパチって瞬きをする。
全然意味がわからねぇんだけど、何言ってんだ?
どう理解しようにもわからないんだが??
「光希にダサいとこ知られたくねーじゃん」
「…マジ意味わかんねぇーんだけど」
口を尖らせて言うことでもないだろそれ、何かわいこぶってんだよ。範囲間違えててはどうかと思うけど、それ知ったとこで別にどうのとかねぇよ。
「そんなことどうでもいいし」
いや、ダサいとは思うけど。
「もう帰るぞ、気にして損したわ!」
はぁっと息を吐いて玄関の方を向いた。
マジで気にして損した、そんなことなら別に待ってなくたって…
「光希ってやっぱ俺のこと好きじゃね?」
隣に並んだからつい見上げてしまった。
目が合う、下を向いてる燈司と。
「それ何?別に好きとかそうじゃないとか友達に思うことなくないか?」
「友達だったらなー」
「…友達じゃないのかよ」
数少ない友達なんだけど、俺にとったら。燈司からしたらたくさんいる中の1人なんだろうけど。
…地味に傷付いた、今のは。
玄関を抜けて校門をくぐって、右に曲がって真っ直ぐ歩く。秋のこの季節はまだ少し暑いけど、真夏に比べたら全然マシだ。
燈司が歩く隣を同じように歩いて、たまにふわーっと吹く風を感じながら…
―…っ!
ちょっとだけ近付き過ぎたせいで手が触れた。燈司の右手にちょっとだけ、ふわっと撫でるみたいに当たっちゃって。
だけど何食わぬ顔で静かに離れようと、したのに。
「!」
ぎゅっと手を握られた。俺より全然背が高いから手だって俺より大きかった、すっぽり収まるぐらい。
「何…してんの?」
「触れたから」
「は?」
「繋いどこうかなって」
「…は?」
なんで???
そんでこんなことしておきながらその顔はなんだ、なんでしれーっとしてんだ。
なんで普通みたいに…!
「…。」
あ、こいつモテるんだった。この顔でこの身長で、キャーキャー言われてんだった。
「光希は俺と手繋ぎたいとか思ったことねぇの?」
「ねぇだろ、普通に」
普段からそんなことしてんだ。
だから今も、ただなんとなくで俺相手にだって…
「燈司~!」
きゃーっと女子の声が聞こえてあわてて手を離した。こんなとこ見られたらたまったもんじゃない。
「ねぇねぇ燈司、水族館どこ行くか決まってる~?」
3人くらいの女子がわーっと燈司の周りに集まって来た。
クラスの女子じゃないな、別のクラスの…?
「チサじゃん」
チサって言うのか、真ん中で喋ってる子は。俺の知らない女子だ。
「まだ何も決まってないけど」
「じゃあうちらと回らない?」
「うちらイルカショー行くの!やっぱ定番でしょ!」
「燈司も一緒に行こうよ~!」
他のクラスからも名前で呼ばれるくらい燈司は人気がある、ついでにイルカも人気がある。
“光希、水族館で何見たいー?”
別に一緒に見ようって約束はしてない、ただそう言われただけで。だから俺と回るとはまだ決まってない。
でもなんか手持ち無沙汰だったから、燈司に離された手が空いて落ち着かなかったから…
「!」
きゅっと燈司の制服の裾を掴んだ。女子たちに気付かれないように後ろから、ほんの少し握るみたいに。
たぶん気付いた燈司は一瞬ハッとしたように見せてた。
「それか燈司他に見たいものある?あるならそれでもっ」
「悪い!先約あるの忘れてた!」
片手で謝る仕草をして、ぺこっと軽く頭を下げる。女子たちはぷくっと頬を膨らませたり、えーっと声を出したり、不満そうだった。
「燈司いないとつまんないじゃーん」
「気が向いたら行くわ」
「それ絶対来ないやつじゃん」
「向きそうな顔してないし!」
だからひと通り喋ったらばいばーいと手を振って、たぶん俺のことが見えてない女子たちは燈司にだけ手を振って歩いて行った。
いいんだけど別に、そんなことはどうでも。
だけどきゅっと制服を掴んだまま離せなかった。
「気が向いたら行くのかよ」
結局行くんじゃん、とか思ったり。
「…そばから離れるなって言ったくせに」
“水族館でも俺のそばから離れんなよ”
気にしてたわけじゃねぇけど、頭の中に残って思い出す。テキトーに言ったことでもなんか頭に残っちゃって、ぎゅーってもっと制服を握りたくなる。
それがどうのとかないけど、全然ないんだけど…
「やっと言ってくれるわけ?俺のことが好きだって」
燈司が俺の手に触れる、制服を握った手にそっと触れてそのままぎゅっと包み込んだ。
「絶対そうだろうなーって思ってたのにいざ俺が告ったらなんだコイツみたいな目で見てくるし、マジかよ俺の勘違いかよーとかって思ったわ」
だから手を繋ぐみたいになった。燈司と向き合って、だけど燈司の顔は見られなかった。
「光希ってわかりやすいじゃん?今のは結構かわいーとか思っちゃったしな」
全然わかんなくて、どうしたらいいのか全然わかんなくて…
「俺が光希から離れるわけねぇーじゃん、離れる気なんかさらっさらないんだからそんな顔すんなって…は?」
すっげぇー眉間にしわ寄せちゃったじゃねぇか、ギロッて燈司を睨むみたいになったし。
「え、どーゆうこと?」
「それはこっちのセリフだろ!手離せっ!」
「は!?なんで、だって今…っ」
確実に聞きたいのは俺の方だろ、そうゆうことだよ意味わかんねぇーよ!
なんで燈司のが困惑した顔してんのかさっぱりだし、この流れもさっぱりなんだよ。だいたい何回聞いてくるんだ、何度言われても一緒なんだよ。
「俺は好きじゃねぇよ!俺は燈司のこと友達として…っ」
好き、なだけで。
これが恋とかそうゆう好きじゃない。
なんてたって俺は男なんだよそれくらいわきまえてるわ!ふざけんな!
そんなの自分でわかって…っ
「え、光希って自覚ないの?」
目を丸くして口を開けた。ちょっと間抜けな顔してた。
つーか自覚って?何の自覚??
「あ、そーゆう感じ?」
いや、だからどうゆう感じ?言ってることが全然…
「絶対俺のこと好きじゃん!」
「好きじゃねぇって言ってんだろ!」
突然そんなことを言われて、つい眉間にしわを寄せちゃったじゃねぇか。
ぐーっと顔を上げて隣を見る、燈司と目を合わせるにはこれくらい上を見ないといけないのダルい。
「は?」
マジで急に何言い出すんだ?上から俺のこと見て何を…
つーか今遠足のバスの席決めだぞ!黒板に名前書いてる時にする話じゃないだろ!
なのに返事を待つみたいにじっと俺の方を見てくるから。
「好きじゃねぇし!」
カッと目に力、どころか眉間にさらに力が入った。
自習を使った遠足のバスの席決めはまぁまぁ騒がしくて、ちょっとくらい喋ったって怒られたりすることはないけど…どう考えてもこのタイミングでする話じゃねぇ、マジで何言ってるか意味わかんねぇ。
雨谷光希、高校2年生。
高校生男子の平均身長には届かず、でも女子の平均なら超えてっから。2センチぐらい。
そんでもってこいつは晴永燈司、余裕で越した男子の平均身長とちょっと伸ばした毛先を軽くハネさせる余裕に周りからはイケメンって言われてる洒落た奴。
「なんだ、両想いかと思ったのに」
「……は?」
つんっと前を向いて黒板に名前を書き始めた。
そんな横顔を見て変な声出ちゃったじゃねーか、テキトーなこと言ってんじゃねぇよ。
「光希は?席どこにすんの?」
「あ?え…っ、俺は…」
……。
チョークを持ち直して黒板の方を見る。空いてるバスの席を探して右から左、左から右をちらーっと確認した。
だけど名前を書くところなんか他にないから、燈司に見られながら名前を書いた。
「なんだよ、やっぱ好きじゃん」
燈司の隣に。
「好きじゃねーよ!」
別に好きじゃない、そんなんじゃないけど。
「…1番仲良いのは燈司だし」
クラスで、いや学校で。
だから隣に名前を書いただけ、だけど燈司は満足そうに笑ってた。だよな~とか言いながら、笑って…
そりゃ友達としては好きだけどさ!一緒にいて楽しいし、ラクだし、喋りやすいし、同じクラスになってからはだいたいつるんでるし。そもそも男同士なわけだから、友達以上もそれ以下でもねぇーし。
そうじゃねぇの?
いい奴だけどな、初めて会った時から燈司はー…
「光希、水族館で何見たいー?俺はイルカかな、やっぱトレンドは押さえておきたい」
「トレンドってなんだよ」
「水族館のトレンドだろ、イルカは」
席決めが終わった放課、俺の席の前にやってきた燈司がスマホを開いた。勝手に前の席に座って、何か探してるみたいにスマホをいじってる。
つーかさっきのあれはなんだったんだ?何事もなく普通に水族館の話してるけど。
「あ、これこれ!」
トントンッとタップしたスマホを俺の方に見せたから、何を探してたんだと思って視線を向ける。
水族館のカフェ?っぽくていろんなメニューが載ってるけど…
「七色クラゲフロート!さっき女子たちが教えてくれたんだけど」
これっと燈司が指を差したところにはキラキラした可愛らしいドリンクが映ってた。名前の通り七色の、ピカピカ光るソーダフロートっぽい。
「光希こうゆうの好きじゃん?」
「うん、すっ」
「光希ちゃんそうゆうの好きなの~??」
サッと割り込つように入って来た、クラスメイトの奴らが。
うわ、最悪。マジで最悪、このやり取りの続きは嫌な予感しかないんだよ。
「光希ちゃん女の子みたいだもんね~!」
「女の子みたいじゃねぇーよ!」
「あ、女の子だった?」
「違うしふざけんな!」
ダル絡みうざい、マジでうざい。
毎回毎回ことあるごとに突っ込んでくるこいつらの絡み本当どうにかなんないのかよ、いい加減にしてほしい。
「女の子みたいに可愛い光希ちゃん!」
「だからっ」
でも俺の言葉じゃ全然効果なんかなくてー…
「そうゆうのやめろよ」
燈司の声で、スッと引いていくみたいに声が消える。普段とは違う少し低い声が響くから、みんなが一瞬怯むんだ。
いつだってそうだ。
初めて会った時からずっと、燈司は…
「これは俺が飲みたいんだよ!」
もう一度スマホを指さした、ふんっと鼻を鳴らすみたいに。だからその瞬間、空気が変わって気付けばみんな俺じゃなくて燈司を見てる。
「お前がかよっ」
「まだモテようとしてんのか!女子に媚びるな!」
「そーだそーだ!」
「俺はクラゲのように儚く美しい存在でありたいと思ってる」
「バカだろ、燈司」
これでハハッと笑ったら終わり、満足してみんな戻っていく。マジであっという間、俺だったら永遠といじられて最悪の時間続きなのに。
「あ、光希」
「ん?」
トンッとタップしてスマホを閉じた。机に頬杖をついて、少しだけ首を傾けて俺を見る。
「水族館でも俺のそばから離れんなよ」
「なんで?」
「だって光希モテるから」
「は?」
いや、どう考えてもモテるのはお前だろ。その身長にルックスにおまけに性格までいいんだ、女子にも男子にも人気だろーが。
「あと小さいから迷子になったら困る」
「黙れよ」
「嘘嘘、本気」
「本気じゃねぇーか!」
くすくす笑って、髪を掻き上げる。
今のだって女子が見たらキャーって言いそうなぐらい様になってる。
「あ、そうだ!俺今日今日用事あるから先帰っていいから」
「え、用事?って何の?」
「ん~…まぁちょっと、あれだ」
「あれ…?」
****
ホームルームが終わって教室から出た、あとは帰るだけで別にすることなんてない。部活もやってないし、委員会もないし、何にもなくて…
「……。」
下駄箱で靴に履き替えようと思って手をかけた。
だけど頭の中に浮かんだ“あれ”にふと手が止まった。
…まぁちょっとって何なんだ?ちょっとって、何がちょっとなんだ??
言えないちょっとって何が…
「別に何でもいいけど」
先帰ってって言われたんだから先帰るだけだし。たぶん俺には関係ないことだし。
どーせまた明日会うんだから、わざわざ待ってなくたって…
「光希待っててくれたのか!」
「……まぁ、うん」
ぼけーっと下駄箱の前で座ってたらしばらくして燈司が来た。本当にちょっとだったのかわりとすぐ、だったら別に先帰っててとか言わなくてもいいぐらい。
「…なんかあった?」
のか、とか思ったり。
だってほらいつも帰ってるから、いつも当たり前みたいに一緒に帰ってるから急にそんなこと言われると。
「あー…いや、それは…」
え、目逸らす?そんなわかりやすく逸らす??目泳いでんじゃん!
「なんだよ、俺には言えないことなのかよ」
「そうじゃないけど~…」
「じゃあなんだよっ」
イラッした、あからさまに気まずそうな顔をしたからそんなに言えないことなのかって。
目を逸らしたまま決まりが悪そうに口を開くのにイラついた。
「…小テスト赤点だったんだよなー」
……は?
ぽんぽんっと砂埃を払いながら立ち上がろうとして目を細めてしまった。
「勉強したんだけど!範囲間違えてて…そんで先生に呼び出されてっていうかっ」
「……。」
「…マジ恥ずかしいっ、と思って光希に言えなかった」
「…は?」
眉間にしわを寄せたままパチパチって瞬きをする。
全然意味がわからねぇんだけど、何言ってんだ?
どう理解しようにもわからないんだが??
「光希にダサいとこ知られたくねーじゃん」
「…マジ意味わかんねぇーんだけど」
口を尖らせて言うことでもないだろそれ、何かわいこぶってんだよ。範囲間違えててはどうかと思うけど、それ知ったとこで別にどうのとかねぇよ。
「そんなことどうでもいいし」
いや、ダサいとは思うけど。
「もう帰るぞ、気にして損したわ!」
はぁっと息を吐いて玄関の方を向いた。
マジで気にして損した、そんなことなら別に待ってなくたって…
「光希ってやっぱ俺のこと好きじゃね?」
隣に並んだからつい見上げてしまった。
目が合う、下を向いてる燈司と。
「それ何?別に好きとかそうじゃないとか友達に思うことなくないか?」
「友達だったらなー」
「…友達じゃないのかよ」
数少ない友達なんだけど、俺にとったら。燈司からしたらたくさんいる中の1人なんだろうけど。
…地味に傷付いた、今のは。
玄関を抜けて校門をくぐって、右に曲がって真っ直ぐ歩く。秋のこの季節はまだ少し暑いけど、真夏に比べたら全然マシだ。
燈司が歩く隣を同じように歩いて、たまにふわーっと吹く風を感じながら…
―…っ!
ちょっとだけ近付き過ぎたせいで手が触れた。燈司の右手にちょっとだけ、ふわっと撫でるみたいに当たっちゃって。
だけど何食わぬ顔で静かに離れようと、したのに。
「!」
ぎゅっと手を握られた。俺より全然背が高いから手だって俺より大きかった、すっぽり収まるぐらい。
「何…してんの?」
「触れたから」
「は?」
「繋いどこうかなって」
「…は?」
なんで???
そんでこんなことしておきながらその顔はなんだ、なんでしれーっとしてんだ。
なんで普通みたいに…!
「…。」
あ、こいつモテるんだった。この顔でこの身長で、キャーキャー言われてんだった。
「光希は俺と手繋ぎたいとか思ったことねぇの?」
「ねぇだろ、普通に」
普段からそんなことしてんだ。
だから今も、ただなんとなくで俺相手にだって…
「燈司~!」
きゃーっと女子の声が聞こえてあわてて手を離した。こんなとこ見られたらたまったもんじゃない。
「ねぇねぇ燈司、水族館どこ行くか決まってる~?」
3人くらいの女子がわーっと燈司の周りに集まって来た。
クラスの女子じゃないな、別のクラスの…?
「チサじゃん」
チサって言うのか、真ん中で喋ってる子は。俺の知らない女子だ。
「まだ何も決まってないけど」
「じゃあうちらと回らない?」
「うちらイルカショー行くの!やっぱ定番でしょ!」
「燈司も一緒に行こうよ~!」
他のクラスからも名前で呼ばれるくらい燈司は人気がある、ついでにイルカも人気がある。
“光希、水族館で何見たいー?”
別に一緒に見ようって約束はしてない、ただそう言われただけで。だから俺と回るとはまだ決まってない。
でもなんか手持ち無沙汰だったから、燈司に離された手が空いて落ち着かなかったから…
「!」
きゅっと燈司の制服の裾を掴んだ。女子たちに気付かれないように後ろから、ほんの少し握るみたいに。
たぶん気付いた燈司は一瞬ハッとしたように見せてた。
「それか燈司他に見たいものある?あるならそれでもっ」
「悪い!先約あるの忘れてた!」
片手で謝る仕草をして、ぺこっと軽く頭を下げる。女子たちはぷくっと頬を膨らませたり、えーっと声を出したり、不満そうだった。
「燈司いないとつまんないじゃーん」
「気が向いたら行くわ」
「それ絶対来ないやつじゃん」
「向きそうな顔してないし!」
だからひと通り喋ったらばいばーいと手を振って、たぶん俺のことが見えてない女子たちは燈司にだけ手を振って歩いて行った。
いいんだけど別に、そんなことはどうでも。
だけどきゅっと制服を掴んだまま離せなかった。
「気が向いたら行くのかよ」
結局行くんじゃん、とか思ったり。
「…そばから離れるなって言ったくせに」
“水族館でも俺のそばから離れんなよ”
気にしてたわけじゃねぇけど、頭の中に残って思い出す。テキトーに言ったことでもなんか頭に残っちゃって、ぎゅーってもっと制服を握りたくなる。
それがどうのとかないけど、全然ないんだけど…
「やっと言ってくれるわけ?俺のことが好きだって」
燈司が俺の手に触れる、制服を握った手にそっと触れてそのままぎゅっと包み込んだ。
「絶対そうだろうなーって思ってたのにいざ俺が告ったらなんだコイツみたいな目で見てくるし、マジかよ俺の勘違いかよーとかって思ったわ」
だから手を繋ぐみたいになった。燈司と向き合って、だけど燈司の顔は見られなかった。
「光希ってわかりやすいじゃん?今のは結構かわいーとか思っちゃったしな」
全然わかんなくて、どうしたらいいのか全然わかんなくて…
「俺が光希から離れるわけねぇーじゃん、離れる気なんかさらっさらないんだからそんな顔すんなって…は?」
すっげぇー眉間にしわ寄せちゃったじゃねぇか、ギロッて燈司を睨むみたいになったし。
「え、どーゆうこと?」
「それはこっちのセリフだろ!手離せっ!」
「は!?なんで、だって今…っ」
確実に聞きたいのは俺の方だろ、そうゆうことだよ意味わかんねぇーよ!
なんで燈司のが困惑した顔してんのかさっぱりだし、この流れもさっぱりなんだよ。だいたい何回聞いてくるんだ、何度言われても一緒なんだよ。
「俺は好きじゃねぇよ!俺は燈司のこと友達として…っ」
好き、なだけで。
これが恋とかそうゆう好きじゃない。
なんてたって俺は男なんだよそれくらいわきまえてるわ!ふざけんな!
そんなの自分でわかって…っ
「え、光希って自覚ないの?」
目を丸くして口を開けた。ちょっと間抜けな顔してた。
つーか自覚って?何の自覚??
「あ、そーゆう感じ?」
いや、だからどうゆう感じ?言ってることが全然…
「絶対俺のこと好きじゃん!」
「好きじゃねぇって言ってんだろ!」



