なんでいる?
いやほんと、なんでいる?
放課後校門前で待ち合わせして、みんなでカラオケに行くことになっていた。
足立と渡邊と一緒に校門まで向かうと、もう見えるわけですよ。
3人の女子と、2人の男が。
……うん、女の子が3人いるのはわかる。
足立の彼女と、その友達だ。
問題は、女の子たちの近くに立っている、スタイルの良すぎるデカい影ふたつ。
「あれ、城崎と真中じゃね……?」
隣で渡邊が呆然と呟いた。
「え、なんであいつらがいんの!?」
足立はというと、自分の彼女のすぐそばにデカい男がふたりも立っているので気が気じゃないようだ。
恐る恐る近づいていくと、こちらに気が付いたらしい真中が「お、西瀬たち遅えよ~」とゆるく手を振ってきた。
そしてその隣で、綺麗にセットされたウルフカットの頭を少し傾げて、いつものへらへらした笑顔を浮かべた黎が、俺をじっと見つめている。
「真中からいい話聞いたから、来ちゃった」
語尾に♡マークでもつきそうなテンションで、黎は笑いながらそう言った。
◇
……いや、だからなんで?
カラオケボックスは思ったより狭くて、座る席によっては神席だ。
もう一度言う。座る席によっては、だ。
ボックス内のソファ席はコの字型になっている。
一番端から足立の彼女の飯代凛さんが座り、もちろんその隣には足立。足立の隣には真中、その隣には室戸さん、さらに渡邊。その次は小牧さん、そして……黎。
わかる?
俺の席、絶望よな?
何が悲しくて黎と隣に座らないといけないんだ。
しかもコの字の一番端っこって。
目の前には女の子がいるけれど足立の彼女だし、黎の奥に見える唯一会話が届きそうな小牧さんは、さっきから黎と真中の顔を交互に見ては顔を赤らめている。
つまりこの狭い空間で俺の話し相手は、右隣の黎しかいないわけだ。
完全なる詰み……。
「春、なに歌う?」
黎がソファの背もたれに長い腕を回しながら、俺の耳元で囁くように聞いてくる。
そのポーズのせいで、まるで俺が黎に後ろから抱きしめられているみたいな体勢になっていることに、本人は気付いているのだろうか。
……俺にはわかる。絶対にわざとだ。
「な・ま・え・で・よ・ぶ・な」
体勢のことはこの際気にしない。動揺したら負けだ。
だから俺は、この期に及んでしれっと名前で呼んでくる黎を牽制する。
「うるさいし、俺らがなに喋ってるかなんて聞こえるわけなくない?」
「……」
まあ、たしかに。
ばつが悪くなって黙る俺に、変わらない態度で黎は俺の顔を覗き込む。
「で、なに歌う?」
「……歌わない。大体デンモクこっちまで回ってこないし」
部屋の中では真中がマイクを握り、足立の彼女たちと「なに歌う~?」と盛り上がっている。
女の子たちの視線は完全に黎と真中に二分されていて、俺と渡邊の存在はもはや背景の壁紙と同化している。
なんだよ、なんだよ。
アシストするって言った足立は思いのほか真中と馬が合うらしくなにやら盛り上がってるし、渡邊も渡邊で室戸さんとなにやら会話している。
俺だけが!
なんのうまみもない!!
ぶすくれて歌詞が流れる画面を睨んでいると、目の前にグラスが差し出された。
「……ほら、春の。オレンジジュース」
「なにこれ。俺のはこっちだよ」
「……春。それ気付いてないかもだけど、コーヒーだよ?」
「はあ? なに言ってんの? 俺はコーラを……!」
ぐいっと飲もうとしたところでグラスから香ってきたのは、紛れもないコーヒーの匂い。
「春、コーヒー飲めないでしょ? なんかかっこつけたいのか間違えたのかわかんないから、俺のグラスにはオレンジ入れといた」
「……っ、間違えただけだしっ!」
恥ずかしさで顔が熱くなるのを誤魔化すように、俺は黎からひったくったオレンジジュースを勢いよく流し込んだ。
てか、なんで黎は俺がコーヒー苦手なことも、間違えてコーヒー入れたことも把握してんだよ。
気持ち悪っ!
俺のグラスと取り換えた黎は、平気な顔してブラックのコーヒーに口をつけている。
なんだよ、なんだよ!
もう!
いろんなむしゃくしゃを忘れるべく、俺は残ったオレンジジュースを一気に飲み干した。
結局俺の記念すべき高校初のプチ合コン(仮)は、一軍ツートップの圧倒的な輝きに打ちのめされ、黎からもらったオレンジジュースの味で幕を閉じたのだった。
◇
「まじごめん! この通り!」
翌日の朝。
教室に入ってきた足立が、机に額をこすりつけんばかりの勢いで頭を下げてきた。
昨日はあのあと、足立は彼女と。真中と黎、室戸さんと小牧さんのグループはモールへ買い物に行き、俺と渡邊はふたり寂しく帰路についた。
俺と足立と渡邊の3人のLINEグループにも足立からの返事はなく、既読がついたのは今朝。
……彼女とお楽しみだったんでしょうね!
ぶすっとしている俺に、足立はなおも両手を合わせて拝み倒してくる。
そりゃ、付き合って1ヶ月っていったら、きっと一番たのしい時期だ。俺らへの返事が遅れるとか、しょうがないっちゃしょうがない。
これみよがしに大きなため息をついて、足立を見る。
「いーよ、別に。返事くらい遅れたって」
俺がそう呟くと、足立は「へ?」ととぼけた返事を返す。
そりゃさ、あんな悲惨な合コンだったわけだから、ちょっとくらい俺だって愚痴りたかったわけよ。
それを寛大な心で許す俺、めちゃくちゃ偉くね?
「……いや、それもだけど! 合コン!! アシストするって言ったのに、俺自分だけ楽しんでたから!」
「あ、そっち!?」
「西瀬、そういうとこポンコツよな」
呆れたように渡邊が笑う。
ポンコツって。否定はできないけど!
で、改めて昨日の合コンを思い返す。
「……いや、思ったけどあいつら来るとまじで女の子全員あっち行くんだな」
「それな」
俺と渡邊がふたりして遠い目をするもんだから、足立が申し訳なさそうにしつつも本当に不思議そうな顔で「ぶっちゃけさ、」と俺の顔を覗き込んできた。
「……西瀬だって、顔も別に悪くないし、ノリもいいじゃん? な、渡邊」
「な。ふつーにモテてもおかしくないよな。なんで西瀬、いつもいいとこまでいって彼女できないんだ? いっつも不思議なんだよな」
ふたりの素朴な疑問に、俺はガシガシと頭をかきむしりたい衝動に駆られる。
俺が一番聞きたいんですけど!!
自分で言うのもなんだけどさ、俺だってスペック自体は決して低くはないはずなんだ。
顔だって、そりゃ黎みたいな超絶美形と並べば霞むけど、普通にクラスの男子の平均値は越えてる(と思う)し。
中学のときはバスケ部の副キャプテンで、そこそこ面倒見いい方だし、他人の変化にもよく気が付く。
まあ、黎はキャプテンだったんですけどね!!
とまあそれは置いといて。それから、昔から台所に立って飯を作ってたから、そこいらの女子よりよっぽど手際よく美味い料理だって作れる自信がある。母さんが遅い日は、それこそ黎のぶんまで夜飯を作ってやってるくらいだ。
一途だし、あいつらみたいにチャラチャラもしてないし。
……自分で心の中で並べ立てて、虚しくなってきた。
そう、客観的に見たら、俺は普通にモテ要素の塊──いわゆるハイスペックなはずなのだ!
「なんで男ばっかり寄ってきて、女の子との縁だけ綺麗に消滅すんだよ! 神様の嫌がらせか!」
「お、おう……。元気出せよ」
俺の突然の咆哮に引き気味の足立と渡邊に、俺は力なく首を振った。
あの一軍のツートップがチラつく限り、俺の恋路は常に前途多難なんだろう。



