「もー、なんでお前まで来るんだよ! お前が来ると女の子みーんなお前狙いになるんだから!」
2年2組の俺、西瀬春樹と、その隣をのんびり歩く城崎黎は、たったいま5組の男友達と数名の女子(かわいい子揃い)で、スポッチャで遊んだ帰り道。
そろそろ彼女ほしいな~、なんて邪な気持ちで集まりに参加すると、なぜかいつのまにかそこに黎も加わっている。
そうすると、女の子の視線は自然とこいつへ吸い寄せられるわけでして。
俺らちょっといい感じじゃね?って思う子もこれまで何人かいたけど、最終的にはみーんな黎の方へと流れていく。
こういう男女の集まりは、やっぱり彼氏彼女を作るのが目的みたいなところがある。
それなのに!
特定の誰かと付き合うわけでもないくせに、俺が誘われた今回の集まりをどこで嗅ぎつけたのか、こいつもついてきた。
そうなるとやっぱり、全員こいつに持っていかれるわけで。
「なんとなく気が向いたから?」
なんて、語尾に?マークをつけてヘラリと笑いながら、黎は俺を見下ろした。
「気が向いても向かなくても、彼女つくる気がないなら来んなっつってんの!」
俺の右隣を歩く黎を、肘でどついてやった。
俺は彼女がほしいの!
小さくて可憐で……例えばそう。
今日の集まりに来ていた5組の小春ちゃんみたいな。
まあ、その小春ちゃんも黎ばっか見てたけど。
プリプリ怒る俺に構いもせず、黎は相変わらず飄々とした様子で俺の隣を歩いてる。
それを横目で見ながら、内心チッと舌打ちした。
背も高くて?
顔もイケてて?
イケメンしか似合わない、前下がりベースのウルフっぽいショートミディアムの髪型は黎の雰囲気によく似合ってる。
歩く度に跳ねる襟足が黎の首筋を見え隠れさせ、それは男の俺から見てもやたら色っぽい。
そりゃあ隣に俺みたいな引き立て役がいたら、みんな黎に釘付けになるわけだ。
俺だって、ブサイクとまではいかない。
なんならむしろちょっとイケてる寄りじゃね?とか自分では思うわけ。
でも、黎と比べたら月とすっぽんだ。
こいつと一緒にいる限り、彼女なんて夢のまた夢なんじゃないか?
そんなこと思いたくないけど。
……てなことを考えながらしばらく歩くと、黒いモダンな家が見えてくる。
「……そういや、もうすぐ1年だね?」
いつもより語尾を上げて喋る黎が、俺をじっと見てくる。
その口元がにやりと弧を描いていて、さっきのセリフと相まって俺の背筋がぞわっと泡立った。
「やめてくれる!? 『今日は記念日だね♡』みたいなテンションで言うの! 誤解されるだろ!」
「でも、春樹も思わなかった? 同棲してからもうすぐ1年だなーって」
「ばっ……! なに言ってんの!? “同居”な、“同居”! 健全な!!」
「ムキになるとまじで同棲してるって思われるから気を付けな」
「お前が始めた物語だろ!?」
周りに近所の人がいないかキョロキョロ見回す俺とは対極に、黎はしれっとした余裕の態度だ。
黎の言うことに誤りはない。
そう、俺たちは一緒に暮らしている。
挙動不審な俺と、そんな俺を見て薄っすら笑みを浮かべる黎は、ある家のひとつのドアの前に辿り着いた。
『西瀬』と『城崎』、そのふたつの表札は隣通しで並んでいる。
黎はいつものごとく俺より先に手を伸ばし、ドアを開けた。
「ま、俺は春樹となら、『同棲♡』って思われても別にいーけど?」
わざとらしく、甘やかな声で囁かれたその言葉。
最初の頃は変に心臓が跳ねることもあったけど。
……俺はもう騙されない!
わざと体をすくめて俺の耳元で囁くシトラスの香りをまとった黎を、俺はまた無言でどついた。



