ずっと、友達のままでいたかった


 昔のアルバムを見てみようなんて、言い出したのはどっちだったか。

 いや、どっちも言ってない。

 ただ、テレビで「仰天チェンジ」をやってたから、昔の写真をお互い見せ合おうってなっただけ。

 黎の部屋に入るのは久々だ。

 ローテーブルにお互いのアルバムを並べて、順に開いていく。

「春、全然変わってなさそ」

「はあ? おまえこそ……」

 いや、黎は変わったよな。
 だって、なよなよ泣き虫弱虫れいちゃんだったし。
 顔が整ってるのは相変わらずだけど。

 保育園時代のページを開くと、黎と写ってる写真が出てきた。

「あ、これ俺のにもある」

「ほんとだ」

 黎が開いたアルバムにも、同じ写真が挟まっていた。

 べそべそ泣いている黎の手を俺がぎゅっと握って、向かい合っている写真。

 この頃は、守ってあげなきゃって思ってたなー。

 いまはこんな生意気に成長してますけど。

 所々に、俺と黎のアルバムには、同じ写真が登場した。

 それだけ一緒にいたってことなんだろう。

「次、小学校~」

「うん」

 ページをめくる。
 
「うわ、なんかおまえのランドセルでかく見える!」

「そんなの、一年生なんだから普通じゃない?」

「いやいや、黎がちっさいんだよ!」

「春も同じようなもんだから」

 小学一年生の黎は、保育園のときの面影のまま、デカい荷物を背負ってる小人みたいだった。

 当たり前だけど、ふたりが写る写真は一枚もない。

 次々とページをめくっていき、中学時代の黎が写る。

「あ、なんか急にでかくなった?」

「小6くらいからかな。ミニバス始めた頃から急に伸びて」

 バスケのユニフォームを着て、部活仲間との集合写真に写る黎は、もうほぼ俺の知っている黎に近かった。

 髪は部活用に短く切ってて、だけどそれもまた似合ってる。

「……モテそう」

「なに、その感想」

「いや、モテただろ、これは」

「知らない」

「またそれかよ!」

「……っていうか、春もバスケやってるじゃん」

「あ、そうそう。俺副キャプだった」

「知ってる」

「お、え? 知ってた?」

「ん。大会とかでもたまに見かけた」

 えー。
 俺も黎かなって気付いてはいたけど、黎も同じように気付いていたとは。

「だって、春全然変わんないから。すぐわかった」

「うるせー! ガキっぽくて悪かったな!」

「いや、そうじゃなくて」

「じゃあなんだよ! ……はっ、まさか俺になにかオーラがっ」

「……違うし、バカ」

「なんだよ、バカって!」

「そのままの意味」

「むかつくー」

 そのまま残りのページもパラパラとめくっていく。

 中学の卒業式。
 俺のアルバムには、母さんと並んで撮った写真。

 黎のほうには、父さんと並んで撮った写真があった。

「……で、次は高校か」

「うん」

 次のアルバムに手を伸ばしかけて、気付く。

「あ、ここから一緒じゃん」

「ん。同棲始まったからね」

「……同居な、同居」

 それまで二冊並んでいたアルバムは、ここから一冊になる。

「うわ、これ引っ越してきた日じゃん」

「春、顔死んでる」

「朝から荷物運ばされたんだから、仕方ないだろ!」

「俺も運んだけど」

「おまえは体力バカだから」

 またページをめくると、引っ越し初日に家でプチパーティーしたときの家族写真が出てくる。

 俺と母さん。
 黎と父さん。
 四人で写ってる。

 ……普通だ。
 なんなら男兄弟の、普通の家族写真に見える。

「……そういえばさ」

「ん?」

「今更なんだけど」

「なに?」

「母さんたちが籍入れるって話、嫌だった?」

「……なんで急に?」

「いや、写真見てたら思い出した」

 写真だけ見れば、普通の家族に見える。
 けど、あの時の黎は変だった。
 いまも、黎は黙ってる。

「……やっぱ、嫌だった?」

「……嫌、っていうか」

 黎は言い淀み、アルバムに視線を落とした。

「一緒に暮らす前、父さんに言ったことあるんだよね」

「なにを?」

「籍、入れないでって」

 ぽつりと黎が呟く。

「え?」

 黎の顔を見る。
 本当なんだって、すぐにわかった。

「それは、なんで?」

 黎はまた少しだけ考えた後、諦めたように小さく吐き出した。

「……春と兄弟になるのが嫌だったから」

 黎はそっぽを向いて、頬杖をついた。

「……俺と、兄弟になるのが?」

「うん」

「なんで……?」

「……だから、それが自分でもわかんなかったんだよ」

「なんだそれ。じゃあいまは? わかるの?」

「そりゃあ……そうでしょ」

「なんでわかるようになったの?」

「……春、本気で聞いてる?」

「わかんねーから聞いてんだろ」

「もう、たまには自分で考えて」

「考えたってわかんねーよ」

「じゃあ、ずっと考えてたら?」

「なんだよ、それ!」

 黎は呆れたように息を吐いて、またアルバムに視線を戻した。

 ……まあ、いいか。
 いまはわかんなくても。

 ペラペラとまたページをめくっていく。

 アルバムの最後のページには、同居一年記念の家族写真が挟まれていた。




おしまい