黎と見てたあの恋愛ドラマのスピンオフが、ネット配信で見れるらしい。
そんな話を足立と渡邊から聞いて、スマホで検索する。
お、あるじゃん。
あらすじを見てみる。
なになに……ふたりの恋の裏側で、もうひとつの恋が始まっていた。
恋愛経験豊富な柴とヒーローを想っていた伊藤。
本編では語られなかったふたりの裏側を覗く。
なるほど、本編で脇役だった登場人物の話か。
そういえば柴って、やたら女の扱いに慣れてるやつだった気がする。
伊藤は……ヒーローのことが好きだったけど、結局ヒロインに負けて報われなかった方の女か。
……へえ。あのふたりがどうやってそうなるんだろ。
「黎、あのドラマ覚えてる?」
リビングのソファから振り返り、キッチンでペプシを飲んでる黎に聞く。
「どれ?」
「ほら、夏休みに見てたやつ」
「……ああ」
黎はなにか思い出したかのように一瞬遠い目をした、気がした。
「それがどうかしたの?」
「足立と渡邊が、あのドラマのスピンオフあるって言うから、いま検索してた。なんか面白そう」
「……一緒に見る?」
「うん、見よ」
黎がもう一度冷蔵庫を開ける音がして、俺はその間にテレビでネトフリを開く。
あった、これこれ。
あとはボタンを押せば再生できる、というところまで準備し終わったら、黎が隣に座った。
「はい、これ春の」
「お、さんきゅー」
黎は左手にペプシを持って、右手に持ったバヤリースのオレンジジュースを俺に差し出してきた。
序盤は、本編のあらすじから始まり、そこからふたりが急接近していく。
……伊藤はかなり失恋を引きずっているらしい。
本編の主人公たちがふたりでいるところを目撃して、落ち込んでいる伊藤の姿が映される。
そこに、柴がやってくる。
『無理して笑わなくてもいいんじゃない?』
「うわっ、こいつ相変わらずキザだな~」
「……なにが?」
「柴、女の扱い慣れすぎじゃね?」
「そう?」
「そうだろ。落ち込んでんのもすぐ気付くし」
「それくらい春も気付くじゃん」
「俺はこんなキザなこと言わねーよ!」
言えるかい!
こんなこと!
画面の中の柴は、しれっと伊藤の肩を抱き寄せている。
「……やっぱ経験値がものを言うのかね」
「……経験って、そんな関係ある?」
「あるだろ! こういうのって慣れじゃね?」
「そう?」
あー、はいはい。
俺と違って黎は、こんなの慣れっこだもんな。
「こういうの、黎ならよくわかるんじゃねーの」
「なんで俺?」
「なんでって……おまえこういうの慣れてんじゃん」
「……俺が?」
びっくりした顔をする黎。
なにを今さら。
「だっておまえ、今まで女の子といろいろあっただろ」
「……ないけど」
「はあ? なにが?」
「いろいろ」
「いや、ないって……ないわけないだろ!」
知ってるんだよ!
何組の子が黎に告ったとか、遊びに行ったとか!
「俺だって知らないよ。付き合ったことないし」
「は……?」
開いた口が塞がらないとは、このことだ。
黎の顔をじっと見る。
……嘘をついてるようには見えない。
「なに」
「……付き合ったこと、ないの?」
「ないよ」
「一回も?」
「ない」
「中学も?」
「部活で忙しかった」
「高校は?」
「告白はあるけど……付き合ったことなんてないよ」
「…………」
え、え、え。
いや、え?
「なに、その顔」
「いやいやいやいや、待て待て」
「なに」
「おまえ、めちゃくちゃモテるじゃん」
「それと付き合ったことあるかは別でしょ」
「だって、来る者拒まず去る者追わずって……」
1年の頃、人気だったちょっとチャラい系のかわいい先輩に黎が告られたという噂は、瞬く間に校内に広まった。
先輩が「ちょっと遊んでもらった♡」なんていう話を廊下でしていたのも、偶然聞いたことがある。
その後も、先輩だろうが同学年だろうが、黎のそういう噂は定期的に流れてきた。
だけど、黎はこの通り。
「なにそれ」
「知らないの!?」
噂のことすらご存じない様子だ。
「好きでもない子と付き合ってどうすんの」
黎は、なんでもないことみたいに平然と言ってのけた。
「……ふーん」
「なに」
「いや、別に」
「……なんで嬉しそうなの?」
「嬉しそうじゃねーし!」
そして、俺はここで重大なことに気が付いた。
「……ちょっと待てよ」
「今度はなに」
「じゃあ、あのとき……」
「……」
「おまえ、ああいうことも慣れてたわけじゃないの?」
「……ああいうことって?」
「わかるだろ!」
黎のこの顔。
俺をからかって楽しんでるときの顔だ!
「ちゃんと言ってくれないとわかんない」
そう言ってまた、黎は俺の唇に指先を伸ばす。
「~~~~っ!」
俺は黎の腕を無言で殴った。
おしまい



