「おはよ」
「おはよ、春」
今日も、いつもと変わらない朝がきた。
部屋を出ると、ちょうど黎も起きたところだった。
眠たい目を擦ってリビングに降りると、母さんがもう朝食を準備してて、俺と黎も席に着く。
今日の朝飯は、ベーコンエッグ。
「春、醤油取って」
「ん」
「ありがと」
セットされてないままの起き抜けの黎は、いつもよりも幼く見える。
朝食を食べ終わって洗面所へ行くと、黎もあとからついてきた。
「……」
並んで、歯をみがく。
鏡越しに目が合って、泡だらけの口許を見てふたりして笑う。
歯をみがき終えて、そろそろ家を出ようとしたところで。
「春、課題持った?」
「やべっ、感想文本に挟んだまんま!」
「取ってきなよ、待ってるから」
「おう!」
急いで階段を上って、本ごと掴んで鞄に入れる。
階段を下りたその先では、黎が待っていた。
「行ってきます」
夏休みが終わった。
今日から新学期が始まる。
相変わらず暑い日は続いてるけど、夕方にヒグラシが鳴くことが多くなってきた。
「あっちぃー……」
腕まくりしたワイシャツをさらにまくり上げる。
そのとき、ふいに俺の腕が黎に当たった。
「……」
……近い。
そうだよな、やっぱり俺と黎は、この距離だった。
隣を歩く黎からは、いつもと変わらないシトラスの匂いがする。
──こつん。
ぶらぶら揺らしながら歩いていた手が、黎の手の甲に当たった。
黎を見上げる。
「ん?」
「……なんでもない」
手が触れてることなんて、きっと黎も気付いてる。
それでも黎はなにも言わなくて、俺も触れた手を離さなかった。
前よりもほんの少し近い距離のまま、俺たちは学校へ向かって歩いていった。
おしまい



