「犯人はお前だ」
放課後。化学室。ゆーちゃんは、クラス担任の先生を指差して宣言した。
「ゆーちゃん。それ、私が言いたかった」
「僕がやったという証拠でも、あるのかい?」
「これです、私の上靴に指紋がばっちりと残ってました」
ゆーちゃんは、スマホで撮った写真を見せる。
「僕の負けだ、僕が、やりました」
あっさりと、先生は自白した。
「どうして、こんなことしたんですか?」
先生は何も言わない。あっ、熱、頭が。
「先輩、どうしたんです、熱が」
ゆーちゃんが私の顔を覗き込む。
「大丈夫、ゆーちゃん、くだらないことに、私の頭が回転してしまっただけ。面白くない。先生、白かった、からですよね」
先生は黙ったまま。
「どーゆーことっす?」
「ゆーちゃんの上靴と、他の生徒の上靴の違い。ゆーちゃんは転校生で、上靴を新しく買ったんじゃない?」
「そうっす」
「つまり、他の生徒の汚れた上靴よりも、新しく、白かった。そして、それを汚したかった。穢したかった」
「どうしてっすか」
「さあ、そこまでは、分からない」
「角砂糖」
先生はポツリと呟いた。
「真っ白な角砂糖を、真っ黒なコーヒーに入れて、溶かすのが好きなんだ、大好きなんだ。とっても、興奮するんだ」
「病気ね」
「えっ、病気なんすか、じゃあ、あっ、先生、こっち向いてください」
先生がゆーちゃんの方を見ると、そのまま倒れ込んだ。あれ? 先生の髪、こんなに、白髪多かったかしら。
「あちゃー、まずかったっすかね、病を気から取り除こうとしたんすけど。病の気と生気の方の結びつきが強かったみたいすね」
先生は漂白されたみたいに、真っ白になりました。
「まあ、仕方ないっす。うちがおじいちゃんに何度上靴をおねだりしたことか、その罰っす」
「えっ、洗ってたんじゃないの?」
「いやいや、汚いし。ゴミ袋に入れて、ポイ。毎日新しい上靴持っていくの面倒だったんすよ」
「毎日買い替えって、おじいちゃん、ゆーちゃんに甘すぎじゃない?」
毎日毎日、二ヶ月くらい。何十足の上靴が無駄になっていったのでしょうか。
春になりました。靴箱の前で、私はゆーちゃんと再会しました。学年が違ったせいか、結局あの事件の後、ほとんど会うことも会話することもなく、今日という日がやってきました。
「先輩」
「ゆーちゃん、その、先輩って言い方やめない?」
「あ、すいません、そうっすよね、先輩が留年してるのばれちゃいますもんね」
これは、本当に馬鹿な思い込みなのですけど、私はテストは満点以外とってはいけないものだと思っていました。その気負いが知恵熱の一つの原因なのでしょう。私は昨年度、十月の中間テスト以外の、テストは全て、知恵熱で何も考えることができなくなって、赤点でした。結果、留年、という、まあなんとも、お粗末な結果に。
「先輩、これ」
ゆーちゃんは私に、真っ白でつま先が青い上靴を手渡しました。
「先輩って、私と靴のサイズ一緒でしたよね。あの事件のせいで、同じ上靴めちゃくちゃ余ってるんすよ。一つどうぞ」
どうやら、ゆーちゃんは、おじいちゃんに相当数、上靴を頼んでいたみたいです。私はありがたく、それを頂戴しました。
「お揃いですね、先輩」
ゆーちゃんはなんだかとても、嬉しそうです。
「うちの高校って、テストのときの席、出席番号順じゃないっすか。出席番号順だと、先輩はうちの一つ後ろの席、なんすね。もし、テストの時に知恵熱が出ても、大丈夫っすよ。いつでも、うちが同じ列に、前にいるんすから」
「ルックディスストリート。見ての通りね」
二人で、同じ上靴で、歩く一年が始まる。
放課後。化学室。ゆーちゃんは、クラス担任の先生を指差して宣言した。
「ゆーちゃん。それ、私が言いたかった」
「僕がやったという証拠でも、あるのかい?」
「これです、私の上靴に指紋がばっちりと残ってました」
ゆーちゃんは、スマホで撮った写真を見せる。
「僕の負けだ、僕が、やりました」
あっさりと、先生は自白した。
「どうして、こんなことしたんですか?」
先生は何も言わない。あっ、熱、頭が。
「先輩、どうしたんです、熱が」
ゆーちゃんが私の顔を覗き込む。
「大丈夫、ゆーちゃん、くだらないことに、私の頭が回転してしまっただけ。面白くない。先生、白かった、からですよね」
先生は黙ったまま。
「どーゆーことっす?」
「ゆーちゃんの上靴と、他の生徒の上靴の違い。ゆーちゃんは転校生で、上靴を新しく買ったんじゃない?」
「そうっす」
「つまり、他の生徒の汚れた上靴よりも、新しく、白かった。そして、それを汚したかった。穢したかった」
「どうしてっすか」
「さあ、そこまでは、分からない」
「角砂糖」
先生はポツリと呟いた。
「真っ白な角砂糖を、真っ黒なコーヒーに入れて、溶かすのが好きなんだ、大好きなんだ。とっても、興奮するんだ」
「病気ね」
「えっ、病気なんすか、じゃあ、あっ、先生、こっち向いてください」
先生がゆーちゃんの方を見ると、そのまま倒れ込んだ。あれ? 先生の髪、こんなに、白髪多かったかしら。
「あちゃー、まずかったっすかね、病を気から取り除こうとしたんすけど。病の気と生気の方の結びつきが強かったみたいすね」
先生は漂白されたみたいに、真っ白になりました。
「まあ、仕方ないっす。うちがおじいちゃんに何度上靴をおねだりしたことか、その罰っす」
「えっ、洗ってたんじゃないの?」
「いやいや、汚いし。ゴミ袋に入れて、ポイ。毎日新しい上靴持っていくの面倒だったんすよ」
「毎日買い替えって、おじいちゃん、ゆーちゃんに甘すぎじゃない?」
毎日毎日、二ヶ月くらい。何十足の上靴が無駄になっていったのでしょうか。
春になりました。靴箱の前で、私はゆーちゃんと再会しました。学年が違ったせいか、結局あの事件の後、ほとんど会うことも会話することもなく、今日という日がやってきました。
「先輩」
「ゆーちゃん、その、先輩って言い方やめない?」
「あ、すいません、そうっすよね、先輩が留年してるのばれちゃいますもんね」
これは、本当に馬鹿な思い込みなのですけど、私はテストは満点以外とってはいけないものだと思っていました。その気負いが知恵熱の一つの原因なのでしょう。私は昨年度、十月の中間テスト以外の、テストは全て、知恵熱で何も考えることができなくなって、赤点でした。結果、留年、という、まあなんとも、お粗末な結果に。
「先輩、これ」
ゆーちゃんは私に、真っ白でつま先が青い上靴を手渡しました。
「先輩って、私と靴のサイズ一緒でしたよね。あの事件のせいで、同じ上靴めちゃくちゃ余ってるんすよ。一つどうぞ」
どうやら、ゆーちゃんは、おじいちゃんに相当数、上靴を頼んでいたみたいです。私はありがたく、それを頂戴しました。
「お揃いですね、先輩」
ゆーちゃんはなんだかとても、嬉しそうです。
「うちの高校って、テストのときの席、出席番号順じゃないっすか。出席番号順だと、先輩はうちの一つ後ろの席、なんすね。もし、テストの時に知恵熱が出ても、大丈夫っすよ。いつでも、うちが同じ列に、前にいるんすから」
「ルックディスストリート。見ての通りね」
二人で、同じ上靴で、歩く一年が始まる。

