それから、雪菜は毎朝欠かさず狸の妖のもとを訪れ、その畑に立つようになった。
雪菜は蔵から使われていない鍬(くわ)を借り受けると、ひび割れた畑に舞を捧げ、小さく雪を呼ぶ。里でずっと馬鹿にされ続けてきた、弱々しい異能。それでも、涸れた土にわずかな水気を含ませることくらいはできた。
最初は畑の持ち主である狸の妖一家以外、誰も見向きもしなかった。けれど、来る日も来る日も畑に立ち続ける雪菜の姿に、少しずつ民の視線が変わっていく。
「あそこの土、少し潤っているんじゃないか」
それは小さな変化だったかもしれない。けれど、雪菜にとってはこの上ない喜びだった。
(わたしの異能が、本当にわずかだけれど、皆様に気づいていただけるくらいに役に立っている――)
自分にとっては、誰かに必要とされる感覚を生まれて初めて味わっている気がしていた。
***
そうして、少しずつ変わり始めていたある日の夜の自室。桔梗が茶を運んできてくれた際、雪菜の前でポツリとこぼした。
「灯哉様は、毎日あなた様の様子を遠くからご覧になっておられますよ」
「え……?」
突然の不意打ちに、雪菜は思わずお茶をこぼしそうになる。桔梗が微笑んだ。
「灯哉様はあのように愛想がございませんので、孤高で冷たい人格だと思われておりますが、本当は誰よりもこの国のことを憂いておられるのです。ただ、力が強すぎるがゆえに、誰も近づけられなかっただけで」
雪菜は、初めて常世にやって来た時に見た灯哉の背中を思い出す。振り返ることなく歩き去っていったあの背中は、どこか孤独に見えた気がした。
(灯哉様も……ひとりで、戦ってこられたのかもしれない)
自分と同じように。誰にも頼れず、誰にも理解されず、それでも与えられた役目を全うしようとしている。そう思うと、灯哉に対する見方が、雪菜の中で少しずつ変わっていく。
(……もしかしたら、彼は、本当は寂しい思いをしているのではないかしら)
雪菜は蔵から使われていない鍬(くわ)を借り受けると、ひび割れた畑に舞を捧げ、小さく雪を呼ぶ。里でずっと馬鹿にされ続けてきた、弱々しい異能。それでも、涸れた土にわずかな水気を含ませることくらいはできた。
最初は畑の持ち主である狸の妖一家以外、誰も見向きもしなかった。けれど、来る日も来る日も畑に立ち続ける雪菜の姿に、少しずつ民の視線が変わっていく。
「あそこの土、少し潤っているんじゃないか」
それは小さな変化だったかもしれない。けれど、雪菜にとってはこの上ない喜びだった。
(わたしの異能が、本当にわずかだけれど、皆様に気づいていただけるくらいに役に立っている――)
自分にとっては、誰かに必要とされる感覚を生まれて初めて味わっている気がしていた。
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そうして、少しずつ変わり始めていたある日の夜の自室。桔梗が茶を運んできてくれた際、雪菜の前でポツリとこぼした。
「灯哉様は、毎日あなた様の様子を遠くからご覧になっておられますよ」
「え……?」
突然の不意打ちに、雪菜は思わずお茶をこぼしそうになる。桔梗が微笑んだ。
「灯哉様はあのように愛想がございませんので、孤高で冷たい人格だと思われておりますが、本当は誰よりもこの国のことを憂いておられるのです。ただ、力が強すぎるがゆえに、誰も近づけられなかっただけで」
雪菜は、初めて常世にやって来た時に見た灯哉の背中を思い出す。振り返ることなく歩き去っていったあの背中は、どこか孤独に見えた気がした。
(灯哉様も……ひとりで、戦ってこられたのかもしれない)
自分と同じように。誰にも頼れず、誰にも理解されず、それでも与えられた役目を全うしようとしている。そう思うと、灯哉に対する見方が、雪菜の中で少しずつ変わっていく。
(……もしかしたら、彼は、本当は寂しい思いをしているのではないかしら)


