反抗的な目できっ、と睨みつけた美也子に、昇二は怒りだすことはなかった。むしろ、声を上げて笑う。
「なんだ、中身は気が強い、跳ねっ返りじゃないか!」
どこがツボにはまったのか。ひとしきり笑った昇二は、美也子に一歩近づいた。
手を伸ばせば届く距離で美也子は、頭一つ分高い昇二の顔を見上げる。
整いすぎて冷酷そうに見える、端正な顔。反対に髪の毛は柔らかく、風になびいている。対照的な姿が一枚の肖像画のような美しさで、美也子はさっきまでの憤りを忘れて、息を呑んだ。
「何だ?」
不審げに問いかける昇二に、ハッと我に返った美也子は深呼吸する。
頭に昇った血は、見惚れている内に、元に戻ったらしい。
美也子はもう一度、息を吐いた。
冷静に淡々と。ジロジロと視線を浴びせられても侯爵家の娘として、恥ずかしくないように。姿勢を正し、凛とした目で昇二を見据えた。
「鷹司様のご希望は理解いたしました。政略結婚ですもの、情を交わす必要はありませんわ」
きっぱりと言い切った美也子に、昇二もまた、ニヤリと笑ってすぐさま応戦する。
「どうしても情を交わしたい、というのであれば努力はしよう」
「結構です」
美也子は首を振る。昇二は面白そうな顔のまま、美也子の次の言葉を待っている。
ならば。美也子は大きく息を吸い、吐く息と共に言葉を発する。
「わたくしは、松平を守るため。鷹司様は、ご自身の野望を叶えるための結婚です。愛という、不確かなものに縋るよりも、確実な誓いを立てる方が建設的ではありませんか」
「ほう」
昇二は、あごの下に手を当てて、何か考えている。そんな姿も、顔が整っているだけで絵になる。顔が良いのは特だ、と美也子がぼんやりと思った時だった。
「そんな言い方をするということは、要求したいことがある。そういうことだな」
「ええ」
「お父上から言われるのならまだしも。ご令嬢にしては、少々過ぎた言い分では?」
「あら、そうでしょうか」
美也子は、たおやかに微笑んだ。今度は侯爵家の令嬢として、相応しい立ち振る舞いだ。敢えて態度を変えたのは、昇二の器を図るためだ。
美也子は、昇二に向かって大きな一石を投じた。
「没落寸前とはいえ、わたくしは侯爵家でございます。叶えて頂くかは別として、男爵家の鷹司様に自身の希望をお伝えするのは、おかしなことでしょうか」
自分の方が立場が上だと、言外に匂わせる。これでカチンとくる男なら、しょせん男爵家の人間だ。いくら商才に長けていたとしても、侯爵家の婿として松平の家名を守っていくには、力不足は否めない。
だが昇二は、美也子の試し行為をさらりと受け流した。
「おかしくはないな。しょせん俺は、華族の末端に名を連ねている男爵家の、それも妾腹の次男坊だ。没落侯爵家様にでも婿入りをしなければ、継ぐ家すら与えられない。君の方が、立場はずっと上さ」
「なんだ、中身は気が強い、跳ねっ返りじゃないか!」
どこがツボにはまったのか。ひとしきり笑った昇二は、美也子に一歩近づいた。
手を伸ばせば届く距離で美也子は、頭一つ分高い昇二の顔を見上げる。
整いすぎて冷酷そうに見える、端正な顔。反対に髪の毛は柔らかく、風になびいている。対照的な姿が一枚の肖像画のような美しさで、美也子はさっきまでの憤りを忘れて、息を呑んだ。
「何だ?」
不審げに問いかける昇二に、ハッと我に返った美也子は深呼吸する。
頭に昇った血は、見惚れている内に、元に戻ったらしい。
美也子はもう一度、息を吐いた。
冷静に淡々と。ジロジロと視線を浴びせられても侯爵家の娘として、恥ずかしくないように。姿勢を正し、凛とした目で昇二を見据えた。
「鷹司様のご希望は理解いたしました。政略結婚ですもの、情を交わす必要はありませんわ」
きっぱりと言い切った美也子に、昇二もまた、ニヤリと笑ってすぐさま応戦する。
「どうしても情を交わしたい、というのであれば努力はしよう」
「結構です」
美也子は首を振る。昇二は面白そうな顔のまま、美也子の次の言葉を待っている。
ならば。美也子は大きく息を吸い、吐く息と共に言葉を発する。
「わたくしは、松平を守るため。鷹司様は、ご自身の野望を叶えるための結婚です。愛という、不確かなものに縋るよりも、確実な誓いを立てる方が建設的ではありませんか」
「ほう」
昇二は、あごの下に手を当てて、何か考えている。そんな姿も、顔が整っているだけで絵になる。顔が良いのは特だ、と美也子がぼんやりと思った時だった。
「そんな言い方をするということは、要求したいことがある。そういうことだな」
「ええ」
「お父上から言われるのならまだしも。ご令嬢にしては、少々過ぎた言い分では?」
「あら、そうでしょうか」
美也子は、たおやかに微笑んだ。今度は侯爵家の令嬢として、相応しい立ち振る舞いだ。敢えて態度を変えたのは、昇二の器を図るためだ。
美也子は、昇二に向かって大きな一石を投じた。
「没落寸前とはいえ、わたくしは侯爵家でございます。叶えて頂くかは別として、男爵家の鷹司様に自身の希望をお伝えするのは、おかしなことでしょうか」
自分の方が立場が上だと、言外に匂わせる。これでカチンとくる男なら、しょせん男爵家の人間だ。いくら商才に長けていたとしても、侯爵家の婿として松平の家名を守っていくには、力不足は否めない。
だが昇二は、美也子の試し行為をさらりと受け流した。
「おかしくはないな。しょせん俺は、華族の末端に名を連ねている男爵家の、それも妾腹の次男坊だ。没落侯爵家様にでも婿入りをしなければ、継ぐ家すら与えられない。君の方が、立場はずっと上さ」

