お家を存続させるための結婚です。情はありません!

 庭を見せてくれ、と誘ったのは昇二の方だった。客間で向かい合って話すよりも、外の方が気楽に話せるでしょう。そう笑う昇二に、美也子は曖昧に頷いた。父の許可を得た上で、昇二を庭へと連れ出した。
「して、お話とは?」
 草だらけだが、辛うじて通路の体を成している場所を歩きながら、昇二は後ろを歩く美也子に尋ねた。手入れする者もおらず、荒れ放題の庭を見ても昇二は何も言わない。
 助かった。言われたところで、美也子には詫びるしかできない。不毛な言葉の応酬は不要とばかりに、要点だけ口にする昇二に、美也子も最低限のセリフで問いかける。
「わたくしに求めるものは、なんでしょう?」
「何もしなくていい。邪魔さえしなければ」
 すぐさま返事が来る。実に明確な答えだ。すがすがしいほどに。
「邪魔、とは?」
「俺の生活に口出しをしないで頂きたい」
 つまり。
「お飾りの妻で良い。そう仰っているのですね」
 昇二はニヤリと笑った。先程、客間で見せていた冷徹な笑みでなく、血が通った顔。相変わらず目の奥は、笑っていないのだが、一気に人間らしくなる。
 母が見れば、影で「下品だわ」と吐き捨てるような笑みだったが、美也子は昇二らしい表情に見えて、逆に好感を持った。昇二から馬鹿にされている口調で話しかけられるまでは。
 
「無表情でつまらぬ女だと思ったが。頭は悪くないようだな」 
 昇二の一言で、美也子の体はかあっと熱くなる。
 良妻賢母になるべく、家庭内外で教えを受けている美也子だ。侯爵家といえども、女に人権はあってないようなもの。男性に侮られるのは慣れている。
 けれど。昇二は悪意を持って、美也子を揶揄した。二度と関わりを持たない人間ならまだしも、婿になる男性だ。黙って口を慎むほど、美也子はまだ大人になっていなかった。
「生憎ですが。女を道具として見ていない殿方に、振りまく愛想は持ち合わせておりません」 
 
 淡々としながらも、美也子はきっぱりと言い切った。無理やり感情を抑え込んでいるから、小刻みに震えている。
 生意気な女だと斬って捨てられてもいい。それでも、言われっぱなしなのは、美也子の矜持が許さなかった。
 華族としてではない。時代の先端だった職業婦人を目指している、一人の女性としての誇りが昇二の言い分を許さなかったのだ。