結局、一月の終わりが差し掛かっても、美也子は進路を決め切れないでいた。さすがに教師からも「そろそろ進学先を」と窘められるほどだった。しかし決め切れないでいた美也子に、一通の知らせが届いたのだ。
二日後横浜港着。出迎エニ来ラレタシ。
船上の昇二から電報を受け取った美也子は、——気は進まなかったが——妻の務めを果たすべく横浜の地にいた。
女学校は休んだ。女学校を終えてから向かっても充分間に合うのに、どうしても足が向かなかったのだ。それでも彼から贈られた、金春色のりぼんはいつもの癖で身に着けていた。
予定より早い汽車に乗り、船が着く前に横浜へ着いた美也子は、桟橋から離れた赤レンガ倉庫のあたりを、目的もなくうろついていた。コートを着込んでいても、海からの風は驚くほど冷たい。もうすぐ入学試験だ。にも関わらず、美也子はまだ志望校を決め切れていなかった。
昇二は何も言わなかった。美也子が勉強に身が入っていないのも勘づいているだろうに、一言も進路について口にすることはなかった。
「わたくしは……」
美也子が、白い息と共に呟いた瞬間。
「洋装とは、珍しいな」
振り向くと、昇二が立っていた。
「お迎えに上がらず、申し訳ございません」
慌てて頭を下げる美也子に、昇二は「構わない」と手で制止する。顔を上げた美也子は、ハッと息を呑んだ。
流行のトンビコートをなびかせた昇二は、いつもよりずっと美丈夫だったからだ。
すぐに我に返った美也子は、平然を装い、問いかけた。
「どうしてこの場所がお分かりに?」
「見えた」
「見えた?」
「ああ。甲板から美也子がこの辺を歩いている姿が」
「え?」
桟橋から、この場所まで随分と距離があるのに。乗ったことはないが、船の上はそんなに見晴らしがいいのか。
美也子がぐるぐると考えている姿を眺めていた昇二が、小さく笑みを漏らした。
「冗談だ。家から美也子についてきた者が、港の職員に言付ていたんだ。美也子が倉庫の方にいる、とな」
「そうでしたか」
自分がぼーっとしているから、行動を先読みされていた。恥ずかしくて目を伏せる美也子に、昇二は「行こうか」と促す。
「どちらに?」
美也子の声が聞こえなかったのか、昇二からの返事はなかった。
二日後横浜港着。出迎エニ来ラレタシ。
船上の昇二から電報を受け取った美也子は、——気は進まなかったが——妻の務めを果たすべく横浜の地にいた。
女学校は休んだ。女学校を終えてから向かっても充分間に合うのに、どうしても足が向かなかったのだ。それでも彼から贈られた、金春色のりぼんはいつもの癖で身に着けていた。
予定より早い汽車に乗り、船が着く前に横浜へ着いた美也子は、桟橋から離れた赤レンガ倉庫のあたりを、目的もなくうろついていた。コートを着込んでいても、海からの風は驚くほど冷たい。もうすぐ入学試験だ。にも関わらず、美也子はまだ志望校を決め切れていなかった。
昇二は何も言わなかった。美也子が勉強に身が入っていないのも勘づいているだろうに、一言も進路について口にすることはなかった。
「わたくしは……」
美也子が、白い息と共に呟いた瞬間。
「洋装とは、珍しいな」
振り向くと、昇二が立っていた。
「お迎えに上がらず、申し訳ございません」
慌てて頭を下げる美也子に、昇二は「構わない」と手で制止する。顔を上げた美也子は、ハッと息を呑んだ。
流行のトンビコートをなびかせた昇二は、いつもよりずっと美丈夫だったからだ。
すぐに我に返った美也子は、平然を装い、問いかけた。
「どうしてこの場所がお分かりに?」
「見えた」
「見えた?」
「ああ。甲板から美也子がこの辺を歩いている姿が」
「え?」
桟橋から、この場所まで随分と距離があるのに。乗ったことはないが、船の上はそんなに見晴らしがいいのか。
美也子がぐるぐると考えている姿を眺めていた昇二が、小さく笑みを漏らした。
「冗談だ。家から美也子についてきた者が、港の職員に言付ていたんだ。美也子が倉庫の方にいる、とな」
「そうでしたか」
自分がぼーっとしているから、行動を先読みされていた。恥ずかしくて目を伏せる美也子に、昇二は「行こうか」と促す。
「どちらに?」
美也子の声が聞こえなかったのか、昇二からの返事はなかった。

