「親の作った負債は夫に擦り付け、一方で上の学校に通う費用は立て替えるという。学校に通わず、職に就いている女は多い。俺に金を貸せ、というくらいなら、今すぐ働きに出ればいい」
昇二の言い分は尤もだ。美也子も、自身のことでなければ同意しただろう。しかし。
「わたくしは侯爵家の娘です。家柄には恵まれている一方で、しがらみも多い。バスガール、タイピストを下に見ているわけではございません。しかし、わたくしが今すぐ女学校を辞め、そのような職に就くのには、爵位が足枷なのです」
愚痴を言うつもりはなかった。なのに、美也子が吐く息は大きな嘆息となった。昇二は慰めない。その冷たさが、美也子には心地いい。
「言いたいことはそれだけか?」
冷ややかに問われ、美也子はとっさに「いえ」と首を振った。失言だった、と思った時には遅かった。昇二は顎をしゃっくって、美也子に続きを促す。まだ取り繕うことはできる。できるのに。美也子は昇二に真っ向から喧嘩を吹っかけていた。
「昇二様は、唯々諾々と自分に付き従う女を隣に立たせないでしょう? 外国の女性のように、自ら考え、自らの足で立ち、殿方の隣で凛と立っている。正妻にはそのような女をお求めのはず。そのために、女子大学校に進学し、教養を身につけなさい、と命じたのではないのですか?」
昇二は無、だった。無言で何の感情も浮かべていない。反応がないのが恐ろしい。美也子は焦って、言い訳をするように言葉を重ねる。
「教養は身に着けようと思えば、どこでも学べます。意欲さえあれば。幸いにもわたくしにも少なからず人脈はありますし、結婚すれば昇二様のご実家とも縁がつながります。学校で学ばなくても、昇二様の求める水準には充分、達すると……」
突然、昇二は笑い出した。周囲の人間が一斉に振り向くくらい、大きな笑い声。一気に注目され、美也子は顔を伏せてしまった。
それでも、昇二の笑いは止まらない。ウエーターに「お客様?」と声を掛けられ、やっと声を抑えるが、まだプルプルと肩を震わせている。
「昇二……様?」
恐る恐る声をかけた美也子に、昇二は苦しそうに肩で息をしながら、声を絞り出す。
「俺の人脈を……使う、というのか? ……妻になる君が?」
「いけないのですか? 夫になる昇二様はわたくしの人脈を大いに活用するのに、逆は駄目だと誰が決めたのでしょう?」
小首を傾げる美也子に、
「食えない女だ!」
と言い捨て、昇二は再び声を上げて笑ったのだった。
昇二の言い分は尤もだ。美也子も、自身のことでなければ同意しただろう。しかし。
「わたくしは侯爵家の娘です。家柄には恵まれている一方で、しがらみも多い。バスガール、タイピストを下に見ているわけではございません。しかし、わたくしが今すぐ女学校を辞め、そのような職に就くのには、爵位が足枷なのです」
愚痴を言うつもりはなかった。なのに、美也子が吐く息は大きな嘆息となった。昇二は慰めない。その冷たさが、美也子には心地いい。
「言いたいことはそれだけか?」
冷ややかに問われ、美也子はとっさに「いえ」と首を振った。失言だった、と思った時には遅かった。昇二は顎をしゃっくって、美也子に続きを促す。まだ取り繕うことはできる。できるのに。美也子は昇二に真っ向から喧嘩を吹っかけていた。
「昇二様は、唯々諾々と自分に付き従う女を隣に立たせないでしょう? 外国の女性のように、自ら考え、自らの足で立ち、殿方の隣で凛と立っている。正妻にはそのような女をお求めのはず。そのために、女子大学校に進学し、教養を身につけなさい、と命じたのではないのですか?」
昇二は無、だった。無言で何の感情も浮かべていない。反応がないのが恐ろしい。美也子は焦って、言い訳をするように言葉を重ねる。
「教養は身に着けようと思えば、どこでも学べます。意欲さえあれば。幸いにもわたくしにも少なからず人脈はありますし、結婚すれば昇二様のご実家とも縁がつながります。学校で学ばなくても、昇二様の求める水準には充分、達すると……」
突然、昇二は笑い出した。周囲の人間が一斉に振り向くくらい、大きな笑い声。一気に注目され、美也子は顔を伏せてしまった。
それでも、昇二の笑いは止まらない。ウエーターに「お客様?」と声を掛けられ、やっと声を抑えるが、まだプルプルと肩を震わせている。
「昇二……様?」
恐る恐る声をかけた美也子に、昇二は苦しそうに肩で息をしながら、声を絞り出す。
「俺の人脈を……使う、というのか? ……妻になる君が?」
「いけないのですか? 夫になる昇二様はわたくしの人脈を大いに活用するのに、逆は駄目だと誰が決めたのでしょう?」
小首を傾げる美也子に、
「食えない女だ!」
と言い捨て、昇二は再び声を上げて笑ったのだった。

