「………………………………」
意識が戻ってきた。悪夢を見ていたようで、あれは実際にあった出来事であり、私の過去。鈍器で殴られたように、頭がぐらぐらする。なんとか立っていられるけれど、乗り物酔いした時のような吐き気がかすかに感じられる。
目の前の珠は、触れる前とは見違えて、真っ黒に変色していた。
「今回は長かったね……お疲れ様」
少女は優しく背中をさすってくれる。この記憶を見る前までは不思議な態度だったけど、今はすごく温かみを感じる。
真紀の記憶に触れて、少女の想いも、少しは心へ届くようになってきたのだろうか。
「…………あなたは、この珠の内容、知ってるの?」
少女の顔を見て、訊いてみる。こうやってちゃんと顔を合わせてみると、本当にとても可愛らしい顔立ちをしている。
「うん。ちゃんと知ってるよ。……まぁ、こうやって珠が現れるまでは、なにも知らないんだけどね」
一緒に記憶を見に行っているわけではないが、珠が現れた瞬間に内容は把握しているのだろう。
…………なぜか、この死神には、すべてを知っていてほしいと思ってしまう。すべてを吐き出してしまいたくなるような、不思議なオーラがある。
「…………一つ前の記憶でさ、お母さんがナイフを持ってたじゃん? あれ、自殺しようとしてたんだって」
これを知ったのは、もっと大きくなってからの気がする。だがなぜか今、ふわっと脳内に浮かんできた。
「お父さんがおかしかったのは昔からみたいで、もう終わりにしようって思ってたみたい。……私に見られちゃったから、思い直してくれたのかな」
少女は心苦しそうに、私の背中を撫で続ける。
「……幼いころから、頑張ってたんだね」
頑張っていたかどうかは、はっきりとはわからない。でも、悪い気はしないし、十分やり切っていたと思う。
「人と生きるって、すっごく難しいよね」
少女はそう口にする。家族と、真紀のことだろう。
真紀には生きてほしかったけれど、それを言ってはいけないのだろうと、薄々わかっていた。それは、辛く苦しい今の環境に耐えて、という意味なのだから。
「理想の関係や幸せなひと時を手に入れるのに、自分の想いを出さなければいけないのに、それが却って相手を傷つけるとしたら、怖くて仕方ないよね」
少女の言っていることは正しい。その言葉は、すごく腑に落ちる。
悩みも、後悔も、この言葉に収束してしまうのだろう。
少女は立ち上がり、鎌で黒く染まってしまった珠をどける。
「申し訳ないけど、次に行かないと」
次に出てきた珠は、赤く情熱的な、燃え上がるような色を帯びていた。
「……またここに戻ってきたら、たくさん吐き出して」
「…………うん、ありがとう」
彼女から受け取る言葉たちからは、不思議な力をもらえる。こんなこと本当はしたくないし、もう過去のことを思い出すなんて嫌だ。でも、彼女には何か意図があって、これがきっと無駄なことではないのだと信じてしまうのだ。
私は珠に触れる。今度はいつもより暖かい。だけどやっぱり、次第に冷めていく。
まどろんでいく意識の中、少女が私の腕を、そっと握っていてくれた気がした。
意識が戻ってきた。悪夢を見ていたようで、あれは実際にあった出来事であり、私の過去。鈍器で殴られたように、頭がぐらぐらする。なんとか立っていられるけれど、乗り物酔いした時のような吐き気がかすかに感じられる。
目の前の珠は、触れる前とは見違えて、真っ黒に変色していた。
「今回は長かったね……お疲れ様」
少女は優しく背中をさすってくれる。この記憶を見る前までは不思議な態度だったけど、今はすごく温かみを感じる。
真紀の記憶に触れて、少女の想いも、少しは心へ届くようになってきたのだろうか。
「…………あなたは、この珠の内容、知ってるの?」
少女の顔を見て、訊いてみる。こうやってちゃんと顔を合わせてみると、本当にとても可愛らしい顔立ちをしている。
「うん。ちゃんと知ってるよ。……まぁ、こうやって珠が現れるまでは、なにも知らないんだけどね」
一緒に記憶を見に行っているわけではないが、珠が現れた瞬間に内容は把握しているのだろう。
…………なぜか、この死神には、すべてを知っていてほしいと思ってしまう。すべてを吐き出してしまいたくなるような、不思議なオーラがある。
「…………一つ前の記憶でさ、お母さんがナイフを持ってたじゃん? あれ、自殺しようとしてたんだって」
これを知ったのは、もっと大きくなってからの気がする。だがなぜか今、ふわっと脳内に浮かんできた。
「お父さんがおかしかったのは昔からみたいで、もう終わりにしようって思ってたみたい。……私に見られちゃったから、思い直してくれたのかな」
少女は心苦しそうに、私の背中を撫で続ける。
「……幼いころから、頑張ってたんだね」
頑張っていたかどうかは、はっきりとはわからない。でも、悪い気はしないし、十分やり切っていたと思う。
「人と生きるって、すっごく難しいよね」
少女はそう口にする。家族と、真紀のことだろう。
真紀には生きてほしかったけれど、それを言ってはいけないのだろうと、薄々わかっていた。それは、辛く苦しい今の環境に耐えて、という意味なのだから。
「理想の関係や幸せなひと時を手に入れるのに、自分の想いを出さなければいけないのに、それが却って相手を傷つけるとしたら、怖くて仕方ないよね」
少女の言っていることは正しい。その言葉は、すごく腑に落ちる。
悩みも、後悔も、この言葉に収束してしまうのだろう。
少女は立ち上がり、鎌で黒く染まってしまった珠をどける。
「申し訳ないけど、次に行かないと」
次に出てきた珠は、赤く情熱的な、燃え上がるような色を帯びていた。
「……またここに戻ってきたら、たくさん吐き出して」
「…………うん、ありがとう」
彼女から受け取る言葉たちからは、不思議な力をもらえる。こんなこと本当はしたくないし、もう過去のことを思い出すなんて嫌だ。でも、彼女には何か意図があって、これがきっと無駄なことではないのだと信じてしまうのだ。
私は珠に触れる。今度はいつもより暖かい。だけどやっぱり、次第に冷めていく。
まどろんでいく意識の中、少女が私の腕を、そっと握っていてくれた気がした。



