――俺に何ができるか、考えてみます。
何ができるかもクソもない。
こんなのは、危険物処理以外の何物でもない。
あれ以来、水嶋は学校に来ていない。〈瑠夏グループ〉との直接的な揉め事は起こっていないが、水嶋への悪感情は着実に醸成されている。
次に彼女が登校した時に何が起こるのかは見通せない。良くて無視、悪ければ先週の再現だ。
何か起これば間に入るしかないが、それができるのはこのクラスではおそらく俺だけだ。
普通の生徒同士の諍いだったら、丸く収める方向性もあるだろうが、水嶋が敵に回したのがクラスの女王・静内だったということが、事態をややこしくしている。
下手に間に入れば、今度は俺がクラスの敵になってしまうかもしれない。必要ならばやるが、俺一人が犠牲になったところで、事態は到底好転しない。
何かあるはずだ。
『正しい』方法が。
導かれるように、机の引き出しを開いてしまう。
そこには、あの夏の日に神様からもらった〈攻略本〉がある。
『見開きの右側のページに、悩んでることとか、迷ってること、どうしたらいいかわからないことを書くんだ。書き終わったら一度本を閉じろ。もう一度開いたら、次のページには正しい答えが書き込まれている』
神様の言った通り、〈攻略本〉の力は本物だった。
くだらないことに使ったこともあった。
遠足のおやつは何を買うべきか。
この図書館の中で読むべき本はどれか。
給食のおかわりじゃんけんで出すべき手は。
〈攻略本〉は、どんなくだらない問いに対しても、俺にとってベストな方策を教えてくれた。
選ばなかった未来を見ることはできないので、本質的には〈攻略本〉が教えてくれる未来が本当にベストなのかを確かめることはできない。だが、〈攻略本〉の選ぶ行動が、概ね俺に良い結果をもたらし続けてきたのもまた確かだった。
〈攻略本〉の一番新しいページを開き、そして考える。
使うべきか、それとも――。
思い浮かべたのは、あの地獄のような教室の光景だった。
うみちゃんでは、あのクラスの舵取りは無理だ。誰かがうまくバランスを取らなければ、あの日と同じことがまた起こるし、その結果として誰かが傷つくかもしれない。物理的にもそうだし、精神的な意味でも。
傷つけられて壊れるものもあれば、傷つけることで損なわれるものもある。傷ついたり、傷つけたりなんて、そんなもの、避けられるならば避けるべきだ。
今回は使ってもいいんじゃないか――そう心を決め、ボールペンを持ち、〈攻略本〉の新しいページにこう書きつけた。
『水嶋瞑を助け、教室内の揉め事を丸く収めるためにはどうすべきか』
そのまま〈攻略本〉を閉じ、目を閉じて、心の中で三秒を数える。
三、二、一――。
次に開けば、俺が書き込んだ〈問い〉に対する〈答え〉が、次のページに書き込まれている。
〈攻略本〉を開く前の三秒の間、いつも俺は想像してしまう。
〈攻略本〉が指し示す〈答え〉と、それを実行した後に起こることを。
それは間違いなく俺にとっては〈正しい〉選択だ。
しかし、正しすぎるがゆえに間違っているということだってある。俺は、そのことを経験則的に知っていた。
俺にとっての〈正解〉が、俺以外の世界から見れば、必ずしも〈正解〉とは言えないからだ。
でも、結局俺は〈攻略本〉の示す通りに行動してきたし、これからもそうするだろう。
だってそれは、『正しい』のだから。
『正しい』ということは、どこまで行こうと『正しい』ということでしかないのだから。
禅問答のような物言いの、両者の間に横たわる微妙な差異に目を瞑りながら、俺は〈攻略本〉を開いた。
「なっ……?」
そこに書かれていたのは、俺が全く想定していなかった〈答え〉だった。
『継原征示は水嶋瞑と一切関わってはならない』
何ができるかもクソもない。
こんなのは、危険物処理以外の何物でもない。
あれ以来、水嶋は学校に来ていない。〈瑠夏グループ〉との直接的な揉め事は起こっていないが、水嶋への悪感情は着実に醸成されている。
次に彼女が登校した時に何が起こるのかは見通せない。良くて無視、悪ければ先週の再現だ。
何か起これば間に入るしかないが、それができるのはこのクラスではおそらく俺だけだ。
普通の生徒同士の諍いだったら、丸く収める方向性もあるだろうが、水嶋が敵に回したのがクラスの女王・静内だったということが、事態をややこしくしている。
下手に間に入れば、今度は俺がクラスの敵になってしまうかもしれない。必要ならばやるが、俺一人が犠牲になったところで、事態は到底好転しない。
何かあるはずだ。
『正しい』方法が。
導かれるように、机の引き出しを開いてしまう。
そこには、あの夏の日に神様からもらった〈攻略本〉がある。
『見開きの右側のページに、悩んでることとか、迷ってること、どうしたらいいかわからないことを書くんだ。書き終わったら一度本を閉じろ。もう一度開いたら、次のページには正しい答えが書き込まれている』
神様の言った通り、〈攻略本〉の力は本物だった。
くだらないことに使ったこともあった。
遠足のおやつは何を買うべきか。
この図書館の中で読むべき本はどれか。
給食のおかわりじゃんけんで出すべき手は。
〈攻略本〉は、どんなくだらない問いに対しても、俺にとってベストな方策を教えてくれた。
選ばなかった未来を見ることはできないので、本質的には〈攻略本〉が教えてくれる未来が本当にベストなのかを確かめることはできない。だが、〈攻略本〉の選ぶ行動が、概ね俺に良い結果をもたらし続けてきたのもまた確かだった。
〈攻略本〉の一番新しいページを開き、そして考える。
使うべきか、それとも――。
思い浮かべたのは、あの地獄のような教室の光景だった。
うみちゃんでは、あのクラスの舵取りは無理だ。誰かがうまくバランスを取らなければ、あの日と同じことがまた起こるし、その結果として誰かが傷つくかもしれない。物理的にもそうだし、精神的な意味でも。
傷つけられて壊れるものもあれば、傷つけることで損なわれるものもある。傷ついたり、傷つけたりなんて、そんなもの、避けられるならば避けるべきだ。
今回は使ってもいいんじゃないか――そう心を決め、ボールペンを持ち、〈攻略本〉の新しいページにこう書きつけた。
『水嶋瞑を助け、教室内の揉め事を丸く収めるためにはどうすべきか』
そのまま〈攻略本〉を閉じ、目を閉じて、心の中で三秒を数える。
三、二、一――。
次に開けば、俺が書き込んだ〈問い〉に対する〈答え〉が、次のページに書き込まれている。
〈攻略本〉を開く前の三秒の間、いつも俺は想像してしまう。
〈攻略本〉が指し示す〈答え〉と、それを実行した後に起こることを。
それは間違いなく俺にとっては〈正しい〉選択だ。
しかし、正しすぎるがゆえに間違っているということだってある。俺は、そのことを経験則的に知っていた。
俺にとっての〈正解〉が、俺以外の世界から見れば、必ずしも〈正解〉とは言えないからだ。
でも、結局俺は〈攻略本〉の示す通りに行動してきたし、これからもそうするだろう。
だってそれは、『正しい』のだから。
『正しい』ということは、どこまで行こうと『正しい』ということでしかないのだから。
禅問答のような物言いの、両者の間に横たわる微妙な差異に目を瞑りながら、俺は〈攻略本〉を開いた。
「なっ……?」
そこに書かれていたのは、俺が全く想定していなかった〈答え〉だった。
『継原征示は水嶋瞑と一切関わってはならない』

