先週の月曜のことだ。
いつも教室の真ん中で騒いでいる〈瑠夏グループ〉だったが、その日は様子が違った。
女子が一人、さめざめと泣いていた。〈瑠夏グループ〉は彼女をぐるりと囲み、何やら慰めたり励ましたりしているようだった。輪の中心で泣いていたのは、グループ内では比較的落ち着いた性格の柳だった。
漏れ聞こえてくる話を総合すると、どうも彼女はバスケ部のイケメンで有名な矢野先輩と付き合っていて、つい前日に、受験に集中したいという理由で別れを切り出されてしまったらしい。
柳が涙ながらに嘆くと、周りの女子たちは口々に、相手の男の非道さを非難したり、「あんな男よりもっと素敵な人はいる」と励ましたりしていた。
周囲の怒りや励ましを糧に、悲劇のヒロインはさらに自分の感情を盛り上げていく。その円環は、感情は互いを食い合って成長していく怪物のように見えた。
今からみんなで彼氏に文句を言いに行こうと、グループの方針が固まったところで事件は起こった。
がたんという音とともに、一人の女子が立ち上がった。
水嶋だった。
いつもと同じように、感情の動きは見当たらない。鞄を肩に掛け、すたすたと〈瑠夏グループ〉の横を通り過ぎようとしたその時だった。
「あんた、今笑ったでしょ」
低く抑えた声だった。
途端に教室内がシンと静まったのは、その声を発したのがクラスの女王――静内瑠夏だったからだ。
「別に」
水嶋にビビる様子はなく、小気味いいくらいにいつも通りの無表情だった。
「馬鹿にしてんの? 何がおかしいわけ? 友達が悲しんでるのに笑うとか、あんた本当に人間?」
声のトーンが徐々に高まっていく。静内は明らかに怒っていて、胸の内に巻き上がる炎が見えるようだった。
静内は水嶋を威圧するかのように、彼女の目の前に立ち塞がった。ちょうど格闘家同士がするような、メンチを切り合っているような状況だ。
さすがにやばいと思って止めに入ろうとしたが、〈瑠夏グループ〉の動きの方が早かった。静内の怒りに呼応するように、それぞれに怒りの火柱を立てて水嶋を取り囲む。
さっきまで泣いていたはずの柳さえも、その目を吊り上げている。
一触即発の雰囲気の中、水嶋がその口を開いた。その声は、普段聞けないのをもったいなく思ってしまうほど美しく澄んだ響きだった。
「楽しそうでいいなあって、思っただけ」
その後は、もうぐちゃぐちゃだった。
激昂した静内が水嶋に掴みかかり、〈瑠夏グループ〉の面々もそれに続いた。水嶋はラグビー部のタックルを食らったみたいに引き倒され、それに続いた面々に押し潰され、もみくちゃになる。
俺は近くにいた男子に先生を呼びに行くように言って、紛糾の中心に飛び込み、どうにか静内を水嶋から引き剥がした。
目を血走らせ錯乱したように叫び続ける静内とは対照的に、水嶋は何事もなかったかのように、すくっと立ち上がった。
教室中があ然として見つめる中、水嶋は制服についた埃を落ち着いた手つきで払い、通学鞄を拾うと、何事もなかったかのように教室を後にした。
その後ろ姿に、誰もが圧倒されていた。
職員室から先生が駆け付けた時には既に水嶋の姿はなく、泣き喚く〈瑠夏グループ〉がいるばかりだった。
静内を始めとする〈瑠夏グループ〉は、先生から軽い注意を受け、その場は終わった。
その日以来、水嶋は学校を休み続け、今日に至っている。
いつも教室の真ん中で騒いでいる〈瑠夏グループ〉だったが、その日は様子が違った。
女子が一人、さめざめと泣いていた。〈瑠夏グループ〉は彼女をぐるりと囲み、何やら慰めたり励ましたりしているようだった。輪の中心で泣いていたのは、グループ内では比較的落ち着いた性格の柳だった。
漏れ聞こえてくる話を総合すると、どうも彼女はバスケ部のイケメンで有名な矢野先輩と付き合っていて、つい前日に、受験に集中したいという理由で別れを切り出されてしまったらしい。
柳が涙ながらに嘆くと、周りの女子たちは口々に、相手の男の非道さを非難したり、「あんな男よりもっと素敵な人はいる」と励ましたりしていた。
周囲の怒りや励ましを糧に、悲劇のヒロインはさらに自分の感情を盛り上げていく。その円環は、感情は互いを食い合って成長していく怪物のように見えた。
今からみんなで彼氏に文句を言いに行こうと、グループの方針が固まったところで事件は起こった。
がたんという音とともに、一人の女子が立ち上がった。
水嶋だった。
いつもと同じように、感情の動きは見当たらない。鞄を肩に掛け、すたすたと〈瑠夏グループ〉の横を通り過ぎようとしたその時だった。
「あんた、今笑ったでしょ」
低く抑えた声だった。
途端に教室内がシンと静まったのは、その声を発したのがクラスの女王――静内瑠夏だったからだ。
「別に」
水嶋にビビる様子はなく、小気味いいくらいにいつも通りの無表情だった。
「馬鹿にしてんの? 何がおかしいわけ? 友達が悲しんでるのに笑うとか、あんた本当に人間?」
声のトーンが徐々に高まっていく。静内は明らかに怒っていて、胸の内に巻き上がる炎が見えるようだった。
静内は水嶋を威圧するかのように、彼女の目の前に立ち塞がった。ちょうど格闘家同士がするような、メンチを切り合っているような状況だ。
さすがにやばいと思って止めに入ろうとしたが、〈瑠夏グループ〉の動きの方が早かった。静内の怒りに呼応するように、それぞれに怒りの火柱を立てて水嶋を取り囲む。
さっきまで泣いていたはずの柳さえも、その目を吊り上げている。
一触即発の雰囲気の中、水嶋がその口を開いた。その声は、普段聞けないのをもったいなく思ってしまうほど美しく澄んだ響きだった。
「楽しそうでいいなあって、思っただけ」
その後は、もうぐちゃぐちゃだった。
激昂した静内が水嶋に掴みかかり、〈瑠夏グループ〉の面々もそれに続いた。水嶋はラグビー部のタックルを食らったみたいに引き倒され、それに続いた面々に押し潰され、もみくちゃになる。
俺は近くにいた男子に先生を呼びに行くように言って、紛糾の中心に飛び込み、どうにか静内を水嶋から引き剥がした。
目を血走らせ錯乱したように叫び続ける静内とは対照的に、水嶋は何事もなかったかのように、すくっと立ち上がった。
教室中があ然として見つめる中、水嶋は制服についた埃を落ち着いた手つきで払い、通学鞄を拾うと、何事もなかったかのように教室を後にした。
その後ろ姿に、誰もが圧倒されていた。
職員室から先生が駆け付けた時には既に水嶋の姿はなく、泣き喚く〈瑠夏グループ〉がいるばかりだった。
静内を始めとする〈瑠夏グループ〉は、先生から軽い注意を受け、その場は終わった。
その日以来、水嶋は学校を休み続け、今日に至っている。

