あの夏、俺は神様から人生の〈攻略本〉をもらった

 夕食を残して、俺は自分の部屋に引き上げた。普段なら偏食を咎めるばあちゃんも、今日は何も言わなかった。半分以上残した皿を片付けたばあちゃんの顔を、俺は見れなかった。
 その穴埋めをするかのように、部屋の机に置かれた写真を見た。古びたフォトフレームに飾られているのは、十年前、この家に来たばかりの俺と、ばあちゃんの写真だ。
 玄関の門柱にカメラを置いて、慣れないタイマー機能を使い、二人だけで撮った。タイマーをうまく設定できなくて、何度もやり直してようやく撮れた苦労の一枚だ。
 その日のことは、今でもよく覚えている。
 ばあちゃんがどんな人間かもわからないまま、見たこともない土地での新しい生活に怯えて、ただ肩を強張らせていた。

 あれからもう、十年が経つ。
 十年――。

 俺にとってこの十年は、〈攻略本〉とともに歩んだ年月でもあった。もしもこれが与えられなければ、俺はもっと早い段階で、この世界における居場所を失っていたはずだ。
 足の幅くらいしかない断崖絶壁の道を、〈攻略本〉を片手に、バランスを取りつつ歩き続けて来た。ここまで来れたこと自体が、奇跡だったのかもしれない。
 もう諦めてしまってもいいのかもしれない。
 そんな感慨とともに〈攻略本〉の最初のページを開いた。
 そこには、あるはずのないものがあった。

「……え?」

 思わず声が漏れた。
 〈攻略本〉の最初のページ――俺が初めて立てた〈問い〉の日付に、橙色の蛍光ペンで丸がつけられていた。

 日付はちょうど、十年前だ。
 まさかと思って他のページも調べてみたが、蛍光ペンの印がつけられていたのはこのページだけだった。

 当たり前だが、俺がつけたものではない。
 神様がつけたものでもないだろう。

 〈問い〉に対する〈答え〉以外のものを記したことは、今まで一度としてなかった。

 ということは、この印は俺や神様以外の誰かの手によって、何らかの意図をもってつけられたものだ――ということだ。

 誰が?
 というよりも、なぜ?

 なぜ、よりにもよってこの一番初めの〈問い〉の日付に印をつけたのか?
 この印をつけた誰かにとって、この日付が何か特別な意味でも持っていたのだろうか?
 十年前の、この日付が――。

「あ、」

 不意に全てが、一つの線になった。
 ばらばらに散らばっていたパズルのピースがより合わさって、ゆっくりと一枚の絵を描き出していく。
 その接合点は残酷なまでに美しく嵌り、それ以外の解釈の存在を許さないほどだった。

 俺は、蛍光ペンの印を指でなぞる。
 まるでテレビドラマにいるアルコール中毒患者か何かのように、俺の指はがたがたと振動していた。

 その日付。
 〈問い〉、そしてその〈答え〉。
 その十年後に刻まれた〈答え〉。



 『継原征示は、水嶋瞑と一切関わってはならない』



 今、はっきりとわかった。
 やはり〈攻略本〉は、正しかった。

 継原征示は水嶋瞑と関わり合うべきではなかったのだ。