あの夏、俺は神様から人生の〈攻略本〉をもらった

 ため息とともに、下足箱へ向かう。廊下は文化祭当日の華やかさに満ち満ちていた。
 出店で買ったフランクフルトを片手に談笑する三人の女子がいる。その女子に声をかけようとしている男子がいる。クラスの出し物の呼び込みに声を張り上げる眼鏡の女子がいる。
 そこにはなぜか、加山がいなかった。
 下足箱への曲がり角で、ばったりうみちゃんと会った。

「つ、継原っ、くんっ!」

 うみちゃんは俺の顔を見るなりぼろぼろと泣き始めた。うみちゃんの涙が流れるほど、俺の心はどんどん冷めていく。心が沈下していくのは、止めようがなかった。

「加山くんのこと、頑張ってくれたんだよねっ。せんせいっ、知ってるからっ。こんなことになっちゃったけど、継原くんは絶対、正しいことをしたんだからっ!」

 それ以上聞いていられなくて、言葉の途中で背を向けてしまった。
 うみちゃんは、俺がショックを受けていると考えている。
 だからこそ、こうして慰めようとしてくれている。
 優しい言葉をかけてくれている。
 いい先生だと思う。
 だけど俺には、そんな言葉をかけてもらえるような資格がない。
 それだけだった。

「早退します」
「継原くんっ!?」

 追いすがるうみちゃんに構わず、下駄箱から自分の靴を取り出した。
 感情を全て捨ててしまえたら、どんなにいいだろう。
 内側の柔らかい殻がどんなに傷ついても、何でもないような顔して歩いていけたらいい。
 顔に鉄仮面を貼り付けられるなら、どんな外科手術を受けたって構わないのに。

「付き合おうか?」

 そうか。
 こいつはずっと、そういう仮面を被っていたんだ。

 どんなことがあっても破れず、壊れず、自分の全てを隠し通せる鉄の仮面を。

「どこにも行かないぞ」
「行けない――の間違いでしょ」

 水嶋の言葉で、俺はようやく笑えた。