あの夏、俺は神様から人生の〈攻略本〉をもらった

 帰りの電車の中、水嶋がぽつりとつぶやいた。

「加山くん、どうするかな」
「わからない。でも、切っ掛けはこれだけじゃない。だめならまた別の切っ掛けを考えればいいし」
「そうだけど」

 電車に揺られる水嶋は、スマホを横使いにして〈スカイン〉の周回をしていた。頭を使わなくてもできる、難易度の低いステージの周回。自動周回機能を使わず、わざわざ手動で。

「あれ、打ち合わせになかったよな」

 水嶋からの答えはない。

 ――わたしなら、やり返してやりたいけど。
 ――自分に興味を持たない連中を見返してやりたいって思うじゃん。

 電車が陸橋に差し掛かる。
 車内の揺れがより一層強くなる。

「だって、本当にそう思うから」

 LOSE。
 水嶋のスマホには、そんな文字が踊っている。

「集中しろよ」

 言われなくてもそうしていると言わんばかりに、同じステージをリスタートした。

「無敵の人――っているでしょ」

 相槌は打てなかった。
 ただ、ばあちゃんとはぐれたあの日、駅前で刃物を振り回して暴れていた男が、ワイドショー番組でそう呼ばれていたことは知っている。

「人はいつか死ぬでしょ。世界と何も関われず、何も残せない人が、どうせ死んでしまうならって、世界に爪痕を残して死にたいと思うのは、理解できる気もするんだよね」
「それは、正しくない」
「生き残るためなのに、正しい道が何一つ残されていない――そういう人だって世の中にはいると思う」

 何も言い返せない。
 そういう人間は、いる。
 確かに、どこかには。
 電車が大きく減速した。もうすぐ乗り換え駅だ。

「じゃあね」
「降りるのか?」
「家、こっちだって。言ったでしょ」
「そうだったっけ」

 水嶋は答えず、背中越しに手を振って降車した。
 水嶋とは随分長く一緒にいる気がしているのに、考えてみれば、水嶋がどこに住んでいるのかも知らない。どこの中学出身で、どんな家族と暮らしているのかも、何も。



 その夜、グループラインに加山からのメッセージが入った。『クラスの美術展に出品する』という内容だった。
 俺は渾身の喜びを表現するスタンプとともにメッセージを返したが、水嶋からの既読は、翌日の昼にならないとつかなかった。