あの夏、俺は神様から人生の〈攻略本〉をもらった

「……どういうつもりだ」

 教室へは戻らず、屋上へと続く階段の踊場まで水嶋を引っ張ってきた。
 ここならそうそう人目につくことはない。

「いけない?」
「いけなくは……ないけど」

 そんなに真っ直ぐに問い掛けられると、否定するのも難しかった。何より、うみちゃんの依頼を形だけこなしてお茶を濁そうとしていた俺より、積極的に関わろうとする水嶋の方が正しいに決まっている。
 水嶋の提案に戸惑っていたうみちゃんだったが、最後には「あなたがそこまで言ってくれるなんてっ……!」と、涙を流さんばかりだった。
 水嶋の切った大見得によって、俺まで動かざるを得ない状況に追い込まれた格好だ。

「これがお前がやりたかったことなのか?」
「んー、そういうわけでもないけど、まあ、ちょうどいいかなーって」
「どういうことだ」
「つまり――人助け」

 ピンと人差し指を天に向かって突き立てた。

「人助け?」
「人助け、善行、利他行為……言い方は色々あるけど。とにかく、良い事、世の中のためになること、人の役に立つことをしたいなって思ったんだ。せっかく〈攻略本〉なんて便利なものを持ってるんだからさ。うみちゃん、困ってるんだし」
「そりゃまあ、そうだけど」

 うみちゃんが困っていたのは確かに事実だ。
 相変わらずよく見てやがる。

「……お前、どこまで読んでたんだ?」
「どこまでって?」
「最初から、こうするつもりだったんじゃないのか」
「まあね」

 まるで悪びれもせずに。

「一学期から継原くんがうみちゃんの相談役(コンサル)やってたのは知ってたし。加山くんの件でパワハラ教頭からいじめられてるのも、見ればわかるじゃん。風見鶏の継原くんも消極的なんだろうし、後戻りできなくさせてやろう――って思っただけ」

 言いたいことは山ほどあったが、全てお見通しの水嶋には何を言っても無駄な気がした。

「〈攻略本〉を使うのは気が重いんでしょ。気持ちはわかるよ。でも、継原くんだって本当はやりたいんでしょ?」
「何を」
「『正しい』こと」

 その単語に、息を飲んだ。
 水嶋の言葉は、痛みが生じるくらいに胸に刺さった。
 息苦しくなってしまうほどに。

「わたしもそうだよ。人生で一度くらい『正しい』ことをしてみたくなったんだ。付き合ってよ、継原くん?」