あの夏、俺は神様から人生の〈攻略本〉をもらった

 翌日、俺はサンシャインサカエの前にいた。
 気候のいい秋の休日ということもあり、栄はなかなかの人出だった。外国人観光客らしき家族連れ、プラカードを持って客寄せするメイド、服よりも肌の面積のほうが大きい服を来た派手なギャル、などなど。
 安物のTシャツに、ジーンズ、白のスニーカーという、どこにでもいる高校生でしかない俺の方が特殊な人みたいだ。
 時刻は九時五十五分。辺りを見回すが、水嶋らしき人影はない。まあまだ五分前なのだし、待つしかないかと腕を組んだその時、

「……ん?」

 Tシャツの右脇腹をくいくい引っ張られた。
 振り向くと、水嶋がいた。

「や」
「お、おう」

 肩ぐらいまで伸ばしたいつも通りの髪型だが、普段はつけていないヘアクリップがについている。化粧っ気は薄く、ノンブランドのベージュオーバーオールにスニーカー。
 デートの服装かと言われると首を傾げてしまうが、気を使ってくれたんだろうなという気もする。

「何か言いたそうな顔してる」
「いや、何も」
「言わなきゃ動画アップロードする」
「そのクリップ、なかなかいいと思うぞ」
「…………」

 無言で頭突きが来た。
 鳩尾の辺りに、無防備で食らってしまう。

「お、お前が言えって言ったんじゃねーかよ……」
「観覧車奢ってくれたら許さなくもない」

 というわけで、サンシャインサカエの観覧車に乗ることにした。
 三階にある乗り場は想像していたより混んではいなかったし、乗車料金が一人六百円と良心的な値段だったのもありがたかった。

「これ乗るの、初めて」
「確かに、進んで乗ろうとは思わないよな」

 周りは海外の観光客風の人たちと、あとは同じフロアでやっているアイドルの展示イベントに来た女の子たちが大半を占めていた。後は、怖いもの見たさ風のカップルが数組。栄には高層ビルが少ないので、眺めは悪くなかった。
 水嶋はと言えば、せっかく希望通りに観覧車に乗ったのに、ろくに景色も見ない内に「〈攻略本〉、持ってる?」と言い出した。
 ショルダーバッグから〈攻略本〉を取り出すと、すかさずペンが出てきた。

「今からわたしが言う通りに書いてください」
「お、おう」
「『水嶋暝とする、最高のデートコースを教えてください』」
「ぶっ」

 水嶋から出てきた単語があまりにも想定外過ぎて吹いた。

「逆にこれ、なんだと思ってたの? どう考えてもデートでしょ」

 いや、そうかなとは思っても、あえて言わないようにしてたんだが。
 書き終えた瞬間に〈攻略本〉は奪い去られた。水嶋は俺から見えないように〈答え〉が載ってるはずのページを開く。

「へえ〜、なるほど……」

 よほど面白いことが書いてあったのか、〈攻略本〉越しにこちらを見て、ニマニマと笑んでいる。

「その様子だと、書いてはあったんだな」
「書くのが継原くんなら、最初に見るのが他の人間でも構わないってことだね」
「なんて書いてあったんだ?」

 〈攻略本〉に手を伸ばすと、水嶋はそれを抱きかかえるようにして首を横に振る。

「見せられません」
「はぁ?」
「だって、どこに行くか知らない方がデートを楽しめるでしょ? 今日はわたしが継原くんをエスコートしてあげる」
「何言ってんだよ、返せ」
「だめっ、だめだってば!」

 奪い返せないまま、大きめの肩掛けポーチにしまい込まれてしまった。
 気づくと観覧車はとっくの昔に頂上を過ぎてしまっていて、あと少しで降車場というところまで来ていた。

「ほら、降りるよ継原くん」

 何気なく手を握られて、それ以上何も言えなくなってしまった。いかにもやる気のなさそうな係員が扉を開け、流れ作業のように俺たちは外へと押し出されていく。