★NTR成分はあまりありませんので安心して楽しんでお読みください。
◇

道に迷っていた。
「ふぅ、ふぅ、はぁ、はぁ」
『ねぇ、あそこ見て、辿り着いたんじゃない?』
二人は今、遭難する寸前であった。男性は風間信、女性は岸田佳代子。大学生で登山にやってきたものの、雪が吹雪いて白景色となり道に迷って彷徨う内に遭難間際の状況に陥っていた。
「あれは……小屋に見えるな。きっと山小屋だ」
『行きましょ。足元に気を付けてね』
「それは俺のセリフだろ」
山小屋を見つけて気持ちが和らいだのだろう。二人とも軽い口調になった。先ほどまでは寒さと吹雪で唇は動かせないほど固まり、言葉など発する体力も残ってはいなかった。
◇
「よし! 間違いなく山小屋だ。助かったぞ佳代子」
『うん、助かったのね、私たち……』
涙目で小屋へ向かって戸口を探す。半分雪に埋まっているからだ。
小屋は意外にも大きかった。
「あったあった、入口だ。雪を掻き分けて扉を開けるぞ」
『シャベルを探してみるわ。小屋の裏手にあるかも』
「木の棒で良いよ。それにまだ雪が柔らかい」
『わかった』
◇
扉を開けると想像以上に広い小屋だった。小屋というより家みたいだ。
部屋数は三部屋、ロビーは狭いがリビングが広く、焚火が出来る煙突もある。
二階建てであり、二階に一部屋、一階にリビングと部屋が二つあった。ベッドまで設置されている。
驚いたことに、何とシャワールームまであった。
「信じられないな。水は雪を溶かして用意するのか? ヘリで送ってもらってるのか、それが山小屋利用という事で無料で使用できるだなんて」
『ほんと、変よね。山の常識では考えられないわ』
「普通の山小屋は小さくて風、水を防ぐだけ、隙間も多くあってお世辞にも快適とは言えないが……」
『ここは快適そのものよね』
納得のいかない二人は背負ったリュック、手袋などを外し、リビングに入って隅に置いて、中から今夜に必要な缶詰、菓子類、乾パンなどを取り出した。
懐中電灯に、ライター。ホッカイロも全身に貼り付けるから準備をしておく。
ゴソゴソやっていたら二階の部屋から男性が階段を降りてきた。
『おや? 君たちも避難客かい?』
「あ、はい。命からがらここに逃げ込んできました」
『あれ? よしくん……よしくんよね』
『あれぇ、佳代子か? 本物かい』
『うん、どうしてこんなとこに?』
『いや俺も遭難して、一足先に山小屋に辿り着いたんだよ。山小屋というより家だけどな』
「ちょ、ちょっと待ってくれ。佳代子、彼と知り合いなのか?」
『え……えっと、あ、あの……高校の時の友達だよ』
『おい佳代子、元カレって正直に言えよな、恥ずかしがるなよ、まったくお前は』
(まて、全国に山がいくつある? その中に山小屋はどれだけある? 知り合いに会う確率はどれぐらいだ? しかも知り合いじゃなく元カレだとぉ)
『よしくん、私恥ずかしがっていないってば。でも偶然ね』
『運命って言えよ佳代子』
「あ、あの、俺は風間っていう。君は?」
『俺のことはヨシって呼んでくれ』
『よしくん以外、呼び方ないわよ』
「ああ、よしくん、よろしくな」
『よろしく風間くん。君と佳代子は恋人同士かい?』
「ああ」
『ふふ、よしくん羨ましいでしょ! よしくんは未だ独り身なの?』
『そうだよ悪かったな』
彼女と彼は互いに近寄り、それぞれ肩を叩いたり、手を合わせたり、拳をコツンと当てたりしていた。風間が今まで見たことがないような佳代子の笑顔である。相手の男性も久しぶりに会えた元カノに対して積極的だった。
(おいおいおい、なんだよ、このシチュエーションは! それにあいつら距離が近すぎだろ)
『さて二人とも、遭難して避難しながら雪の中を歩いたのだから腹が減ったろ? 実はな、俺が避難してきてから家探しをしたんだ。それでな、床下の空間、いわゆる昔の貯蔵庫だな、そこに肉が置いてあって、ちゃんと保存されているんだ。それを拝借して焼肉パーティと洒落込まないか?』
『あれ? よしくん、ワインセラーまであるよ』
『ははは、さすが佳代子。目ざといな。赤ワインでやろうか』
『久しぶりよね』
『おう』
(なんかムカつくぞ)←風間
三人で床下の空間から肉を取り出した。肉たちは凍っているがコンロが使用でき、竈の火も焚ける。解凍すれば直ぐに食べることが出来るだろう。
「今は夜の八時か」
『じゃぁ夕飯には丁度いいわね』
「おや? こっちにあるのは鶏肉だな。佳代子、そっちは牛肉か?」
『そうね、えっと……たぶん』
『お前ら、なに意味わからんことを言ってんだ、さっさと肉を焼くぞ! あとコレ、ドリンク』
彼に出された飲み物の銘柄はミカジュー。……という謎の飲み物が用意されていた。
(おい、佳代子、飲み物には気を付けろよ。そして深夜よしくんにも近寄るな)
(なんで小声なの? 彼は危険な男性じゃないわよ?)
(俺は彼を知らんぞ。佳代子のように隅から隅まで彼を知ってるわけないだろ)
(あ、ひっどー! サイテー! 信くんサイテー!)
『おいどうした、牛肉が焼けたぞ。タンもある』
『うんっと……さ、ほら、ワインもあるわよ』
「「カンパーイ」」
◇
【深夜二時】
風間信は眠れなかった。
寝返りを打った際、隣にいた佳代子に腕が当たらず、つまり彼女がベッドの上にはいなかったのだ。化粧室だと考え、直ぐに戻ってくると思いきや、もう15分は過ぎていた。
(ま、まさか……佳代子のやつ元カレの部屋で会ってるんじゃないだろうな、オレに黙って元カレの部屋に行く。それって当然、アレしてるわけだろ、おい待てよ、ふざけんなよ、今回NTR成分はなかったんじゃないのか!? どうして佳代子が寝取られるんだよ)
なんだか雨漏りの音がする。外は吹雪だ、雨じゃない。すると答えは……
シャワー! 元カレと一緒に浴びてるんじゃないだろうな? くそぉ、見に行くぜ!
◇
【朝四時】
風間は眠れなかった。ベッドの上でじっとしていた。
この登山が終わったら、佳代子に婚約指輪を渡してプロポーズするつもりだった。
なぜ戻ってこない? いつまでトイレに籠っているんだ。
二時間もトイレに籠るなど常識的に考えても無理だろう。するとシャワーに近いよしくんの部屋か。先によしくんを探すか、佳代子を探すか、その場に佳代子がいたらどうする?
風間の運命を決める探索が今始まる!
◇
【朝七時】
(お、おかしい。なぜ佳代子もよしくんもいないんだ。部屋にいない、シャワールームにもいない、床下にもいない、外は吹雪いているままだ)
風間はリビングのソファに座って、佳代子たちを探していた疲れを癒していたところだった。
すると、誰もいなかった二階の部屋から佳代子が階段を降りてくる音がした。
「か、佳代子! お前、二階の誰もいなかった部屋から出てきたな! よしくんも一緒なんだろ!」
『ちょ、ちょっと待って。何言ってるの信くん』
「佳代子、お前、今まで浮気していたんだろ。元カレだもんな、よしくん、よしくんって何度も親しく呼びかけてさ。何だよ、俺という彼氏がいる前で、あろうことか元カレにすり寄ってラブラブ光線を出すなんて最低だな! せっかく下山したらプロポーズして結婚しようって予定を立ててたのにさ、酷い女だな佳代子。くそぉ、俺はどうしてお前みたいな尻軽女に掴まったんだよ、幼馴染からの縁か?」
『ちょっと落ち着いて!』
「落ち着けるもんか! 今まで俺の愛した彼女が、よしくんとやらの俺の全く知らないクソ男と一緒にベッドにいたんだろ? つまり寝取られじゃないか! 最低だよ」
『何言ってるのよ! わたしは一人でずっと居たし、化粧室から出てきてベッドで寝てたわよ。あなたこそ居なかったのに、何なのよ、もう!』
「な、なんだとぉ」
◇
【午前九時】
痴話げんかはようやく終わりを告げた。家なのに行方不明になっているよしくんを二人で探し始めた。
『ね、ねぇ、よしくん、いないよね』
「何回家探ししてもいないな。ひょっとして最初から彼は居なかったのでは?」
『ま、まさかぁ』
「いや、よく聞いたことがあるぞ。そもそも偶然にこの家で出会うか? 元カレに」
『だけどさ、よしくんが最初からいるいない関係なく、今ってまだ真っ暗よね?』
「そりゃそうだろ、夜なんだから」
『今、午前九時すぎなんだけど……』
「ま、まさか……」
『ねぇ信くん、朝が来ない……来ないわ……』
【Fin】
NTR成分はあまりありませんので楽しんでお読みくださいませ。
⇒作者は過去一回コレでやらかしています。
NTR成分ありませんよといいながらゴッツいNTR表現をしてしまいました。
『死の呼び声』
https://novema.jp/book/n1785784
◇
★やきにく企画の参加作品プレイバックパート2です。
★気になった方のみ:ミカジューの説明は……
”森の隠れ家(R15ギリアウトかも)”
https://novema.jp/book/n1764021/3
◇

道に迷っていた。
「ふぅ、ふぅ、はぁ、はぁ」
『ねぇ、あそこ見て、辿り着いたんじゃない?』
二人は今、遭難する寸前であった。男性は風間信、女性は岸田佳代子。大学生で登山にやってきたものの、雪が吹雪いて白景色となり道に迷って彷徨う内に遭難間際の状況に陥っていた。
「あれは……小屋に見えるな。きっと山小屋だ」
『行きましょ。足元に気を付けてね』
「それは俺のセリフだろ」
山小屋を見つけて気持ちが和らいだのだろう。二人とも軽い口調になった。先ほどまでは寒さと吹雪で唇は動かせないほど固まり、言葉など発する体力も残ってはいなかった。
◇
「よし! 間違いなく山小屋だ。助かったぞ佳代子」
『うん、助かったのね、私たち……』
涙目で小屋へ向かって戸口を探す。半分雪に埋まっているからだ。
小屋は意外にも大きかった。
「あったあった、入口だ。雪を掻き分けて扉を開けるぞ」
『シャベルを探してみるわ。小屋の裏手にあるかも』
「木の棒で良いよ。それにまだ雪が柔らかい」
『わかった』
◇
扉を開けると想像以上に広い小屋だった。小屋というより家みたいだ。
部屋数は三部屋、ロビーは狭いがリビングが広く、焚火が出来る煙突もある。
二階建てであり、二階に一部屋、一階にリビングと部屋が二つあった。ベッドまで設置されている。
驚いたことに、何とシャワールームまであった。
「信じられないな。水は雪を溶かして用意するのか? ヘリで送ってもらってるのか、それが山小屋利用という事で無料で使用できるだなんて」
『ほんと、変よね。山の常識では考えられないわ』
「普通の山小屋は小さくて風、水を防ぐだけ、隙間も多くあってお世辞にも快適とは言えないが……」
『ここは快適そのものよね』
納得のいかない二人は背負ったリュック、手袋などを外し、リビングに入って隅に置いて、中から今夜に必要な缶詰、菓子類、乾パンなどを取り出した。
懐中電灯に、ライター。ホッカイロも全身に貼り付けるから準備をしておく。
ゴソゴソやっていたら二階の部屋から男性が階段を降りてきた。
『おや? 君たちも避難客かい?』
「あ、はい。命からがらここに逃げ込んできました」
『あれ? よしくん……よしくんよね』
『あれぇ、佳代子か? 本物かい』
『うん、どうしてこんなとこに?』
『いや俺も遭難して、一足先に山小屋に辿り着いたんだよ。山小屋というより家だけどな』
「ちょ、ちょっと待ってくれ。佳代子、彼と知り合いなのか?」
『え……えっと、あ、あの……高校の時の友達だよ』
『おい佳代子、元カレって正直に言えよな、恥ずかしがるなよ、まったくお前は』
(まて、全国に山がいくつある? その中に山小屋はどれだけある? 知り合いに会う確率はどれぐらいだ? しかも知り合いじゃなく元カレだとぉ)
『よしくん、私恥ずかしがっていないってば。でも偶然ね』
『運命って言えよ佳代子』
「あ、あの、俺は風間っていう。君は?」
『俺のことはヨシって呼んでくれ』
『よしくん以外、呼び方ないわよ』
「ああ、よしくん、よろしくな」
『よろしく風間くん。君と佳代子は恋人同士かい?』
「ああ」
『ふふ、よしくん羨ましいでしょ! よしくんは未だ独り身なの?』
『そうだよ悪かったな』
彼女と彼は互いに近寄り、それぞれ肩を叩いたり、手を合わせたり、拳をコツンと当てたりしていた。風間が今まで見たことがないような佳代子の笑顔である。相手の男性も久しぶりに会えた元カノに対して積極的だった。
(おいおいおい、なんだよ、このシチュエーションは! それにあいつら距離が近すぎだろ)
『さて二人とも、遭難して避難しながら雪の中を歩いたのだから腹が減ったろ? 実はな、俺が避難してきてから家探しをしたんだ。それでな、床下の空間、いわゆる昔の貯蔵庫だな、そこに肉が置いてあって、ちゃんと保存されているんだ。それを拝借して焼肉パーティと洒落込まないか?』
『あれ? よしくん、ワインセラーまであるよ』
『ははは、さすが佳代子。目ざといな。赤ワインでやろうか』
『久しぶりよね』
『おう』
(なんかムカつくぞ)←風間
三人で床下の空間から肉を取り出した。肉たちは凍っているがコンロが使用でき、竈の火も焚ける。解凍すれば直ぐに食べることが出来るだろう。
「今は夜の八時か」
『じゃぁ夕飯には丁度いいわね』
「おや? こっちにあるのは鶏肉だな。佳代子、そっちは牛肉か?」
『そうね、えっと……たぶん』
『お前ら、なに意味わからんことを言ってんだ、さっさと肉を焼くぞ! あとコレ、ドリンク』
彼に出された飲み物の銘柄はミカジュー。……という謎の飲み物が用意されていた。
(おい、佳代子、飲み物には気を付けろよ。そして深夜よしくんにも近寄るな)
(なんで小声なの? 彼は危険な男性じゃないわよ?)
(俺は彼を知らんぞ。佳代子のように隅から隅まで彼を知ってるわけないだろ)
(あ、ひっどー! サイテー! 信くんサイテー!)
『おいどうした、牛肉が焼けたぞ。タンもある』
『うんっと……さ、ほら、ワインもあるわよ』
「「カンパーイ」」
◇
【深夜二時】
風間信は眠れなかった。
寝返りを打った際、隣にいた佳代子に腕が当たらず、つまり彼女がベッドの上にはいなかったのだ。化粧室だと考え、直ぐに戻ってくると思いきや、もう15分は過ぎていた。
(ま、まさか……佳代子のやつ元カレの部屋で会ってるんじゃないだろうな、オレに黙って元カレの部屋に行く。それって当然、アレしてるわけだろ、おい待てよ、ふざけんなよ、今回NTR成分はなかったんじゃないのか!? どうして佳代子が寝取られるんだよ)
なんだか雨漏りの音がする。外は吹雪だ、雨じゃない。すると答えは……
シャワー! 元カレと一緒に浴びてるんじゃないだろうな? くそぉ、見に行くぜ!
◇
【朝四時】
風間は眠れなかった。ベッドの上でじっとしていた。
この登山が終わったら、佳代子に婚約指輪を渡してプロポーズするつもりだった。
なぜ戻ってこない? いつまでトイレに籠っているんだ。
二時間もトイレに籠るなど常識的に考えても無理だろう。するとシャワーに近いよしくんの部屋か。先によしくんを探すか、佳代子を探すか、その場に佳代子がいたらどうする?
風間の運命を決める探索が今始まる!
◇
【朝七時】
(お、おかしい。なぜ佳代子もよしくんもいないんだ。部屋にいない、シャワールームにもいない、床下にもいない、外は吹雪いているままだ)
風間はリビングのソファに座って、佳代子たちを探していた疲れを癒していたところだった。
すると、誰もいなかった二階の部屋から佳代子が階段を降りてくる音がした。
「か、佳代子! お前、二階の誰もいなかった部屋から出てきたな! よしくんも一緒なんだろ!」
『ちょ、ちょっと待って。何言ってるの信くん』
「佳代子、お前、今まで浮気していたんだろ。元カレだもんな、よしくん、よしくんって何度も親しく呼びかけてさ。何だよ、俺という彼氏がいる前で、あろうことか元カレにすり寄ってラブラブ光線を出すなんて最低だな! せっかく下山したらプロポーズして結婚しようって予定を立ててたのにさ、酷い女だな佳代子。くそぉ、俺はどうしてお前みたいな尻軽女に掴まったんだよ、幼馴染からの縁か?」
『ちょっと落ち着いて!』
「落ち着けるもんか! 今まで俺の愛した彼女が、よしくんとやらの俺の全く知らないクソ男と一緒にベッドにいたんだろ? つまり寝取られじゃないか! 最低だよ」
『何言ってるのよ! わたしは一人でずっと居たし、化粧室から出てきてベッドで寝てたわよ。あなたこそ居なかったのに、何なのよ、もう!』
「な、なんだとぉ」
◇
【午前九時】
痴話げんかはようやく終わりを告げた。家なのに行方不明になっているよしくんを二人で探し始めた。
『ね、ねぇ、よしくん、いないよね』
「何回家探ししてもいないな。ひょっとして最初から彼は居なかったのでは?」
『ま、まさかぁ』
「いや、よく聞いたことがあるぞ。そもそも偶然にこの家で出会うか? 元カレに」
『だけどさ、よしくんが最初からいるいない関係なく、今ってまだ真っ暗よね?』
「そりゃそうだろ、夜なんだから」
『今、午前九時すぎなんだけど……』
「ま、まさか……」
『ねぇ信くん、朝が来ない……来ないわ……』
【Fin】
NTR成分はあまりありませんので楽しんでお読みくださいませ。
⇒作者は過去一回コレでやらかしています。
NTR成分ありませんよといいながらゴッツいNTR表現をしてしまいました。
『死の呼び声』
https://novema.jp/book/n1785784
◇
★やきにく企画の参加作品プレイバックパート2です。
★気になった方のみ:ミカジューの説明は……
”森の隠れ家(R15ギリアウトかも)”
https://novema.jp/book/n1764021/3



