透明な羽の君へ

 中央に立てた、ろうそくに火を灯す。

「ほんとに1本でよかったの?」
「うん。だって去年のお兄ちゃんのケーキ、すごいことになってたじゃん」

 たしかに去年の誕生日には、ふたりで食べ切れるサイズのケーキに年齢分、つまり合計17本のろうそくを灯したせいで、まるでケーキが燃えているようだった。

「ろうそく取ったら穴だらけだし」
「まあな」
「今年はプレートもつけてくれたし十分」

 市販のケーキ用プレートにチョコペンで『ひより17さい』と書くつもりが、スペースが足りず『ひより17』になってしまったけれど。蝋が垂れそうになり、急いで部屋を暗くする。
 ハッピーバースデーと歌うのは、母さんの亡くなった年からやめた。手作りケーキで祝う習慣だけは、きちんと続けている。

「ひより、17歳の誕生日おめでとう」
「ありがとう」
 
 ふたりの間で橙色の炎が揺れる。いつもは目を閉じて願い事をするのに、ひよりは俺の顔を見つめていた。蝋が垂れ、真っ白なケーキの表面に赤い染みをつくる。

「願い事は?」
「今からするよ。『最後の1年、お兄ちゃんと仲良くいられますように』」
「は?」

 次の瞬間、ふーと勢いよく吹きかけられた息で火が消えた。
 煙と、焦げた匂いと、衝撃が残る。


「わたし、来年結婚する」