幼馴染なので、付き合ってることにしました

――やってしまった。

夕暮れの通学路を、僕は一人、競歩並みのスピードで歩いていた。
家に帰るまでのたった十五分の道程が、こんなに長いと思ったのは初めてだ。
いつもなら、僕の隣には百八十cm越えの長身が歩いているはずだった。それが当たり前だった。
……なのに。
放課後、尚が教室で女子たちに捕まっている隙に、僕はリュックを掴んで「お先」とだけ言い捨て、文字通り脱兎のごとく逃げ出してきてしまった。
小一から高二になった今まで、一度だって一人で帰ったことなんてない。いつも尚と一緒だった。

教室から飛び出す瞬間、一瞬だけ見えた尚の顔を思い出すと胸の奥がチクチク痛む。
あんな顔をさせたかったわけじゃない。
でも、自分でもどうしたらいいか分からない。
尚の顔を見ると胸の奥が変になる。
名前を呼ばれるだけで脳みそが勝手にバグって何も考えられなくなる。
手が触れそうになっただけで、楽しみにしていた古典の授業中の絵しりとりでライオンのたてがみを爆発させてしまった。

すべての元凶は、ポケットの中にあるこのスマホだ。昨日の昼休みから、ずっと検索ばかりしている。
家に着くとリュックを放り投げて、制服のままベッドにダイブした。ポケットからスマホを引き抜くと検索履歴はひどいことになっていた。

『好き 意味』
『幼馴染 好き 違い』
『友達 独占欲 普通』
『ずっと一緒にいる人 取られたくない』

……何を調べているんだ僕は。

スマホを伏せてしばらく枕に顔をうずめていたが、やっぱりだめだ。
昨日の昼休みの出来事が頭から離れない。松風たちが踊っていた『ビッグラブの舞』ではない。あの動きはただの不審者だった。
女子から言われた「近江くんってほんと及川くんのこと好きだよね」「及川くんが誰かに取られたら嫌?」という言葉の方だ。
「嫌」と答えた時、考えるより先に答えていた。あれは、本当にただの幼馴染だからなのか。
……分からない。
だったらもう少し調べてみるしかない。

『友達 見ると安心する』
と打ち込んで、消す。そういえば、尚も女子たちも「付き合ってる」と言っていた。尚と付き合ってからも何も変わっていないから、僕は「付き合うってそういうことなんだ」と勝手に納得していた。
でも、本当は何も分かっていなかった。
付き合うって本当は何なんだ。好きってなんだ。

画面をスクロールしていくと『好きな人。つまり恋人同士は、手をつなぎたい、キスをしたいと思うものです』という文字が目に飛び込んできた。
……キス。
想像がつかない。そもそもしたことがない。
でも、もし尚が誰かと、僕の知らないところで唇を重ねていたら――絶対に嫌だ。考えただけで、ゲームで惨敗したときよりも最悪の気分がする。
じゃあ、僕は?
好きなら、キスしたいと思うらしい。検索結果によれば、それが男同士であってもおかしくはないみたいだ。
尚が好きなら、僕も、できるんじゃないか。
……だったら、試せばいい。