幼馴染と離れられないのは、呪いじゃなくて恋のせいでした

尚と並んで歩く帰り道、僕はふと昨夜ネットで読み漁った恋愛記事の一節を思い出した。

「尚、明日デートしよ」

唐突な僕の提案に、隣を歩いていた尚の足がつんのめって、盛大につまずきかけた。

「……っ、今、なんて言った?」
「デート」
「急すぎだろ」
「恋人だから」
「またそれ使う」
「便利」
「自覚あるんだな……」
「ある」

尚はお手上げと言わんばかりに肩をすくめた。
だって、ネットには本当にそう書いてあったんだ。『恋人になったら、一緒にデートへ行こう』と。

「でも俺ら毎日一緒にいるし、ゲーセンとかファミレスも行くじゃん。あれって立派なデートじゃないの?」
「違う」
「どこが違うんだよ」
「デートは待ち合わせする。僕は尚と待ち合わせしたい」

僕は足を止め、尚の目をまっすぐ見つめた。尚はその場で固まっている。

「いや、俺たち家隣じゃん」
「知ってる」
「出発地点同じじゃん」
「知ってる」
「だったら家から一緒に行けば――」
「だめ」
「なんでだよ」

それじゃだめなんだ。
普通の恋人は、待ち合わせをするらしい。家が隣だからって省略するものではない。これは重要だ。

「ネットに書いてあった」
「またネットか……」
「だから明日、駅前の噴水広場に尚は十三時集合な」
「だから、家隣だろ」
「僕は十三時十分に行く」
「十分遅れて来るの?」
「尚が先に立って待ってて、そこに僕が『待った?』って言って現れるのが王道」

ネットの記事に添付されていたイラストの構図は完璧だった。あれを絶対再現しなければならない。

「……俺が待つ側なのは確定なんだな」
「遅刻するなよ」
「それはほっくんだろ。てか、最初から十分遅れて来るって分かってる待ち合わせ、人生で初めてなんだけど」
「じゃあ、明日」

言い訳や反論は一切受け付けない。
僕はそれだけ言い捨てると、尚の返事も待たずに、自分の家の玄関へと滑り込んだ。

明日は、記念すべき初デートだ。
今日は呑気にゲームなんてやっている暇はない。恋人には、恋人として果たすべき重大な仕事があるんだ。

『デートの前には、プランをしっかり立てて恋人をエスコートしましょう』

ネットには太字でそう書いてあった。

初めてのデートなんだから、失敗は許されない。
明日、尚をびっくりさせるような、最高で完璧な作戦を考えなければ。