幼馴染と離れられないのは、呪いじゃなくて恋のせいでした

熱は寝たら治る。

……はずだった。

目を開けるたびに天井がぐるぐる回るし、頭は重いし、体は布団に縫い付けられたみたいに動かない。

「……あれ」

次に目が覚めた時、視界に飛び込んできたのは保健室の天井ではなく、見慣れた自分の部屋の天井だった。
どうやら昨日、放課後まで保健室でぐっすり眠っていた僕を、尚が家まで送ってくれたらしい。

――らしい、というのも。

「……覚えてない」

保健室に入ったところまでは覚えている。尚に怒られたことも、なんとなく覚えている。
それから眠って。
次に目を開けたら、自分の部屋のベッドの上だった。
その間の記憶だけが、ぽっかりと抜け落ちて消えている。

だから、その時の僕の様子については、今朝、母さんから聞いた話になる。
尚に付き添われて帰ってきた時の僕は、母さんいわく「巨大化した体育館に食べられる」と本気で怯えていたらしい。
迷惑極まりないバグり方だ。どうやら僕は、熱で脳の処理能力を大幅に失ってしまうらしい。僕の脳はもともと高性能ではないが、熱が出るとさらに性能が落ちる仕様のようだ。



「じゃあ、仕事行くからね。大人しく寝てなさいよ」

母さんはそう言い残すと、昼前には家を出て行った。
僕は一人、静かな部屋で寝たり起きたりを繰り返していた。

どれくらい時間が経ったのか分からないが、ぼんやり目を開けた時、玄関のドアが開く音がした。
……たぶん尚だ。

予想通り、すぐに部屋のドアが開いて、学校帰りの尚がビニール袋を片手に部屋へ入ってきた。

「ほっくん、生きてる?」
「……ん」

ベッドから起き上がろうとした瞬間、頭がぐらりと揺れる。

「起きなくていいよ」

尚の大きな手に肩を軽く押され、僕は再び吸い込まれるように枕へ沈む。

「ほら、水飲みな」
「……世界、ちょっと傾いてる」
「傾いてないよ」
「ほんと?」
「熱のせい」

尚のひんやりとした手が、僕のおでこに優しく当てられる。すごく冷たくて気持ちいい。

「うわ、まだ熱いな……」
「尚」
「どうした?」
「……天井、なんか遠い」
「いつもと同じだよ」
「……伸びた?」
「伸びてない」

そうか。
じゃあ僕が縮んだのかもしれない。

「縮んでもない」
「……何も言ってない」
「ほっくんの顔にそう書いてある」

尚は呆れたようにくすりと笑った。
それから体温計を脇へ挟まれ、数秒後、ピピッと電子音が鳴ると同時に体温計を引き抜かれる。

「三十八度八分。全然下がってねぇじゃん」
「……平熱」
「なわけあるか」
「誤差」
「大差だわ」
「じゃあ切り捨て」
「切り捨てとかないから。いいから水分摂れ」

尚の手元にはストローのささったペットボトルがいつの間にか用意されていて、ストローをくわえさせられる。
熱のせいで頭の内側からぐつぐつと沸騰していて、相変わらず空間認識能力は壊滅したままだが、尚が隣にいることだけは分かった。

「……尚が、二人いる」
「一人しかいねぇよ」
「右の尚と左の尚。……どっちが本物?」
「どっちも俺で、どっちも本物」
「双子?」
「違う」
「増えた?」
「増えてない」
「減った?」
「減ってもない」
「安心」
「何が安心なんだよ」
「尚、いるから」

やっぱり、尚がいるとすごく安心する。
気がついたらまた、深い眠りに落ちていた。