幼馴染と離れられないのは、呪いじゃなくて恋のせいでした

~尚side~

朝から、何かがおかしかった。

「ほっくん、今日の昼なに食う?」

普段なら、「ポテト」なんて購買では絶対売ってないものを要求してきたり、「尚の焼きそばパン奪う」とご丁寧に事前予告してきたりするはずだ。
なのに――。

「……カブトムシって樹液好きらしい」

……樹液?
一瞬、何を言われたのか本気で分からなかった。

「会話しろ」

思わず呆れ半分で笑ってしまう。
が、当の北斗は真顔のまま、首をちょこんと傾げた。

「会話してる」
「してねぇよ」
「樹液の話」
「今、昼飯の話してたよな?」
「……そう、かも」

やっぱり変だ。
いつもの北斗なら、会話のテンポや思考が斜め上の方向へ飛んでいくこと自体は決して珍しくない。むしろそれが日常の北斗だ。
だけど、今日のズレ方はどこか決定的に違っていた。

今日の北斗は、すべての反応そのものが遅い。
授業中、先生が黒板に文字を書く音に合わせて、北斗の頭が舟をこぐようにゆっくりと前後に揺れている。居眠りでもしているのかと思ったが、その瞳はしっかりと開いていた。開いたまま、虚空のどこかを見つめている。

「ほっくん」
「……ん?」
「寝てた?」
「……寝た、……てない」
「どっちだよ。……なんか考え事か?」

北斗は、んー、と少し長めの間を置いてから、ぽつりと呟いた。

「今日の空ってなんか近いなって」
「急に哲学始めた?」

本当に何なんだ。
名前を呼べば一応返事はするし、話しかければ言葉は返ってくる。
でも、その答えが一拍も二拍も遅れて返ってくる。
まるで頭の奥深くで、遠くにある何かを一生懸命に探し回っているみたいだった。

笑いながら返したけど、胸の奥には、拭いきれない小さな違和感が静かに残り続けている。