幼馴染と離れられないのは、呪いじゃなくて恋のせいでした

「僕の最高傑作。飲め」

先に作り終えて席で待っていた尚の前に、僕は本日の魔改造第一号を差し出した。
見た目はどす黒いドブ水そのもの。我ながらかなりのクオリティを誇る自信作だ。

「……何入れたんだよ。色もにおいもやべぇんだけど」
「メロンソーダ七割。コーラ一割。カルピス一割。ウーロン茶一割。隠し味にコーヒーを少々の最上級ブレンド」
「最低の間違いだろ。最後なんでコーヒー入れた」
「深み」
「深みじゃねぇよ」
「いちばん苦そうなやつ入れたから、絶対僕の勝ち。名付けて『暗黒の汚水』」
「ネーミングセンス死にすぎだろ」

僕の最高傑作を容赦なくディスっておきながら、尚はニヤリと笑って「じゃあ俺のな」と自信満々に自分のコップを差し出してきた。
コップの中身は、見るもおぞましい不気味な紫色に変色している。
香りからしてファンタグレープにジンジャーエール。たぶん尚お得意のコンポタも入っているはずだ。そのうえ、怪しい白い物体がコップの表面でぷかぷか浮遊していた。

「お前、これ違法薬物?」
「なわけねぇだろ。コーヒーフレッシュ入れたら溶けなかったんだよ」

飲んで、と尚がそのとんでもないゲテモノをさらに僕の方へ押し出してくる。
尚の作ったヤツこそ飲むのを本能で躊躇するレベルで色も匂いもすべてがヤバい。「ヤバい」以外の語彙力が消滅するくらいにはヤバい。

「ほっくん、飲んで」
「嫌」
「勝負だろ?」
「尚が先飲め」
「俺の方が先作り終わったんだから、ほっくんが先に飲んでよ」
「嫌だ」

絶対に飲みたくない。このゲテモノからは生命の危機を感じる。僕が本気で拒否して首を横に振ると、尚はふっと目を細めた。
当然、いつもの爽やか王子スマイルではない。ちょっと意地悪で、ドSな顔だ。
尚が身を乗り出してきて、僕の顔のすぐ近くまで顔を近づけてくる。

「……飲まないの?」
「飲まない」
「ふーん」

尚の口元が、楽しそうにニヤリと吊り上がった。

「恋人だろ?」

……っ!
それ、僕がいつも尚に使っている最強の切り札だ。

「恋人のお願い、聞いてくれないんだ?」

耳元で普段より一段低く囁かれて、脳みそが一瞬でショートを起こす。
いつも自分がやっているはずなのに、尚の低い声で同じフレーズを言われると、なんだか体の奥がむず痒くなって、その場から逃げ出したくなる。

「……反則」
「ほっくんがいつも俺に言ってることだよ」

余裕たっぷりに笑う尚の顔が腹立たしい。
悔しいけれど、ここで日怯んだら『恋人』として負けた気がする。

渋々受け取ったコップの表面で、炭酸がぱちぱちと不穏な音で弾けている。
意を決して一口飲み込めば、想像を遥かに超える破壊力が全身を襲ってきて、脳が警報を鳴らしまくった。

「どう?」
「雑巾」
「雑巾飲んだことあるの?」
「ない」
「じゃあ、俺の勝ち?」
「お前まだ飲んでない。早く飲め」

僕の力作を尚の口元へ突きつけると、尚は一瞬顔をひきつらせてから、覚悟を決めたように一気に飲み干した。
直後、よほど深刻なダメージをくらったのか、尚は机に突っ伏したまま動かなくなった。さっきまでの余裕を粉砕するには十分すぎる威力だったらしい。

……勝ったな。

「尚、死んだ?」

つついてみたら、ようやく「……ドブ水」と消え入りそうな声が腕の隙間から聞こえてきた。

「ドブ水飲んだことあるのか?」
「……ない」
「じゃあ、僕の勝ちだな」

その一言で、尚がガバッと勢いよく顔を上げた。

「ほっくん、一口しか飲んでないよね? ルール違反は負けちゃうよ?」

尚の口元が、またしてもニヤリと吊り上がる。
……もう復活したらしい。ゾンビかよ。

尚のコップは空。僕のコップはまだ大半が残っている。
あれの毒物もう一度体内に取り込むのは死ぬほど嫌だ。でも、負けるのはもっと嫌だ。それに、恋人のお願いは絶対だ。
覚悟を決め、残りを一気に飲み干す。

「…………僕の勝ち」
「なんでだよ!」
「尚のやつ、喉越しが完全に生ゴミ」
「だったら俺の勝ちだろ! それにほっくんちょっと涙目になってんじゃん!」
「なってない。これは勝利に歓喜した感動の涙」
「ほんと負けず嫌いだな。今日くらい負けを認めろって」

尚がいつもの爽やかスマイルでも、意地悪ドSな顔でもない、僕だけに見せるガキっぽい顔で意地になって言い返してくる。
やっぱり学校での『爽やか王子』なんて完全にメッキだ。僕の前では昔から勝ち負けですぐむきになるんだから。

恋人同士になっても、そういうところは全然変わらない。

それは……ほんの少しだけ安心した。